ミオは残念な人
「素敵よね」
「胸がドキドキしているわ」
控え室に戻ると、なぜかセリアとクロエは興奮していて、アマンダにパオロの話を競うようにして伝えている。
「まぁ……、素敵。侯爵令嬢とパオロ様ってお似合いですもの」
アマンダも感動しているみたい。
「とっても素敵だわ。よかったですわね、将軍閣下。あなたはフラれたというわけですわよ」
「ふざけるなよ、リベリオ。でもまぁたしかに、ミシェル嬢のような清楚で可憐なレディは、わたしのような野蛮人よりパオロのような知的な男性の方がお似合いだ」
リベリオがアマンダたちの真似をすると、エドモンドは苦笑した。
っていうか、どういう意味なの?
「どういう意味でしょうか?ミシェル様とパオロさんは顔見知りなんですよね?」
確認をした瞬間、全員がいっせいにわたしを見た。
「なんだって?ミオ、まさかきみは気がついていないのか?」
「そうなんです、参謀閣下。ミオさん、その、少し感覚がないようで」
「可愛くって頭脳明晰なのに、ちょっと残念みたいです」
リベリオの驚きの声に続き、セリアとクロエが顔をふりふり残念がっている。
「そうかそうか。いやー、将軍閣下。ミオはそうみたいですよ。あははは、これは面白い」
リベリオは一人、エドモンドの肩を叩いて面白がっている。
そのエドモンドと視線が合った。
困っているというか驚きというか、何とも表現の出来ない笑みが浮かんでいる。
わたしには、その笑みも含めてわけがわからない。
デートのはずが、とんだ一夜となってしまった。
その数日後、わたしは皇太子殿下からお借りしたバルドとすごしている。
例の勝負に向け、厩舎に泊り込むことになったのである。
もっとも、厩舎にはエドモンド軍の精鋭の兵士たちが交代で詰めてくれている。
宰相派やバラド軍側の工作に対処してのことである。
実際の競争は、軍の調練場で行われる。距離にすれば、往復で二キロ弱。バルドの持久力なら、まったき問題ない距離である。
というわけで、馬場をぐるぐるまわるだけでは練習にはならない。
決戦の日まであと数日。
一番いいのは、野山を駆けまわることだけど、そんな時間や手間はかけていられない。
だから、実際に走る調練場で練習を重ねた。
エドモンド軍の調練のときに、一部分を使わせてもらうのである。
その際、エドモンド軍の騎兵たちが相手をしてくれた。
バルドにとってもわたしにとっても、いい刺激だしなにより実戦に即しての練習になる。
ときには、エドモンドがリコに乗って相手をしてくれた。
その夕方、練習を終えて厩舎に戻る途中、パオロが皇宮のある方角からやって来るのに気がついた。
「やあ、ミオ」
わたしのうしろをついて来ている護衛の兵卒たちが、いっせいに最敬礼をする。
パオロは、挨拶を返してからわたしと肩を並べて歩きだした。
「調子はどうだい?」
「絶好調です。バルドは、さすがです。当日も、最高の走りをしてくれるはずですよ」
「それはよかった」
「何かあったんですか?」
パオロがじきじきにやって来るなんて、何かあったのかとドキッとしてしまう。
「じつは、カルデローネ家から招待されてね。ほら、この前のデートのとき、ミシェル嬢を介抱しただろう?そのお礼をしたい、と。来週、この勝負が終わってから、カルデローネ家の別荘にいかがですか、と」
え?
頭の中に、ロゼッタが意地悪な笑い声を上げている場面が思い浮かべてしまった。
「招待主は、ミシェル嬢自身だよ。あのときのメンバー全員がゲストとして招かれている。アマンダとセリアとクロエもだ。アマンダを通じて、二人にも声をかけている。もちろんミオ、きみもだ」
「エドモンド様やリベリオさんやモレノさんも?」
「もちろん。さすがに殿下は、だがね。だけど、お忍びで行くかもしれないな。なぜか、行きたそうにされていたから」
招待してくれるのがミシェルなら、みんなで行ったら楽しいかもしれない。
「じゃあ、ぼくも行きます」
「きまりだ。楽しみだな」
パオロは、ニコニコして本当に楽しそうにしている。
「うれしそうですね、パオロさん?」
「あ?そ、そうかな」
「そうですよね。みんなで行ったら楽しいはずです」
「あ、ああ。そうだな。じゃあ、わたしは行くよ。心おきなく楽しめるよう、仕事をやっておかなければ」
「すみません。ぼくの分までやってもらって」
当然、わたしは本来の仕事をしていない。その分は彼がやってくれているわけで……。
「おいおい、きみもちゃんと仕事をしているだろう?しかも、きみにしか出来ないことだ。ムチャしない程度にがんばってくれ」
「はい」
彼に元気づけられてしまった。それから、勇気ももらった気がする。
みんなですごせる楽しいひとときに向け、ますます気合が入った。




