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素晴らしすぎる景色

 皇都を出て幾つかの町や村を通りすぎてゆく。


 町の人たちも村人たちも、近衛兵たちの厳粛な様子を驚きの表情で見送っている。


 そして、皇太子殿下とその実弟であるエドモンドの美しさに感動し、畏怖している。


 どの町も村も、この国に来たとき同様平和で静かである。満ち足りてもいるようにうかがえる。


 いまは、その理由がわかっている。


 この国の人々が、何の気兼ねも不自由もなく暮らせていることの意味が、理解出来る。


 朝出発し、皇太子殿下とエドモンドのお気に入りの場所に到着したのは、お昼前だった。


 これほど穏やかで天気のいい日はないかもしれない。暑すぎず、もちろん寒いわけでもない。微風が肌に心地いい。


 これなら、馬たちを疾駆させても大きな負担にはならないだろう。


 木々の間を抜けると、眼前が切り取られたかのように開けた。


 どうやら、山の中を進んでいたらしい。


 崖際まで馬を進めると、その光景を目の当たりにした。


 右側には、湖が静かに横たわっている。陽光の光を受け、水面がキラキラと煌めいている。そして、左側には広大な小麦畑が広がっている。収穫の時期なのか、金色の絨毯が光り輝いている。


 この二つの美しすぎる光景に、胸がいっぱいになってしまった。


 思わず両手を口にあてそうになって、慌てて額にかざして遠くを見るふりをした。


「ミオ、どうだい?」


 ガイアから降りると、エドモンドがリコから降りて近づいてきた。


「感動しました」


 本当はその一言では表現が足りないほどなんだけど、下手に言葉を連ねたらボロが出てしまうかもしれない。


「だろう?ずっと二人の秘密の場所だったんだ。ここに来たら何もかも忘れられるし、何より心が洗われる」


 彼は、まだ皇太子殿下と二人っきりでここに来れたときのことを思いだしているにちがいない。遠い目で、この素晴らしい景色を眺めている。


「あ、そうだ。この景色に負けず劣らず、リコは素晴らしいよ。ミオ、ありがとう。きみと出会ってよかったって、心から思うよ」

「ぼくなんて……。エドモンド様の目利きと、師匠の指導の賜物です」

「ミオ、きみは本当に謙遜家だな」


 彼は、ちらりと背後を振り返った。


 近衛兵たちは、向こう側は景色を堪能している。そして、メイドたちは昼食の準備をはじめている。


 サンドロは、絵を描く準備をしているみたい。


 皇太子殿下は、近衛隊長のオレステと話をしている。


「傷のこと、どうして嘘をついたんだ?」

「あ、いえ。申し訳ありません。皇太子殿下が婚約者候補のご令嬢とぼくらと揉めたとお知りになれば、心穏やかではなくなられるかと。とくに今日は、皇太子殿下のせっかくの休日です。お好きな馬でお気に入りの場所に来るのに、ご不快な思いをさせてしまうかもしれない。だから、とっさに嘘を……。エドモンド様に嘘の片棒を担がせしまい、お詫びのしようもありません」

「いや、責めているわけじゃない。逆に、きみの気遣いに感謝したいくらいだ」


 そのタイミングで、皇太子殿下がこちらにやってきた。


「ミオ、どうだい?」


 皇太子殿下は、エドモンドとまったく同じことを尋ねてきた。

 思わず、笑ってしまいそうになった。


「彼は、気に入ってくれたようですよ、兄上」

「はい。これほどの景色がこの世に存在するなんて……。ずっとここにいて、眺めていたいくらいです」

「そうか、それはよかった。サンドロも気に入ってくれて、さっそく描いてくれるそうだ。ミオ、この景色に負けず劣らず、バルドは素晴らしいよ。エドモンドがきみと出会ってくれて、本当によかったと心から思う」


 驚いてしまった。いまの台詞もほとんどエドモンドとおなじである。


「ぼくなんて……。エドモンド様の目利きと、師匠の指導の賜物です」


 わたしが口を開くよりもはやく、エドモンドがそう言った。


 皇太子殿下がキョトンとしている。


「先にわたしがまったく同じことを彼に伝えました。すると、彼はそう答えたのです。兄上。それでしたら、わたしに謝罪をしていただきたい。エドモンド、あのときは『無駄遣いだ』と嫌味を言って悪かった、とね」


 エドモンドがニヤニヤ笑いながら言うと、皇太子殿下の口角がわずかに上がった。


 二人とも、陽光よりもキラキラしている。


 眼下にひろがる小麦畑の金色の輝きより、湖の水面の煌めきよりもずっとずっと。


 笑い声を上げてしまった。


「わかったわかった。認めよう。安いくらいだ。ミオ。昼食の後、まだ見せたいものがある。オレステには、許可をもらっている。三人で行ってみよう。」

「は、はい」


 今度は、どこに連れて行ってくれるのかしら?


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