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真っ裸ーーーーっ!

『キャーッ!』


 力いっぱい叫びそうになってしまった。

 とっさに手で口をふさぎ、かろうじてそれをのみこんだ。


 な、な、なんなの、この光景?


 目の前に広がる光景に、わが目を疑ってしまった。


 お風呂の時間帯らしく、廊下に裸体が溢れかえっている。


 ほとんどが下着だけしか着用していない。


 ここを通過しろっていうの?

 ダメだわ。


 針の道とか火の道とか、そういったところの方がまだ通れそう。


「おや、お客さん?」

「新入り?」


 近くにいる何人かがわたしに気がつき、体ごとこちらを向いた。


 や、やめて……。


 ダボダボの白い下着姿は、わたしにはかなりムリがある。


 あの師匠ですら、下着一枚でウロウロすることはなかった。


 わたしたち姉妹が「野獣」ってからかっていたお兄様たちが子どものときだって、宮殿の廊下を下着一枚で歩きまわるようなことはなかった。


 完全に固まってしまっているわたしの耳に、下着一枚軍団の向こう側からバタバタと音がきこえ始めた。


「カミーユ、この野郎っ!返せよ」

「嫌だね。ブノワ、おまえが賭けに負けたんだろう?だったら、真っ裸で官舎内を歩けよ。そういう賭けなんだからな」

「このいかさま野郎っ!」


 騒ぎがだんだん近づいてくる。


 その瞬間、下着一枚軍団の中から顔面髭だらけで下着一枚の人が飛びだしてきた。その手にひらめいているのは、真っ白な下着である。

 その人は、あっという間にわたしの横を駆け抜けていった。


 さらにもう一人、飛びだしてきて……。


「キャーーーーーーッ!」


 つぎは、悲鳴をのみこむことは出来なかった。


「イヤーーーーーーッ!」


 次も勝手に出ていた。


 すべての動きが止まった。


 飛びだしてきたばかりの人が、わたしの前で立ち竦んでいる。


「だから、イヤーーーーーッ!」

「ええ?ええ?ええ?」


 狼狽えている彼のことなんてどうでもいい。いえ、どうでもいいことない。


 とにかく、それ・・をどうにかして。お願い。ブラブラさせないで。


「イヤッたらイヤーーーーーッ」

「なにを騒いでいるっ!」


 もう一度叫んだとき、救いの神があらわれた。


「将軍閣下っ」


 全員が、廊下の端に整列して最敬礼の姿勢をとった。


 もうやめて。


 全裸の彼も同様に最敬礼をしているけれど、ブラブラさせていることにかわりはない。


 厄日だわ……。


「あのなぁ、いくら野郎おとこばかりだからといって、公共の場では節度を保つのが人間ってものだろう?わたしたちは、栄誉あるソルダーノ皇国軍の軍人なんだ。廊下を真っ裸で駆けまわるなどと、連中の耳にでも入ったら、またバカにされることになる」


 エドモンドの書斎で、さきほどの真っ裸の兵士とその兵士の下着を奪って逃げた兵士の二人が並び、モレノから説教をされている。


 二人とも、直立不動の姿勢で辛抱強くきいている。


「モレノ、もういい。演習が終わったばかりで息抜きをしたかったんだろう」

「閣下。閣下はいつもそのように甘いですが、今回、真っ裸で廊下を駆けまわるという恥ずべき行為だけではありません。賭け事をしている、ということの方が問題です」

「閣下、参謀の言う通りです。賭け事が横行すれば、ろくなことはありません」

「リベリオ、モレノ。たしかに、おまえたちの言う通りだ」


 エドモンドは机の向こうからやって来て、直立不動の姿勢を保っている二人の兵士の前に立った。


「まずは、彼に謝罪しろ。彼は、皇太子殿下の側近の一人だ。いくら同性でも、真っ裸で向かってこられたらだれだって度肝を抜かされる」

「ああ、それはいい作戦かも。敵軍に全員が真っ裸で突撃するんです。訂正、さすがに武器は装備しなければなりませんね。敵軍の驚く顔を見るのも面白いはずです」

「参謀閣下っ!それはいい作戦ではありませんか。これまでの作戦の中でも最高傑作です」


 直立不動のまま、真っ裸だった彼が褒め称えた。


「うるさいっ!冗談に決まっているだろう。なにが『これまでの作戦の中で最高傑作です』だ?さっさとミオに謝罪しろっ」


 リベリオは、自分で冗談を言っておきながら怒っている。


「申し訳ありませんでした」

「申し訳ありませんでした」


 ブノワとカミーユだったかしら?二人は、長椅子に腰かけているわたしにたいして最敬礼をし、同時に怒鳴った。


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