表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/131

ダメダメなヒロイン

「ギヤアッ!」

「ギャッ!」


 わたしにはエドモンドがピッチフォークを軽く横に薙いだようにしか見えなかったけど、二人の男はふっ飛んでしまった。


 その直後、残りの三人が同時に襲いかかって来た。


 エドモンドは、それをピッチフォークを軽く振り回すだけでやっつけてしまった。


 すごい……。


 彼の剣の腕前は、このソルダーニ皇国一だときいている。だけど、彼は剣だけじゃないのね。


「動くな」


 彼の強さに酔いしれていると、首に何かが巻き付いてきた。


 その何かは、太い毛むくじゃらの腕である。


「将軍閣下。こいつの命が惜しければ、それを捨てろ」


 うそーーーーーーーっ!


 わ、わたし、人質に取られちゃった?


 恐る恐る見回すと、さらに五名の男たちがどこからか現れていた。


 これって、「黒バラの暗殺者」に出てくるダメダメヒロインとまったく同じじゃない。


 あの小説に出てくるヒロインたちは、ぜったいにやっちゃいけないことやいらないことをやってしまったり、早く逃げればいいのにグズグズしていたりして、主人公やヒーローを力いっぱい窮地に立たせるのよね。


 あの小説に夢中になっていたわたしは、そういうシーンでヒロインたちがヘマをしでかすたびに、彼女たちを罵っていたっけ。


 それをいままさしくわたしがしている。

 ああ、情けない。


「将軍閣下。こいつの命が惜しくば、まずはそのピッチフォークを遠くへ捨てろ。それから、両手を上げるんだ」


 わたしを人質に取っている悪役、って悪役なんだから悪役って言っていいわよね?とにかく、わたしのすぐうしろでエドモンドに命じた。


「エドモンド様っ!ぼくのことはかまわないで、戦って下さい」


 これもまた「黒バラの暗殺者」のヒロインたちと同じ台詞だけど、これしか言えないわよね。


「ミオ……。わかった。言う通りにする。だから、彼には手を出すな。すぐに解放するんだ」


 彼の対応や言葉もまた、「黒バラの暗殺者」に出てくるヒーローと同じよね。


 エドモンドは、手に握るピッチフォークをまったく躊躇せずに遠くへ放った。それから、両手を上げた。


 ナイフを握る悪役たちが、エドモンドを囲んで距離を詰めてゆく。


「おっと、いっさい抵抗するなよ」

「わかっている。だから、彼を解放しろ」

「ふんっ!こいつを解放した瞬間、貴様はあっという間にそいつらを殴り殺すだろう?心配するな。貴様が死んだら、こいつはちゃんと解放してやるよ」


 悪役のいまの台詞も、「黒バラの暗殺者」の悪役とまったく同じじゃない。


「おいっ」


 エドモンドの低い声が耳に響いた。


「貴様ら、わたしを怒らせるなよ。彼にかすり傷一つでも負わせてみろ。貴様らにはラクに死なせてくれと泣いて頼むほどの苦痛を、必ずや味あわせてやる。けっして許しはしない」


 顎をひき、わたしを人質にとっている悪役をにらみつけるエドモンド。


 こんなエドモンドを見るのは、はじめてかもしれない。


 彼は軍人、しかも将軍とは思えないほど明るく気さくで心やさしい。皇太子殿下以外の他人にたいして怒っているところなど、見たことがない。


 まさしくこれが、静かなる怒りというのかしら。


 わたしのせいでこんなことになっているにもかかわらず、彼がかっこよすぎるって感じてしまう。


「ふ、ふんっ!な、なんだ?時間稼ぎか?おいっ、何をしている?早く始末しろ」


 悪役は、エドモンドの気にすっかりあてられてしまっている。しどろもどろに仲間に命じた。


「お、おうっ!」


 エドモンドを取り囲んでいる男たちは、さらに彼との間を詰める。


「お願いです。目的は、ぼくでしょう?エドモンド様は関係ないじゃないですか。ぼくを殺せばいいでしょう?」


 彼がわたしを傷つけさせたくないと言ってくれたように、わたしだって彼を傷つけさせたくない。


 だから、悪役の腕の中でじたばたともがきながら叫んだ。


「ああああ?ガキ、おまえなどもうどうでもいい。おまえより将軍のの首の方がよほど金になる」


 そう。そうなのね。わたしなんか、もうどうでもよくなっているわけね。

 

 ちょっと気分を害しちゃった。


『バンッ!』


 気落ちした瞬間、厩舎の奥の方からものすごい音がした。それこそ、驚きすぎて心臓が飛び跳ねるほどの音である。


 わたしだけじゃなく、悪役とその仲間たちもその音に驚いたみたい。


 わたしの首に巻かれている腕が、一瞬だけゆるんだ。


 そのチャンスを逃すほど、わたしもとどん臭くはない。


 乗馬靴で、悪役の足を思いっきり踏みつけてやった。


「いたっ!」


 悲鳴とともに、首から腕がはずれた。


 とにかく離れないと。


 転がるようにして駆けだした。つもりだった。


 だけど、つまずいてしまった。


 藁だらけの地面に両手をつき、顔面から転ぶのはかろうじて回避出来た。だけど、両膝を地面にぶつけてしまった。


 さいわいなことに、藁のおかげで両膝は擦りむいたりうったりはしなかったみたい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ