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ついに当日

 今朝は、全員が夜明け前に起床した。


 メイドたちは、皇宮内の掃除等に手抜かりがないかのチェックの為、料理人たちは調理の為、執事や雑用をする人たちもそれぞれの用事の為、早朝からフル活動しなければならない。


 窓から近衛兵たちが寝起きする棟を見ると、あちらもすでに起床しているようである。


 彼らもまた、本日から大忙しである。


 料理人たちは、すでに朝食の準備にとりかかっている。


 だから、おいしそうなにおいが漂ってきている。


 部屋を出て食堂に向った。


 一階に降りると、寮長が寮の玄関口でだれかと話をしている。


 寮長越しに、皇太子殿下が見えた。


「皇太子殿下?」


 なにかあったのかしら?


 すぐに玄関まで飛んでいった。


「おはよう、ミオ」


 彼は、わたしに気がついて挨拶をしてくれた。


「殿下、おはようございます。こんな早朝から、何かございましたか?」

「本日から明後日の朝まで正念場だ。皆にお願いしておこうと思ってやって来た」

「皇太子殿下……」


 今朝もあいかわらずキラキラしている。


 彼のこの突然の訪問については、とくに打ち合わせたわけではない。それなのに、気をきかせてわざわざ来てくれた。


 最初こそ「氷の貴公子」と怖れてはいたけれど、本当はそんな存在ではない。


 噂だけがそう呼ばせているのか、あるいは彼自身がかわってしまったのか……。


 とにかく、彼の気持ちがうれしいことにかわりはない。


「殿下。さぁ、お入りになってください。ミオ、みんなに声をかけてきて」


 寮長に了承の返事をしてから、階段を駆け上がった。


 みんなに声をかけるために。


 食堂にみんなが集まった。近衛兵たちはまだやってきていないが、彼らは隊長のオレステ同様中立派である。

 あらためて王宮で訓示を送っても問題はない。


「皆も知っての通り、本日、トラーパニ国より第一王子と第三王子を代表とする使節団がやって来る。会談を行い、夜には宴を予定している」


 急遽テーブルを端に寄せ、全員が立って皇太子殿下の話をきいている。


「会談も宴も、ここにいる皆の協力なくしては成功しない。それ以前に、行うことすら難しい。だれもがわたしに対して思うところがあるだろう。どちらも何かアクシデントや粗相があれば、すべてわたしの失態ということになる。わたしの顔に泥を塗られるくらいならいくらでもかまわない。だが、それだけではすまなくなる。この皇国じたいが軽んじられる。ということは、宰相や王子たちも軽んじられるということだ。不平や不満、義理立てがあるのは重々承知している。それを承知の上であえて頼みたい。協力してほしい。ここにいる全員の力を貸してほしい」


 皇太子殿下は、そう言ってから頭を下げた。


 以前、彼は頭を下げるのも厭わないと言っていた。そのときには、逆効果だと思っていた。だけど、わたしのかんがえは間違っていたようである。


 メイドたちも料理人たちも、周囲の者どうしで顔を見合わせている。


「殿下。わざわざお越しいただき、お話をいただく必要などございませんでしたのに」


 しばらくしてから、上級メイドたちの中でも一番の古株が言いはじめた。

 古株、と言っても年をとっているわけではない。


『協力するかわりにデートしろ』、とわたしに条件をつけてきたのは彼女である。


「わたしたちは、皇族専属のメイドであり料理人でございます。協力などとおこがましい。殿下の為に働くのが、わたしたちの務め。微力ながら全員が一致団結し、全力で使節団をおもてなしいたします」


 彼女が宣言すると、この場にいる全員が大きくうなずいてから頭を下げた。


 皇太子殿下に対して……。


 すくなくとも、宰相や他の王子たちは、皇太子殿下のようにお願いをしたりましてや頭を下げるようなことはしない。


 そういうところも、彼女たちの気持ちを動かしたのかもしれない。


 これで不安要素は払拭された。


 あとは、本番あるのみである。




 使節団が到着したらしいけど、わたしは調理場で料理人たちとともに動きまわったり、大広間の準備をしたりして出迎えるどころかチラッと見ることも出来なかった。


 会談が行われたが、この日は本格的なものではなく、数時間で終了した。


 使節団は、皇族付きの執事たちの案内で客殿に向い、宴の時間まで客殿の割り当てられた部屋でゆっくりすることになる。


 調理場で走り回っているところに、パオロがやって来た。


「会談は、いかがでしたか?」

「ミオ、すまない。水を一杯もらえないか?」


 パオロは、開口一番そう言った。


 すぐにコップに水を注いで彼に手渡すと、彼はいっきに飲みほしてしまった。


「ありがとう」

「葡萄酒の方がよかったのではないですか?」

「よくわかっているじゃないか」


 彼は、空のコップを逆さにして振りながらニヤリと笑った。



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