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06 私は雑草絶対枯らす魔法使いです!

「……これは、凄いな」

「そうだろう、父さん! エリカが心剣の力でやったんだぜ!」


 畑の側で膝をついて絶句しているお父さんと、そんなお父さんに自慢げに胸を張っている兄さん。

 いや、やったのは私なんですけどね? 私は痛む腰を叩きながら自分の成果に目を向けた。


 兄さんが提案した雑草をディスペアの力の練習台にするアイディアは成功したと言えるかもしれない。

 雑草は処理しなければならないけれど、抜くのだって一苦労だ。その雑草をディスペアの力を使って根まで枯らしてみたのだ。


 最初は他の作物に影響させないように抜き取った雑草で枯らす練習をしてからにした。

 兄さん曰く、魔法は想像力と自分の心剣を信じることがコツなのだとか。それはもう感覚的なアドバイスだけど、この世界の魔法は事実、そういうものなのだから正しいアドバイスでもあった。

 その後、何度か魔法を使って雑草を枯らす練習をして、手応えを感じたのでまだ抜いてない雑草に試してみたのだ。

 最終的に雑草が枯れる速度は、まるで映像の早回しを見ているかのようにまでなった。その結果を兄が父に見せようと連れてきてくれた。


「……妙な臭いもしないし、水分も抜けてカラッカラになっているな」


 父さんが雑草の成れの果てに触れながら呟く。これは私が編み出した魔法の効果によるものだ。

 雑草を一瞬にして腐らせることによって、その命を奪う毒を与えたのだ。魔法の対象は雑草に絞っているので他の作物には影響しないし、雑草が枯れた時点で私がかけた魔法の効果も消えるようにしている。


「本当に他の作物には影響はないんだな?」

「うん。それはちゃんと確かめてからやったから」

「そうか、それが本当なら……凄いことだな」


 お父さんは感心したように言っているけれど、その表情は真剣で声も固いままだった。

 そんなお父さんの様子に気付いた兄さんが怪訝そうな表情を浮かべる。


「父さん? どうしたんだよ」


 兄さんが問いかけるも、父さんは何も言わない。何かを考え込んでいるように黙っていたけれど、やがてゆっくりと口を開いた。


「エリカ、お前のやったことが本当ならこれは凄いことだ。雑草の処理をしなくて済むようになるからな。ただ悪影響が本当にないかどうか、それを確かめるためにも先に相談して欲しかったな」

「あ……うん、ごめんなさい」

「これはとても凄いことだ。ただ、その魔法が本当に安全かどうかわかるまでは使ってはいけないよ。もしエリカも把握していない問題が起きた時、困るだろう?」

「……うん。お父さん、ごめんなさい」


 言い聞かせるように告げるお父さんに私は素直に頷く。やっぱり魔法を使える事で気が逸って配慮が欠けていたのは間違いなく失敗だ。

 そうして反省していると、お父さんが私の頭を優しく撫でてくれた。


「雑草抜きがなくなるなら楽になると思ってくれたんだろう? そういった考えや工夫は大事だから、そこはよく頑張ったと褒めるよ」

「むぅ……なんだよ、父さん。褒めたいのか叱りたいのかわからねぇぞ? それに言い出したのは俺だって!」

「今回はどっちもだ。凄いことをやってくれたと褒めてやりたいが、畑に何かするなら相談して欲しいな。もし何かあったらお前たちは責任を取れないだろう?」

「それは……そうだけど」

「役に立とうとしてくれたのはありがたいが、やり方や順番を間違えてはいけないんだ。いいな? レオル」

「……わかったよ」

「手伝いもありがたいが、勉強も頑張るんだぞ。ちゃんと勉強すれば私が何を言いたかったのかわかるだろう。今回の事に限らず、お前たちはもっと多くの事に気付いていかなければならないんだから」

「はい、お父さん」

「……はーい」


 私は素直に、兄さんはどこかふて腐れたように返事をするのだった。



   * * *



 魔法で雑草を枯らす実験をした後、私は家の側に自分用の小さな畑を用意して貰うことになった。

 父さん曰く、大きな畑で試すのはリスクが大きいからという事だ。もし失敗しても個人的な小さな畑でなら色々と試しても問題ない、と。


「生きていくなら心剣の力は使いこなせた方が良いし、エリカの心剣はレオルの心剣のように練習しやすそうな力ではないからな」

「ありがとう、お父さん!」

「その代わり、いくら実験用の畑といってもちゃんと面倒を見るようにな。レオルも手伝ってやりなさい」

「任せておけ、父さん!」


 こうして私と兄さんは小さな畑で魔法の練習が出来るように環境を整えることにした。

 そして畑の手入れをしたり、雑草を枯らす実験をしているとファルとククリが実験用の畑に顔を出した。


「レオル、エリカ、なんだこの小さな畑?」

「これは私の実験用の畑だよ」

「実験用の畑?」

「エリカは心剣の力で雑草だけ狙って枯らすことが出来るんだぜ、ファル!」

「雑草だけ狙って枯らす!? それって雑草抜きをしなくて良くなるのか!?」


 ファルが驚いたように目を見開いて、その隣でククリも目を丸くしていた。

 パッと見、あまり似てるようには見えない双子だけど、こういった仕草はそっくりなんだなと微笑ましく思ってしまう。

 そして二人の驚いた様子を見て、何故かドヤ顔の兄さんが笑っている。


「そうだぜ! でも、父さんが実験してからって言ってな! この畑で試してるんだ!」

「エリカ、凄いじゃないか!」

「そ、そこまでの事じゃないよ」

「いや、凄い事だって! だって雑草抜きの手間がなくなるんだぜ! 雑草を放置したら野菜も育たないし、それが大きな畑でも出来るようになったら皆だって凄い喜んでくれると思う!」


 ファルは全身で驚きと喜びを表すような大袈裟な仕草で私を褒め称える。あまりにも裏の感じられない賞賛に照れてしまう。

 するとククリが服の袖を引いてきて、目を合わせる。ククリもまた私に尊敬の眼差しを向けてくれていた。


「……エリカは、凄いね」

「ククリも、ありがとう」

「なぁなぁ! まだその実験ってのは終わらないのか? 良かったらウチの畑の雑草も枯らして欲しいんだけど!」

「ダメだ、父さんが許可を出してないからな。もし何かあったら責任取れねーだろ?」

「意味わかって言ってるのかよ、レオル!」

「せ、責任は責任だろ!」

「責任ってどんな事だよ!」

「う、うぉ、そ、それはだなぁ! アレだよな! エリカ!」

「もし間違って野菜まで枯れちゃったら大変でしょ? もしそうなった時に代わりにお野菜をあげたり出来るかどうかってのが責任かな?」

「そうだぞ!」

「レオルはわかってねーじゃねーか!」

「なんだとー!」


 兄さんとファルがじゃれ合うように掴み合いを始めてしまう。ちょっと心配になるけれど、ククリはいつもの事と言わんばかりにじゃれ合う二人に関心を無くしていた。


「……私も手伝っていい?」

「え? ククリが?」

「……雑草抜き、大変だから。もし、レクダおじさんが許してくれたならウチの畑もやって欲しい」

「やっぱり大変だよね、雑草抜き」


 私がそう言うとククリは同意するように何度も頷いてくれた。

 雑草の処理の手間が減って、村全体の収穫量が上がれば皆が豊かになれるかもしれない。小さな村だからほとんどの人が顔見知りだし、そうなってくれたら良いなと思う。


「じゃあ、手伝いをするならお願いがあるんだけど」

「何でも手伝う」

「えっと……じゃあ、ククリちゃんの家の畑から雑草抜いてきて貰っていいかな? ウチの畑の雑草はもうほとんど無くなってるから」


 私がそう言うと、ククリちゃんはジト目で恨めしげな視線を向けて来た。

 いや、私もどうかと思ったけどね? 頼めそうなことが雑草の調達しか思い付かなかったんだよね。大分枯らしてしまったから調達に困っていたのは事実だし。


「……雑草を抜くの、大変だって言ったのに」

「そ、そんなにいっぱいじゃなくていいから。ね?」

「……約束。手伝ったら雑草を枯らしてくれる」

「手伝ってくれたお礼に、お父さんが許可出してくれたら真っ先にやってあげるから!」

「ん……」


 まだちょっと不満げに唇を尖らせてるククリ。ちょっと申し訳ないけれど、そんな彼女も可愛いなと思ってしまう。


「ファル、行こう」

「おぉっ!? ど、どうしたククリ!?」

「雑草取りに行く。レオルと遊んでないで、手伝う」

「あ? 雑草取りに行くのか? じゃあ俺等も手伝おうぜ、エリカ!」

「えっと、いいのかな?」

「手伝ってくれるなら歓迎」

「皆でやれば数が集まるな!」


 ファル、ククリ……そんなに雑草抜きが嫌なの? まぁ、嫌だよねぇ。

 そんな事を思いながら、私たちは一緒に集まってシオン家が管理している畑へと向かうのだった。

 


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