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ドナとディオン

「ドナ、ディオン。こちらは、皇太子殿下だ。ベルトランド様、わがアントーニ家の別荘の管理をしてもらっているバルゲリー夫妻で、ドナとディオンです」

「こ、皇太子殿下?」

「皇太子殿下?」


 リベリオが紹介すると、老夫妻はそろって恐縮している。即座に深々と頭を下げた。


「ベルトランド・スカルキです。弟がお世話になったようで、お礼が遅くなり申し訳ありません。いまは、お忍びです。どうかラクにして下さい」


 皇太子殿下は、老夫妻の頭を上げさせた。


 とりあえず建物の中に、というときになって、老夫妻はロゼッタとミシェルに気がついたようである。


「まぁぁぁっ!ロゼッタお嬢様、それにミシェルお嬢様まで。なんてことかしら」

「おきれいになって……。カルデローネ家の使用人たちも、お二人のお帰りをよろこんでいますでしょう?」


 ドナとディオンは、二人にも同様に抱きついた。


「ありがとう。あなたたちも、お元気そうでなによりよ」

「なかなかこちらまで来れなくって」


 ロゼッタが老夫妻をいたわっていることが、かなり意外である。


 ふと、劇場前の騒動のときのことを思いだした。


 ロゼッタは屋敷の使用人にもきつく、何人も辞めていると、貴族たちが噂をしていた。彼女のこれまでの婚約者も、彼女に暴力をふるわれたために婚約を破棄されたとも言っていたっけ。


 いまの老夫妻へのいたわりだけじゃない。カルデローネ家の別荘でも、彼女が使用人にきつくあたっている感じはしない。使用人たちも、彼女を怖れていたりという雰囲気ではない。


 カルデローネ家をよく思わないだれかが、よくない噂を流したのにちがいないわね。


 貴族の間ではよくあることだわ。


 アントーニ家の別荘でも、老夫妻とその息子夫婦、ほかの使用人たちから歓待された。


 焼き立てのパンや湖で釣ったばかりだという魚のソテー、このあたりで作られているチーズや果物を昼食にいただき、昼食後は居間で紅茶とビスケットをいただいた。


 老夫妻は、エドモンドとリベリオとモレノが長期休暇で遊びに来たときの逸話をいくつか語ってくれた。


 リベリオが湖で遊泳中に足をつってしまって溺れ、それをエドモンドが助けようとしていっしょに溺れて使用人に意識がなくなるちょっと前に助けられたとか、モレノが森で毒イチゴを食べて死にそうになったとか、真冬に三人で山に行って遭難して凍死しかけたとか、老夫妻はつぎからつぎへと語ってくれる。


 ちょっとまって。そのどれもが、死にそうな逸話ばかりなんですけど……。


「きみたちが生きていまこここにいることを、神に感謝したいよ」


 皇太子殿下がポツリともらした。


 わたしも同感です。


 それにしても、なんてワイルドな少年たちだったのかしら。


「それはもう、長期休暇でお坊ちゃまたちがお帰りの際には、かならず薬や包帯を準備したものです。それから、お医者様にも声をかけて。お医者様は、ふだんはのんびりお年寄りを診てまわったり、お産に立ちあったりするくらいですからね。毎回、何度も呼びだされて大変だったようです」

「そうだったかな?たしかに、ガキのころは何をするにも全力だった気がする」

「ああ。あとさきかんがえず、思ったことを全力でやったよな」

「全力でなんでも食いましたよね?毒イチゴとか毒キノコなんて、うまかったけどなぁ」


 リベリオとエドモンドが懐かしそうにつぶやいたのに続いて、モレノがしみじみ言った。


「いや、それはおまえだけだ。だから、それはやめておけと言ったはずだ。どちらもまさしくって感じの毒々しい色をしているのに、おまえは食ってみなきゃわからないって言ったんだ」

「しかも一度や二度じゃないだろう?毎回、食ってなかったか?」


 エドモンドとリベリオにツッコまれて、モレノは当惑している。


「ち、ちがうんだ、アマンダ。腹が減ったら、どうしても美味しそうに見えるんだよ」


 そして、モレノはなぜかアマンダに言い訳をはじめた。


 その言い訳の内容もまた、どういう理論なのかわからないけど。


 とりあえず、彼らは生きている。


 それでいいことにしましょう。


 数々の驚くべき逸話をきいて、笑いすぎてしまった。


 でも、そのどれもがエドモンドらしいしリベリオらしいしモレノらしい逸話だった。


 心からそう思った。


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