表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/131

いじめ

 今夜は、わたしが夜間の当番である。


 皇太子殿下は、夜遅くまで執務をする。その間に、使い走りがあるかもしれないからである。


 これまでは、パオロが一人で夜遅くまで残っていたらしい。


 これからは、二人で交代ですればいい。


 皇太子殿下にお茶をだす時間になっても、アマンダがやってこない。様子を見に行ってみることにした。


 皇宮の厨房は、控えめに表現しても立派すぎる。


 厨房の中から甘ったるいにおいが漂ってきた。


『グルルルルル』


 途端にお腹の虫が鳴きはじめた。


 今日はパオロとときが経つのも忘れて意見を言い合っていて、寮に夕食を食べに帰ることが出来なかった。


「お願いします。一人分だけなのです。分けてください」

「なにを言っているのよ。カートをひっくり返したあなたのミスでしょう?知らないわよ」

「そうよそうよ」

「もうお茶の時間がすぎています。お願いします。分けてください」

「知らないって言っているでしょう?わたしたちだって時間がすぎているのよ」

「はやく行かなきゃ。そこをどきなさいよ」


 厨房内の隅で、メイドたちがかたまっている。


 アマンダの声に、寮でいっしょの階のメイドの声もする。


 そちらに向かいはじめると、三人のメイドたちがそれぞれのカートを押して足早に通りすぎて行った。


「アマンダさん」


 声をかけたとき、それに気がついた。


 カートが見事なまでにひっくり返ってしまっていて、上にのっているものが床に無残にぶちまけられている。


「ミオさん……」


 アマンダは、目に涙をためて立ち尽くしている。


 その様子で察しがついた。


 皇太子殿下へのいやがらせは、メイドであるアマンダにまでおよんでいる。


 彼女は、辺境の地の農家の出身の下級メイドである。


 メイドたちにも派閥がある。とくに皇帝陛下や皇子たち専属の上級メイドたちはひどい。


 いま現在は皇子三人のメイドたちが結束し、皇太子殿下付きのアマンダを攻撃している。


 いまも、だれかがわざとカートをひっくり返したのだ。


 紅茶が床にぶちまけられ、カップやポットは割れてしまっている。ビスケットは砕け散ったり紅茶で湿ってしまっている。


「アマンダさん。大丈夫。皇太子殿下はお茶がなくっても気になさらないから」

「でも……」


 そういう問題じゃないのよね。


 彼女は、寮でも皇宮内でも上級メイドや中級メイドたちから嫌がらせをされている。


 わたしも気になっている。だけど、口出しの出来る立場じゃない。


 でも……。


 アマンダにとって、皇太子殿下付きのメイドという務めは、本来なら最高の経歴になる。皇太子殿下が冷たく愛想がなかったとしても。


 彼女も辺境の地からわざわざ皇都に出てきて働いているということは、なんらかの事情があるに決まっている。


 料理人たちもお菓子を作り、お茶を淹れ終わったら、寮に帰ってしまう。


 と思いきや、料理長が厨房の奥にある冷蔵倉庫から出てくるのが見えた。


 そうだわ。


 あることを思いついた。


「アマンダさん。ぼくらでどうにかしましょう。あなたは、ここの掃除を頼みます」


 そう声をかけつつ彼女の肩を叩き、料理長のところへ駆けて行った。



 紅茶は、カモミールティーを淹れることにした。


 師匠直伝である。


 お菓子は、ビスケットにしろクッキーにしろ時間がかかってしまう。


 料理長から卵と重曹と砂糖を分けてもらった。砂糖は、サラサラのものとザラザラしたのの二種類である。


 卵は、卵黄と卵白に分けた。今回は、卵白だけ使用する。小さじ一杯分の卵白を溶きほぐして小さじ二杯分の重曹を加えてよく練っておく。さらにそこに砂糖をひとつまみ加えて三つに分けておく。


 銅製のレードルにザラメとザラメが浸るほどの水を入れ、それを火にかけてかき混ぜザラメを溶かしていく。百度を超えるとグラグラと泡立ちはじめるが、火をゆるめてさらに温度が上がるのを待つ。しばらくしてから火からおろして十秒ほど待つ。最初に作った重曹入りのペーストに木串を刺しておき、レードルに投入。ペーストを押し潰しつつ混ぜてゆく。すると、レードルの底の方が固まってくる。全体的に白っぽいクリーム色になってきたら混ぜるのをやめ、木串を抜く。そうしたら、十秒ほどの間にどんどん膨らんでゆく。膨らみすぎてひびが入る。その後は、銅製のレードルの底を濡れ布巾で冷やしてからまた弱火にかける。膨らんだお菓子の縁が少し溶け出すと火からおろしてレードルを傾けお菓子を取り出す。


 これで出来上がりである。


 このお菓子の名前は知らない。もともとは、お母様がお兄様やお姉様たちに伝えたレシピらしい。


 小腹がすいたとき、みんなでよく作った。


 これは、お母様やお兄様、お姉様たちとの思い出のお菓子なのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ