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ミオ 大ピンチ!

 って、うそーーーーーーーっ!


 な、何かが、は、走ってくるーーーーーっ!


 あきらかに、何者かがすごい勢いで迫って来る。


 怖すぎて振り返る余裕がない。


 大扉をつかもうとしたけど、手が届かなかった。そのタイミングで、何かが飛んできたような気がしたので右横に飛んで転がった。


 あっぶなーい!


 さっきまでわたしが居たところに、ナイフが突き出されている。


 すばやく上半身を起こし、お尻で後ろに下がりはじめた。そうしながら、相手を確認する。


 わお。黒いシャツに黒いズボン。それから、頭に黒いマスクをかぶっている。


 昔好きだった小説「黒バラの暗殺者」シリーズに出てくる、悪役そのままの恰好だわ。

 

 って、そんな呑気なこと言わないのよ、わたし。


 暗殺者もどきが体ごとわたしの方に向き、ナイフを片手にゆっくりと迫って来る。


 ああああ、どうしよう?


 マスクの中の目は、月明かりを吸収してギラギラしている。


 ナイフを握る手がピクリと動いた瞬間、思いきって横に転がった。同時に腕を伸ばすと、壁に立てかけてあるピッチフォークの柄にうまく手が当たった。


 それをしっかりと掴みながら、片膝をついて上半身をひねった。同時に、思いっきりピッチフォークを突き出した。


「ぎゃっ」


 尻尾を踏まれた猫のような悲鳴とともに、暗殺者もどきの手からナイフがはじけ飛んだ。


 ナイフを持つ手に、奇跡的にピッチフォークが当たったらしい。


 暗殺者もどきは、その手をもう片方の手でおさえている。


「くそっ!そんなやわなガキ相手に何をしている」


 はああああああ?


 厩舎の奥から、さらに五名の暗殺者もどきがあらわれたじゃない。


 全員が同じ恰好である。


 いったいなんなの?

 こんなに大勢で飼葉に下剤でも混ぜに来たのかしら?


 はははっ!まさかわたしを始末しに、なんてことはないわよね?


 たかが馬で駆けくらべをするくらいのことで?


「す、すみません」

「役立たずめ。どけっ、おれがやる」


 縦にも横にも立派で威圧感のある男が、さきほどのナイフ男をおしのけ、こちらに向かって来る。


 腰を落としてピッチフォークを構えてみたけど、相手はあきらかに強そうだし、こういう暴力に慣れているのがよくわかる。


 かなうわけなんてないわよ、ね?


 絶望的な気持ちの中、迫りくる男がナイフを抜いた。と、認識したときには、彼は地を蹴りわたしに襲い掛かっていた。


 瞼を閉じるくらいしか反応出来なかった。


『バキッ!』


 いままさにナイフで斬り裂かれようとした瞬間、鈍い音がした。


「ぐううううっ」


 その直後、うめき声が地面から這い上がって来た。


「ミオ、大丈夫か?ケガはないか?」


 この声は……。


 肩に置かれた手はあたたかくてやさしくて、なにより心強い。


 瞼を開けて確認するまでもない。


「怖い思いをさせてすまない。くそっ!わたしが遅くなったばかりに、きみを危険にさらしてしまった」


 エドモンドの苦しそうなつぶやきに、ドキリとしてしまった。

 同時に、ホッとした。


「エドモンド様っ!」


 瞼を開けると、わたしを守るように立ちはだかる彼の背が目に飛び込んできた。うれしくて、つい彼の名を大声で叫んでしまった。


「エドモンド……」

「将軍……」


 黒ずくめの男たちが、いっせいにつぶやいた。


 わたしのバカバカ。


 あいつらにわざわざ彼のことを教えてやる必要なんてなかったじゃない。


 ふと地面を見下ろした。


 エドモンドに殴られたのね。さっき襲いかかって来た男が顎をおさえながら転がっている。


「ど、どうする?」

「これは好機。やるんだ」

「褒美がでるぞ」


 男たちはぼそぼそと話し合っていたが、どうするか決まったらしい。


 まずい方に。

 今度は、わたしだけじゃない。エドモンドも窮地に立たせてしまった。


 彼に何かあれば、皇太子殿下が悲しむわ。いいえ、皇太子殿下だけじゃない。リベリオやモレノをはじめ、大勢の人々が悲しむことになる。


「ミオ、いまのうちにここから出て本厩舎の方へ走れ」

「でも、エドモンド様が……」

「わたしは大丈夫。さあ、早く。連中の仲間はまだいるかもしれない。連中が迷っているうちに逃げるんだ」


 エドモンドは、わたしの手からピッチフォークをひったくった。それから、わたしの肩を軽くおして促した。


 でも、彼を一人にして自分だけ逃げるわけにはいかない。


 グズグズと迷ってしまう。


「ミオ、お願いだから行ってくれ」


 彼がちらりとこちらを向いたタイミングで、二人の男がナイフを振りかざして襲いかかって来た。


 それを、彼は振り返ることなくピッチフォークを横薙ぎに一閃させた。





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