緊張の料理説明
大広間の前で、皇宮の執事たちをまとめる執事長が行ったり来たりしている。
「待っていたんだ」
彼は料理長とわたしの姿を見た途端、駆けよって来た。
彼がずいぶんと慌てふためいているのが、すぐに見てとれた。
「テーブル上に並んでいる料理を見て、使節団が騒ぎはじめたんだ。「肉を使った料理など、口にしない」と言ってね。だから、食事をはじめられない状況なんだ」
「執事長、ご心配をおかけして申し訳ありません。いまからちゃんと説明しますから」
「頼むぞ、ミオ」
「料理長、行きましょう」
大広間の大扉が開けられ、入って行った。
長テーブルをはさみ、トラパーニ国の使節団が右側に、ソルダーノ皇国側が左側に並んでいる。
奥側に皇太子殿下、その隣はエドモンドで、入り口に近いところにはリベリオとモレノが着席している。この四人の姿を見、
当然、わたしたちはソルダーノ皇国側のうしろへ進んだ。
案内してくれた執事長が下がると、皇太子殿下が口を開くよりもはやく宰相が立ち上がった。
「皇族付きの料理長のレノー・フォルジュと、皇太子の側近ミオ・マッフェイです。今宵のレシピは、ミオがかんがえたものです」
宰相は、それだけ言うとさっさと着席した。
つまり、肉がタブーの客人に肉を出したのは、皇太子の失態というのを強調したいわけよね。
宰相ってほんと、イヤな奴よね。
うしろから、銀髪をむしってやりたい衝動に駆られてしまった。
って、そんな場合じゃないわよね。
「ミオ」
皇太子殿下が首を巡らし説明を求めて来た。その隣に座っているエドモンドが、気遣わし気な視線を送って来る。末席の方では、リベリオとモレノが同じようにこちらを見ている。
彼らの視線に勇気をもらった気がする。
そうとわからないように小さく息を吸い込み、吐き出した。
大丈夫。大丈夫よ、わたし。
トラパーニ国の使節団へ視線を向けた。
ちょっ……。
使節団が見えない。
ノッポ皇子とデブ皇子にさえぎられてしまっている。
ということは、当然向こうもわたしが見えないわけで……。
でも、この方がかえって緊張しないで済む。
ものはかんがえようよね。
「ミオ・マッフェイでございます。トラパーニ国の使節団をお迎えできましたこと、光栄に存じます」
まずは、歓迎の意を伝えた。
「本日、かんがえ抜きましたこれらのレシピでございますが、見た目はすべて肉や魚料理でございます。ですが、肉や魚はいっさい使用しておりません」
「バカな。どこからどう見ても肉料理ではないか」
説明すると、疑われてしまった。
なぜか宰相に、である。トラパーニ国の使節団に、ではなくって。
「大豆、でございます。大豆を蒸して潰し、そこに全粒粉を混ぜます。一日寝かせれば、立派な肉の代用になります。残念ながら、わが国は大豆を生産はしていません。肉や魚を常食する文化ということもありますが、特に上流階級に大豆を食す習慣がないのです。ですが、一般庶民はちがいます。肉や魚も食べますが、大豆をそれらの代用として食します。大豆は他国より割と安価に入手出来るからです。今夜は、トラパーニ国の使節団の方々に、わが国の伝統の手法でお召し上がりいただけるよう、大豆で代用いたしました。料理長の知識と努力、腕の賜物です」
そこで一息入れた。
皇太子殿下とエドモンドが、驚き顔で見ているのを感じながら、また口を開いた。
「大豆は、たんぱく質が豊富です。それに、ビタミンやカルシウム、カリウムなどじつに多くの栄養素が含まれています。この大豆こそが、トラパーニ国の方々の主食なのです」
いまの説明は、皇太子殿下たちへのものである。
そう説明をしながら、とんでもないことに気がついてしまった。
今回のトラパーニ国使節団の目的について、である。
ハッとして皇太子殿下を見てしまった。
すると、彼もハッとしたような表情でこちらを見ている。
彼もその真の目的に気がついたのだ。
「申し訳ございません。ぼ、いえ、わたしの説明が長かったせいで、料理がすっかり冷めてしまいました。今夜の料理に肉や魚はいっさい使用していません。どうか安心してお召し上がりください」
「召し上がってみてください。彼の言う通り、これらの料理じたいはわが皇国の伝統料理ばかりです」
皇太子殿下も勧めてくれた。
ノッポとデブ皇子たちのお蔭でよく見えないが、カチャカチャと食器やナイフやフォークの音がしはじめた。
皇太子殿下たちも食べはじめた。
「いやはや、これは参った」
しばらくの間、だれもが無言で食していたが、ノッポとデブ皇子たちの向こう側でだれかが拍手をしはじめた。
「これまで使節団、あるいは外交官として多くの国を訪れたが、これほど心のこもっているもてなしを受けたのはじめてだ」
拍手が止んだ。同時にだれかが立ち上がり、長テーブルをまわってこちらにやって来る。




