トラパーニ国の第一王子?
「だとしても、ダメだ」
「そうだ。彼がやるくらいなら、いっそわたしが……」
「殿下、エドモンド様。ぼくのくだらない感情のせいでご迷惑をおかけして申し訳ございません。自分で蒔いた種です。その、負けてしまうと思いますが、せめて受けた勝負はちゃんとやり遂げたいんです。非力でも、卑怯者にはなりたくありません。お願いです、殿下、エドモンド様。ぼくに勝負をさせてください」
深々と頭を下げてお願いしてみた。
それこそ、トラパーニ国の王太子殿下の「熱くぶつかる」ではないけれど、その勢いでもって頼んでみた。
「わたしも観覧する。そして、競争の途中でもなにか危険な行為を認めれば、即座に中止する」
「兄上、ダメです……」
「エドワード、おまえも目を光らせるんだ」
皇太子殿下にそう命じられれば、エドワードも従うしかない。
「わかりました。ミオ、充分気をつけてくれ」
「はい、エドワード様。でも、もしかしたら、向こうはそんな約束忘れるかもしれませんしね」
トラパーニ国とのことがまだある。そのどさくさに忘れてしまうかも。
笑顔でみんなを順番に見て行くと、みんな呆れ返っているような表情で肩をすくめた。
わかっています。わたしが楽観的すぎるのね。
翌日、使節団への食事は大豆ミートを使った料理を中心に饗した。
夜には、内々だけで会食をする。王太子殿下は誘わなくてもいい、と言っていたが、第一王子を誘わないわけにはいかない。
王太子殿下と第一王子、それからその側近たち、こちら側は皇太子殿下とエドワードと側近たち。
それだけで行われることになった。
当然、わたしも参加する。
日中は会談が行われた。
大豆の件はどうなっただろう。というか、使節団の目的は本当に大豆だったのだろうか。
だれにとってもよりよい方法で解決してほしい。
そう願いながら、忙しくすごしている。
が、思いのほか早く終わった。
会談が、である。
その後すぐに皇太子殿下の執務室を訪れて会談の様子を尋ねてみたが、とくに大豆の話は出ず、ありきたりな取り決めがなされただけだったらしい。
それであれば、第一王子だけでじゅうぶんではなかったのだろうか。
王太子殿下じきじきにやって来る必要などなかったのではないのか。
王太子殿下は、ある意味では要領がよすぎる。
会談だと、宰相が足元をみることがわかっている。
会食の際に切り出すのかもしれない。
その会食は、ずいぶんと早くから行われた。
皇太子殿下は、「どうせ美術品を見る時間を作りたいんだろう」と推測した。
わたしもそう思う。
会食には、王太子殿下と第一王子、それぞれの側近がそろってやって来た。こちら側は、皇太子殿下とエドモンド、パオロとリベリオとモレノ、それとわたしである。
王太子殿下の側近二人は、あの夜市の際に王太子殿下を捜していたあの二人である。
会食がはじまる前、あらためてお礼を言われた。
それから、おごった分の支払いもする、と。
もちろん、いただくわけにはいかない。丁重にお断りすると、かえって恐縮されてしまった。
わたしの素性を知っているはずなのに、ずいぶんと腰の低い人たちである。
第一王子の名が、ジルベルト・モランドであることを、このときになってはじめて知った。
会食中も存在感がまるでない。ひっそりとしている。
王太子殿下もそれが当たり前のようにふるまっている。一人、ペラペラと話をしている。
あまりにも気の毒で、ついこっそり声をかけてしまった。
「殿下、お口にあいませんでしょうか?」
今回は、より親密に出来るよう場所を食堂にした。長テーブルの幅も広くなく、テーブルをはさんで右斜めまえにいる第一王子にも、ささやき声でも充分声は届く。
「あ、ええ、ええ。昨夜といい今夜といい、とても美味しいです」
彼は、突然声をかけられて驚いたようである。
テーブル上から慌てて顔を上げた。
ちょっと小太りだけど、可愛らしい顔立ちである。
「恐れ入ります」
にっこり微笑むと、彼はやさしい笑みを返してきた。
そんなに無能な感じはしないけど。
すると、第一王子の側近の一人が鼻を鳴らした。ずいぶんと横柄な態度で、第一王子より態度が大きい。
もう一人の側近もまた同様で、あからさまに見下した目つきをしている。
失礼だと思いつつ、またテーブル上に視線を落とした第一王子を観察した。
短く刈り揃えた髪は黒色で、さきほど見合わせた瞳はブラウン色。
たしか、第一王子は金髪碧眼だったはず。
しかも、黒髪はトラパーニ国だけでなくこの大陸のどの国でも希少である。
王太子殿下もそうだけど、その黒髪がもう一人いるなんて……。
よくよく見ると、小太りの割りには顔がスマートである。それこそ、不自然なくらい。
しかも、気分でも悪いのか顔色が悪い。




