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三人でティータイム

「ミオさん、ありがとうございます」


 アマンダは、皇太子殿下の部屋へ向かいながら何度もお礼を言ってくれる。


「ちょっと時間がかかって遅れてしまったけど、大丈夫。アマンダさんは、ふつうにお茶を出してさがってくれたらいいですから」

「はい」

「あっと、これはアマンダさんの分です。お茶を運んだら終わりでしょう?寮で食べてください」


 あまりにもお腹が空いているので、思わず多めに作ってしまった。きれいな紙袋があったので、それに二個ずつ入れておいた。


 その一袋を差しだしてから、カートの下段に入れた。


 自分の分は、あとで控えの間で食べよう。


 楽しみでならない。


 控えの間に入ってから、執務室のドアをノックした。


「どうぞ」


 皇太子殿下の許可を得、ドアを開けてから声をかけた。


「殿下、お待たせいたしました。お茶の時間でございます」

「失礼いたします」


 アマンダがローテブルに並べている間に、遅くなった言い訳をしておく。


「今夜は、殿下にぜひご試食いただきたいお菓子がありまして。それを作っていたものですから、遅くなってしまいました。申し訳ありません」

「ちょうど手が離せなかったし、タイミングとしてはちょうどよかったよ。それよりも、菓子?」


 皇太子殿下は、書類から目をあげた。指先で鼻の付け根あたりを軽く揉んでいる。


 一日中座って書類とにらめっこしていれば、目だけじゃなくっていろいろなところが疲れるわよね。


「はい。いつも召し上がっていらっしゃいます美味しいお菓子にはほど遠いですが、母直伝のお菓子なんです」

「それは、興味深いな」


 彼が立ち上がってローテブルにやって来たときには、アマンダがセッティングを終えていた。


 カゴの上の布巾をさっと取ると、特製のお菓子がこれでもかというほどその存在を誇示している。


「外見もあまりよくないですが」


 そう付け加えた瞬間、またしてもお腹の虫が大きくなりはじめた。


「まぁ……」


 アマンダが驚いてこちらを見た。


「あ……。すみません」


 男装をしているのがいけないのね。


 最近、わたしは女を失いつつあるみたい。はやい話が、お腹の虫が騒ごうがおならをしようが、へっちゃらになってきている。


 これってぜったいにまずいわよね。


「アマンダ、ミオは腹の中にドラゴンを飼っているんだ。華奢なのに、こんなに豪快な腹の虫を鳴らす男は見たことがない」


 長椅子に座りつつ、皇太子殿下が真面目な表情で冗談を言った。


 ええ。彼と打ち合わせ中にもしょっちゅう騒いでいるから、きっと彼も慣れっこになっているのね。 


「これは、うまそうだ」


 彼は、カゴの中のお菓子を見てお世辞を言ってくれた。


「ミオ、控えの間にティーカップがあるだろう?二脚分持ってきてくれないか?こんなにおいしそうな菓子を独り占めするのはもったいない。三人で食べよう」

「はい」


 すぐに取りに行き、戻ってティーポットから紅茶を注いだ。


「アマンダ、きみも座って」

「で、ですが、殿下」


 アマンダは、当然尻込みしている。


「アマンダさん、殿下のご命令です。いっしょにいただきましょう」


 彼女のメイド服の袖をひっぱり、無理矢理わたしの横に座らせた。


 彼がさきにとり、わたしは二個取って一個をアマンダの手に握らせた。


「いただきまーす」


 我慢できず、彼がためつすがめつお菓子を見ている前で、パクついた。


 うーん。この味、この食感、この甘さよ。


 この素朴な味が懐かしすぎる。


 三口で終わってしまった。


 ほんっとにヤバいかも。


 食べ方、量、これらも男性化してしまっている。

 最初はふりだったのに、いまではふりじゃなく当たり前になっている。


 怖ろしすぎる。


「ほら、アマンダ。彼を見て。美味そうに食べていただろう?」


 彼は、そう言うなりかじりついた。


『サクッ』


 小気味よい音が、静かな執務室を満たす。


「これは美味い。これまで食べたどんな菓子よりも美味いよ」


 う……ん。お世辞にしては、大げさすぎよね。


 隣でアマンダが控えめにかじりついた。


「美味しい。ミオさん、とっても美味しいです」

「きっとみんなで食べるから美味しく感じるんですね」

「いいえ。本当に、すごく美味しいです」

「アマンダの言う通りだ。また作ってほしいな」

「殿下のご命令とあらば。重曹とお砂糖とお水と卵白だけで出来ますから、いつでもお作りしますよ」

「エドモンドも食べたがるだろうな。もちろん、モレノも」

「そうですね。モレノさんだったら、十個くらいはペロッといってしまいますね」


 冗談を言うと、彼は笑った。


 あの遠乗りの日以降、彼は以前より笑顔を見せるようになった。

 だからか、アマンダも最初のころよりかは緊張せずにすんでいるみたい。


 食べ終わった後、アマンダが去った。


「ミオ、なにがあった?」


 ローテーブルの向こうから、彼が尋ねてきた。 


「はい?」

「おいおい、とぼけないでくれ。アマンダだ。なにがあったんだ?」


 こちらをじっと見つめ、問われてしまった。


 なんて勘がいいのかしら。


 仕方なしに事情を話した。




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