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皇太子殿下とエドモンドは気がついているの?

「正直なところ、他人ひとの性癖なんてことはわからない。だが、すくなくともあの兄弟はきみに気がある。それが、きみを男性としてか女性としてか、まではわからんがね。昨夜だって、二人ともおれをきみから遠ざけようと躍起になっていただろう?これまでにもそういうことはなかったか?まぁ、きみはとんでもなく鈍感だから、気がついていないのかもしれないが」


 言葉もない。


 そう言われてみれば……。


 そうなのかしら?正直、よくわからない。


 いえ、そんなことはどうでもいい。


 皇太子殿下とエドモンドに見破られているかどうか、よ。


「もちろん、いますぐに、というわけじゃない。よくかんがえてくれていい」

「それは、さきほどのサンドロさんのときとおなじ口説き文句ですよね?」

「はあ?ミオ、いや、本名は別なんだろうな。この際、それはどうでもいいか。彼の場合は口説いているんじゃない、まあ、引き抜くという意味ではそうなのかもしれないが、きみとはちがう意味だ。というよりかは、おれの話をきいてくれていたか?おれは、きみに、きみに妻に、妻になって……」

「ミオッ!」


 彼がしどろもどろに何か言っているところに、うしろからだれかに呼ばれてしまった。振り返ると、上級メイドの人たちがゾロゾロとやって来る。


 それぞれの担当の皇子たちに就寝前のお茶とお菓子を運び、勤務が終わったのね。


「まぁ、王太子殿下」


 王太子殿下の美貌は、メイドたちの間でも話の的になっている。


 全員がいっせいに礼を施した。


「や、やあ、こんばんは」

「王太子殿下を客殿にお送りしているところなんです」


 なぜか、きかれてもいないのに説明していた。


 正直なところ、彼女たちがあらわれたことにホッとしている。


「では、ごいっしょに。この後、ミオに話がありますので」


 上級メイドのリーダー格の言葉に、息をのんでしまった。


 きっとデートの打ち合わせのことにちがいない。


 結局、みんなで王太子殿下を送った。


「ミオ、前向きにかんがえてみてくれ。いい返事を期待しているから」


 彼の部屋の前にいたったとき、彼がそうささやいてきた。


 ひきつった笑みでしか応じられなかった。


 なんなの?


 どうすればいいの?皇太子殿下とエドモンドは、気がついているの?


 わたしの意識はそのことにしか向いておらず、上級メイドたちが勝手にデートの日取りを決めてしまったことに気がつかなかった。



 その夜、久しぶりに眠れなかった、ように思いこんでいたけど、いつの間にか眠っていたみたい。しかも、窓を開けたまま眠ってしまっていた。


 いまでも夜明け前に目が覚めてしまう。


 師匠のもとで調教助手をしていたときの名残である。


 真夜中のねっとりとした冷気が開け放たれた窓から侵入し、顔にこびりついたので目が覚めてしまった。


 いつもだったら、二度寝が出来るってよろこんでまた目を閉じてしまう。


 そうだ。今朝は、師匠やみんなに会いに行ってみよう。


 みんなというのは、馬たちであることは言うまでもない。


 そうと決まれば即行動、がモットーである。


 乗馬服をひっぱりだしてきて手早く着替え、寮を出て厩舎へと向かった。


 森の中を歩きながら、思いは皇太子殿下とエドモンドへと向いてしまう。


 二人は気がついているのだろうか。気がついていて、王太子殿下のように気がつかないふりをしてくれているのだろうか。


 いまさらだけど、二人のわたしへの絡み具合は度を越えている気がする。


 ということは、やはり気がつかないふりをしてくれている?


 でも、まったく気がついていない可能性だってある。


 実際、気がついているのは王太子殿下だけである。


 同性であるはずのメイドたちだってだれ一人気がついていないし、師匠だって同じ屋根の下でいっしょに暮していたのにまったく気がついていない。


 まさか、師匠も気がついていないふりをしている?

 そんなことはないわよね?


 皇太子殿下とエドモンドが気がついていなくって、わたしを男としてあれだけ絡んできているのなら、それはそれで問題かもしれないけど。

 気がついていて絡んできているのなら、わたしをからかっているんだわ。


 どちらにしても、気まずくって仕方がない。それだったら、いっそ王太子殿下といっしょにトラパーニ国に行くべき?もちろん、王太子殿下の妃とか婚約者とかそんなものになるつもりはまったくない。いまのところ、彼に対して何かしらの感情を抱いているというわけではない。まぁ、たしかに美形だし一緒にいて楽しい人だから気にならないわけではない。だけど、最近は周囲が美形ばかりだから、見慣れてもいる。つまり、ちょっとやそっとじゃ『キャーッ!』ってことにならない。


 第一、王太子殿下はわたしのことを面白がっている。連れて帰って、わたしが面白いことでもしでかすのを見て笑ってやろうと思っているのにちがいない。


 でも、もしも王太子殿下についていくのなら、一人の青年として王太子殿下の使い走りとか雑用とか、そんなことをさせてもらうので充分である。


 ダメダメ。やはりダメよ。


 皇太子殿下やエドモンドたちを騙したままここを去るなんて、そんなことはダメ。


 タルキ国の王女であることは言えないけれど、せめて本当は女性だって打ち明け、騙し続けたことはきちんと謝罪しないと。


 たとえそれが罪になって罰せらることになろうとも。


 それに、わたしの居場所がやっと出来たのに、その場所を失いたくないという気持ちもある。



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