テートを楽しむ
アマンダもそうだけど、セリアとクロエも遠い辺境の地の出身らしい。彼女たちは、お給金のほとんどを家族に仕送りしている。だから、自分のものを購入する余裕がない。
手持ちのドレスは、彼女たちにとって唯一の贅沢品らしい。
三人とも、だれかが着古したドレスを安価で譲ってもらったという。
そんなことを思えば、わたしは幸運である。出自はもちろんのこと、サラボ王国を逃げだした後も幸運だった。
バルドがエドモンドたちのもとから逃げださなかったら、わたしはきっとどこか田舎の食堂か何かで働いていたかもしれない。いいえ、食堂どころか仕事にありつけたかどうかもわからない。
どこかで野垂れ死んでいたかもしれないのである。
そんなことを思いながら、いつものようにまずはエドモンドの部下の兵士ブノワの実家の食堂で夕食を楽しんだ。
使節団の大豆のレシピでお世話になってから、わたしも常連客になっている。
もちろん、食事代は男性が払うべきものである。
パオロとモレノとわたしとでワリカンにした。
それから、少し歩いてカフェに行こうということになった。
そのカフェもまた、エドモンドの部下の兵士カミーユの実家で、わたしも常連客になっている。
お昼間はカフェだけど、夜間はお酒も提供するバーにかわるのである。
というわけで、街の中心部をブラブラ歩いている。
意外にも、この三対三のデートは楽しい。わたしだけでなく、他のみんなも盛り上がっている。
これなら、中級や上級メイドもいけるかも。
ひそかにほくそ笑んでしまった。
「すごい人出だな」
公園を横切っているときから、劇場の前に貴族たちの馬車が何十台と行き来をしたり主をおろしているのが見えた。
「今夜、芝居があるんだ。ほら、リベリオが芝居に行くって言っていただろう?」
モレノに言われ、あぁそういえば、と思いだした。
「年に一度上演される古典的なストーリーらしい。皇太子殿下もいらっしゃるようだ。『今夜はミオもわたしもデートだから夜の当番は休ませてもらいます』と皇太子殿下に伝えに行ったら、皇太子殿下も『今夜は芝居に行くからついていてくれなくてもいい』とおっしゃっていた。その芝居、王族は出席する習わしだからね」
パオロが説明をしてくれた。
「それにしても、大勢の貴族の方々がいらっしゃっていますね」
アマンダが背伸びをして見ている。
「行ってみよう」
パオロの提案で、劇場の前まで行ってみた。
当然のことながら、わたしたちはチケットを持っていない。舞台を鑑賞することは出来ない。
それでも、雰囲気は味わえる。
四頭立ての馬車がほとんどである。ぞくぞくとやって来ては、貴族をおろしてゆく。そのほとんどがカップルで、男性はタキシードを着用し、女性はきらびやかであったり控えめだけど高価そうな衣裳に身を包んでいる。
アマンダたち三人は、嘆息とともに上流階級の人々を見ている。
「美しいですよね」
「そうですね。みなさん、キラキラ輝やいていらっしゃいます」
アマンダがうっとりした表情でつぶやいたので同意した。
「そうかな。たしかに美しいけど、それは高価で煌びやかなドレスに身を包んでいるからだよ、アマンダ」
すると、モレノが苦笑とともに言った。
「きみの方が、よほどキラキラ輝いているし、美しいよ」
大柄なモレノは、アマンダにそう告げてから照れ笑いを浮かべた。
やだ……。
モレノったら、何を言いだすの?
「そ、そんな。閣下、わたしをからかわないでください」
気の毒に、アマンダは真っ赤になってうつむいている。
「そうですよ、モレノさん。アマンダさんをからかったらかわいそう……、いたっ!」
モレノを非難している途中で、パオロに肩を軽く叩かれてしまった。
「ミオ、きみはだまっていろよ」
パオロがささやいてきた。なぜか、セリアとクロエが驚き顔でわたしを見ている。
「だまっていろって、どうしてですか?人をからかうのってよくありませ……」
「きみは、鈍感だな。驚いたよ」
「そうですよ、ミオさん。食事の間、気がつかなかったんですか?」
「あんなにわかりやすかったのに。まったく気がついていないミオさんって、ちょっと可愛いかも」
パオロとセリアとクロエは、苦笑とともに言ってきたけど、何を言っているのかまったく理解出来ない。
そのとき、六頭立ての馬車が到着した。
執事の一人が馬車の扉を開けると、馬車を囲む貴族の間から歓声が起こった。
皇太子殿下があらわれ、手を上げ歓声に応えた。それから、踏み台を降りて振り返り手を差し伸べる。
つづいて現れたのは、ロゼッタ・カルデローネである。わたしとひと悶着あった侯爵令嬢だ。
皇太子殿下の手を取り、彼女も歓声に応えてから馬車を降りた。
まぁ……。美男美女って、まさしくこういうことを言うのね。
胸のどこかがチリチリする。




