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乗馬勝負、どうなるのかしら?

「いやいや。これは、おれとそのヒョロッこいのとの話だ。どうだ、ヒョロヒョロ。ただの駆けっこだ。馬を走らせるだけ。これなら、体力のないおまえでも出来るだろう?」

「ミオ、あんなバカげた提案にのる必要はない」


 弟の方が挑発してくると、すぐにモレノがささやいてきた。


 わたしもそう思う。だけど、彼らは弱いわたしを叩きのめすことで、皇太子殿下やエドモンド、それからリベリオとモレノに恥をかかせたいのである。


 ここで断っても、別の形で迫って来る。


 それだったら、得意の乗馬で勝負を受けて立った方がいい。


 それこそ、殴り合いとか剣や槍なんてことになったら大変だから。


「よろこんでお受けいたします。というよりかは、胸をお借りします。是非とも、名高きソルダーノ皇国軍騎馬隊の実力を拝見させていただきたいと思います」


 うれしそうに受けて立ってやった。


 わたしってば、呆れ返るほどのバカよね。


「あー、ミオ?きみはリベリオっぽいよね?」

「ちょっと待てよ、モレノ?わたしっぽいというのはどういう意味なんだ?」


 バラド兄弟を見送った後、モレノがわたしを見下ろして言いだした。


「あんな挑発にのるなんて……。いつものミオだったら、笑ってやりすごしたはずなのに。リベリオの影響としか言いようがない」

「だから、ちょっと待てって」

「わたしもそのつもりでした。ですが、バラド将軍も参謀も、宴の際にぼくが宰相に恥をかかせたその仕返しをしたいのです。ここでやりすごしても、手をかえて嫌がらせをしてくるだけです。だったら、ぼくのまだ手に負える乗馬で挑んだほうがましかと思いまして。というのは、大義名分ですね。本当は、師匠のことを悪く言われて、つい頭に血がのぼってしまいました」

「ファビオ公の?なんて連中だ。だけど、きみでも腹を立てて好戦的になるんだな。ある意味、安心したよ」

「おいおい、リベリオ。彼は、自分のことじゃない。他人のことで腹を立てているんだ。きみとはちがうさ」

「失礼な。わたしだって、自分自身のことでは余程のことがないかぎり、腹を立てないさ」


 この二人、本当にいいコンビだわ。


 二人のやり取りに、思わずほっこりしてしまった。


「それで、参謀閣下は乗馬が得意なんですか?」

「そんなわけないだろう?」


 尋ねてみると、リベリオは心底呆れ返ったように答えた。


「あの巨体で馬を自在に操れるものか。政治的なことは嫌いなので、ほとんど姿を見せないが、バラド家には三男がいるんだ。副官だ。戦闘狂でね。「狂戦士」とあだ名されている。剣を握らせれば、向かうところ敵なしってわけだ。もちろん、殿下にはかなわないがな。そいつが、乗れる。そこそこ乗りこなす。ぜったいに三男が出てくる。それと、そいつは勝つためには手段を選ばん。汚いことだって平気でやる。ミオ、だからそれ相応の覚悟はしておいた方がいいぞ」


 リベリオの忠告に返す言葉もない。


 嫌な予感しかしないんですけど……。



 皇太子殿下の執務室に行く前に、客殿に使節団の様子を見に行くことにした。


 ランベール、つまり王太子殿下に会えるとは思わないけれど、もしも会えたら今夜のお礼を言いたいのである。


 彼の機転で、皇太子殿下の株が上がった。


 そのお礼を伝えたいのである。


 厨房を出てから庭園を横切り、客殿に行こうとした。


 近道である。


 今夜も月と星々が穏やかに輝いている。


 色とりどりのダリアが咲き誇っている。


 その合間を縫うようにして客殿へと急いでいると、色とりどりのダリアの間をウロウロしている人影に行き会った。


「ラ、ランベールさん?ではなくって、王太子殿下?」

「やあ、ミオ。ああ、王太子殿下なんてやめてくれ。きみとは、夜市で出会った迷子のおれを助けてくれた恩人っていう間柄でいたいんだ」


 王太子殿下が小走りでやって来た。


「ですが、そういうわけには……」

「きみはソルダーノ皇国の皇太子殿下の側近であっておれの側近じゃない。ということは、ちがう国の人どうし、友人という立場であってもおかしくないだろう?」


 謎々なの?いまのって、いったいどういう理論なの?


 そういえば、エドモンドも最初は彼と同じことを望んでいた。


 だけどそういうわけにはいかないわよ。


 サラボ王国のある貴族の馬丁だったミオ・マッフェイではなく、タルキ国の末っ子王女という立場だとしても、国の格そのものがちがいすぎる。大国の支配者階級である彼らと、友人付き合いなど出来るわけがない。


「王太子殿下。やはり、そういうわけには参りません」

「参ったな。きみとは、いい友人付き合いが出来ると思っていたんだが。いや、もっといい関係になれるかと……」

「はい?なんとおっしゃいましたか?」

「いや、なんでもない。きみが強情だって言いたかったんだ」


 彼は、降参を示すジェスチャーをした。


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