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サンドロ、誘われる

「負けることがわかっていても、戦わねばならない。そこまでの覚悟なのか、ランベール?兄バカと笑われるかもしれないが、エドモンドの将軍としての実力は相当なものだぞ。副官と参謀を合わせれば、この大陸でも五本の指に入る。それを相手にしなければならない。覚悟は出来ているのか?」

「ああ」

「それ以前に、いまここで災厄の芽を摘み取るという手もある。エドモンドは将軍としてだけでなく、剣や格闘もこの皇国一だ。きみとテオドールの首を、瞬時にしてへし折ることが出来る」


 皇太子殿下らしからぬ脅しに、王太子殿下は笑声を上げた。


「ベルトランド、すくなくともきみはそんなことはしない。エドモンドもだ。きみらは、そんな卑怯な手は使わない」


 そして、王太子殿下は笑いをおさめるとそう断言した。


 睨み合う二人を見ていると、嫌でも緊張が高まってしまう。


「きいたか、エドモンド。わたしたちは、ずいぶんとかいかぶられているようだ。まいったな。わかった、わかったよ。ランベール、きみの勝ちだ。トラパーニ国の国民に罪はない。きみにそこまでの覚悟をさせるほど、いまのトラパーニ国は飢えに苦しんでいるんだろう。エドモンド、タルキ国に駐留しているおまえの軍に早馬を送り、大豆と小麦を早急にトラパーニ国に輸送するよう命じてくれ」

「ですが兄上、宰相とひと悶着が……」

「かまうものか。どうせ一度はやりあわねばならない。政治的にしろ軍事的にしろ、いつかはぶつからねばならない。このままでは、わが皇国の民にも影響をあたえることになる」

「下手をすると、軍同士がぶつかりあうことになるかもしれません」

「そこは、おまえがいるからな。信じているぞ」


 なんてことなの……。


 トラパーニ国を助けるために、内々で衝突があるかもしれない。


 王太子殿下も、複雑な表情で皇太子殿下を見つめている。


「いまの話は非公式だ。サンドロ、いいな?けっして口外するな」

「は、はい。大丈夫です。というよりかは、わたしには話の内容がよくわかりませんでしたし」

「それでいい。さあ、この話はここまでだ。ミオ、サンドロ、ランドールとテオドールを案内してやってくれ。エドモンド、おまえはいっしょに来てくれ。パオロとリベリオを呼んで事情を話し、叱られなければならない」

「ええ、そうですね。二人の小言は数時間続くことでしょう」


 そんな二人の背中を見送ってから、あらためて王太子殿下とテオドールを美術鑑賞に誘い、案内をした。


 サンドロは、大廊下だけでなく皇宮内のいろんなところに飾られている絵画や彫刻などの美術品を要領よく案内してくれた。


 その合間に、サンドロは自分の境遇を語った。

 サンドロのお蔭で、駆け足だけど皇宮内の美術品のほとんどを見ることが出来た。

 

 アトリエにある美術品以外、だけど。


「どうだ、サンドロ。トラパーニに来ないか?いまの待遇よりずっといい待遇にするし、なんなら故郷の家族を呼び寄せてもいい。家族ともども生活の保障をする。絵の勉強や絵を描くことに専念してくれていい。ときどき、テオドールの話し相手になってくれたり、いっしょに絵を描いてくれればいい。こいつは、おれに似ず人見知りが激しくて独りぼっちですごすことが多い。おれもかまってやれる時間は多くない。友人として、絵描き仲間として来てくれればありがたい」


 大広間まで戻って来たとき、王太子殿下がサンドロを勧誘しはじめた。


 驚きすぎて、自分の耳を疑ってしまった。


 破格の引き抜きだからである。


 サンドロは、遠い異国の貧しい家の出身である。一縷の望みを賭け、ソルダーニ皇国にやって来て成功した。まだその途中ではあるけれど、成功したと言っても過言ではない。


 いま以上の待遇が提示されたのである。しかも、大国トラパーニ国の王子の一人の親友という立場が約束された。彼の家族も含め、王太子の庇護を受けることが出来る。


 サンドロをそっとうかがうと、彼はあきらかに戸惑っている。彼もまた、自分の耳をうたがっているにちがいない。


「明日、帰国する。いますぐでなくていい。かんがえてみてくれないか?その気になれば、トラパーニに来てくれればいい。いつでも大歓迎だ。もっとも、明日、ともに来てくれれば最高なんだが」


 サンドロは、うなずくのがやっとだったみたい。


「こいつがだれかと意気投合するなんて、奇蹟的だ。テオ、もうしばらくサンドロと絵談義でもするといい。サンドロ、悪いがもうすこし付き合ってやってくれ」

「サンドロさん、寮で話をされてはいかがですか?夕食も食べれますし」

「そうだった。絵のことで夕食のことをすっかり忘れていた」

「それで、話が終わったら、客殿にテオドール様を送ってほしいのです」

「いいですとも。王子殿下、まいりましょう。夕食を食べたら、寮のわたしの部屋にある絵もご覧になってください」

「ええ、ええ、もちろん」


 テオドールとサンドロは、連れだって去って行った。






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