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サンドロとテオドール

「王子殿下、サンドロ・ファラーチと申します。お会い出来て光栄です」

「王子殿下、だなんて……。そんな紹介のされ方ははじめてです」

「あ、申し訳ありません。ですが……」

「いいのです。いつもランベール・モランドの弟とか側近とか、ぼくはそういう風にしか認識されていないのです。一応王子の一人ではあるんですが、兄以外はそのことを認めてくれなくって。ですので、そういう風に紹介してもらえてうれしかったのです。サンドロさん、テオドール・モランドです。こちらこそ、お会い出来て光栄です」

「サンドロさん。いまちょうど大広間のあなたの大傑作の一作を、テオドール様にお見せしようとしていたところなんです」

「それは光栄すぎますね。是非ともわたしに案内をさせてください」


 というわけで、サンドロも交えて大広間に向った。すると、大広間に到着するまでに二人はすっかり意気投合してしまった。


 どうやら、わたしはもう必要ないみたい。


 というくらい、二人は絵の話で盛り上がっている。


 よかった。テオドールはすっかり元気になっている。



 彼もまた、王太子殿下同様サンドロの海の絵を見て涙を流した。


 方向音痴が兄譲りだとしたら、感動屋というところも兄譲りみたい。



 それを見たサンドロも感動している。

 

 王太子殿下もまた涙を流していたのだと、彼に伝えた。それから、この絵を描いたあなたに会いたがっている、とも。


 テオドールはひとしきり感動した後、つぎは絵の技法とか心構え的なこととか、サンドロに質問したり意見を出し合ったりして熱く語り合いはじめた。


 とそこに、またしても皇太子殿下があらわれた。エドワードと王太子殿下もいっしょである。


 会食は滞りなく終了したらしい。


 皇太子殿下もエドワードも、テオドールとわたしが食堂を去ってから、王太子殿下から第一王子のことをきかされ、謝罪されたという。


 だまされた、ごまかされたのである。本来であれば、国をあげて糾弾すべき内容かもしれない。だけど、皇太子殿下は王太子殿下とテオドールの境遇が自分たちと似通っている、いえ、ほぼおなじであることに共感を覚えたにちがいない。


 皇太子殿下はとくに気を悪くしたふうでもなく、あらためてテオドールと握手をかわして挨拶をした。


 エドモンドも同様である。


「ずいぶんと真面目で控えめな弟じゃないか」


 海の絵を前にし、皇太子殿下がテオドールについてだれにともなくつぶやいた。


「それは、どういう意味だ?おれと比較しているのか?」

「それは、どういう意味なのです?わたしと比較しているのですか?」


 王太子殿下とエドモンドが同時に叫んだ。


「どうしたんだ、二人とも?いまのつぶやきにまったく他意はないんだが」

「いいや、充分あるように感じられたのだが?」


 皇太子殿下の驚いたような反応に、王太子殿下がやり返すと、エドモンドもうんうんとうなずいている。


「二人とも身に覚えがあるからこそ、そう感じられるのだろう」

「ほら、やはり嫌味なのではないですか」


 エドモンドが呆れ顔で言い返すと、皇太子殿下は笑いはじめた。


 わたしも笑ってしまった。


「ランベール、会談で言い忘れていることがあるのではないのか?もしくは、言えなかったことがあるのではないのか?」


 みんなでひとしきり笑った後、皇太子殿下が静かに尋ねた。


 その瞬間、王太子殿下とテオドールが顔を見合わせた。


「ああ。その通りだよ、ベルトランド」


 王太子殿下はテオドールがうなずいたのを見、認めた。


「その調子だと、おれの頼み事の内容もわかっているのだろう?それから、会談で言わなかった理由も」

「ああ。わかっているつもりだ。もっとも、わたしに気がつかせてくれたのは……」

「ミオ、だな?」


 王太子殿下が言い、皇太子殿下といっしょにこちらを見た。


「ランベール。皇太子とはいえ、わたしにどれだけ権限があるか、きみはこの二日間で感じているだろう?正直なところ、わたしの立場はきみのそれより弱い。タルキ国の管理をしているのは、宰相派だ。ランベール。きみが頼みごとをする相手は、宰相であってわたしではない」


 急に空気がピリピリとしはじめた。それが、容赦なく肌を刺す。


 だれもが皇太子殿下と王太子殿下の会話を緊張の面持ちでききいっている。


「ならば、わがトラパーニ国は宣戦布告せねばならない。軍事力でもって、タルキ国からソルダーニ皇国軍を追いだすことになるだろう」

「王太子殿下、お言葉ながらそれは不可能です。現在、タルキ国を守護しているのはわたしの軍です。宰相派の軍なら、トラパーニ国にも勝ち目があったでしょう。ですが、わたしの軍を相手にということになれば、トラパーニ国軍に勝ち目はない」


 エドモンドは、きっぱりと言いきった。


 彼にしては強気である。


 彼の軍は、それほど強いのかもしれない。


 兵士たちが真っ裸で廊下を駆けまわることはあっても、戦争になれば無敵にちがいない。





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