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第5話

 扉をくぐるとすぐに地下へと続く階段になっている。一段ごとに置かれた小さな明かりを頼りに慎重に降りていくとまさしく酒場があった。


 『この世ならざる酒場』なんて大層な名前だが店自体は至ってまともだ。入店と同時にガラの悪い先客からの値踏みする視線が付きまとうが、治安の悪い街を散々見てきたオレにとっては普通に感じる。


 空いているテーブル席を見つけ少女と共に着席するも、四方八方からの視線が収まらない。


「なんかオレ変なことしたか?」

「変なのは格好じゃないですか? 誰だってそんな格好で来られたらビックリするよ」


 ―改めて言われるとは確かにこれではただの変態。丈の合わないローブも相まってより変態さに拍車が掛かっている気もするが、だからといって脱いでも変態なのは変わりない。


 我慢だとわかっていても意識した途端襲ってくる恥ずかしさでテーブルに突っ伏した。


 突っ伏していると店の従業員らしき男が飲み物を運んでくる。注文した覚えはないが、男と少女どちらも平然としていことに疑問符を浮かべる。


「この店、客を見て勝手に出してくれるんだ。面白いよねー」

「それで君にはミルクで、オレにはただの水ってことか⋯⋯」

「いやだって、私お酒飲めませんし」


 店側が何を基準にしているのかは言うまでもない。オレのこの格好に文句を言わないだけそこら辺の店よりは良心的なのだろうとは思うが。


「ここの店は慣れてるんだな。オレも大概だが、君だってこんな場所を使う年齢でもないのに」

「この店を使うのに年齢や容姿なんて意味ないですよ。ここに訪れるのはワケありの客だけだし、それに何を話そうと口外もされる心配もない。だって自分のことを話されて困る人たちしかいないし、まぁ暗黙のルールみたいなもんですよ」


 なるほどそれなら合点はいく。だからこの少女はわざわざこの場所を選んだ。ん⋯⋯? それならこの少女にもそれなりのワケがあるということになが⋯⋯。


 少女は手にしていたグラスを置き不敵に微笑む。


「まぁ私のことは後で話すとして⋯⋯まだ名乗ってませんでしたね。私はカティ。それじゃ本題に入りましょうか、勇者のティオナ・テンドさん⋯⋯それとも爆弾のテンドさんって呼んだほうがいい? 」


 その言葉を出された瞬間背筋が凍った。




 ☆




 なぜという言葉だけが浮かんでくる。カティのたった一言で思考が支配され、開いた口を閉じれず間抜けな顔を晒してしまう。そんなオレの動揺っぷりに我慢できずに吹き出したカティが小さく肩を揺らす。


「いやいや、そんなに慌てなくても⋯⋯」


 どこで知られた? いや、宿屋の件なら知っていても不思議ではない。でもコイツは爆発と言わずハッキリと爆弾と口にした。


 オレの股間の秘密を知ってる。というか最初から知っててオレに近づいたのか。


「最初は半信半疑だったんですよ? そんな面白そうな人がいるなら直接確認しようって。だからあなたに手を貸したということです」


 オレが言葉を発さずとも会話が成立する。思考を読んだというには言葉の選びが自然すぎる⋯⋯これは読心術によるものだと考えてみる。


「その通り。私は相手の心が読めます。と言ってもそこまで便利ってわけじゃないけどね」


 心を読まれるとはなんだか気持ち悪い感覚だった。


「その歳でどうやってそんな力を手に入れたんだ?」

「ははっ⋯⋯いきなりそれ聞いちゃう?」


 勝手に心を読んだのならお互い様だとは思うが、話したくないのなら無理に聞くつもりはない。


 逡巡したのち、カティがオレの分も含め追加で飲み物を注文する。まるで長い話になるぞと言わんばかりに。


 やってきたミルクを一口飲んだ後、カティはゆっくりと口を開く。


「ガルベーダのこと覚えていますか?」


 その名前は知っている。過去にオレたちが倒した魔王配下の一人『全知のガルベーダ』何人もの人間に情報共有の種子を打ち込み斥候として使役していた。


 全知とは名ばかりの下衆野郎だ。


「それじゃカティは⋯⋯」

「私は元々ガルベーダの手駒の一人です。やってたのは情報集集と盗賊紛いなこと。危険な場所にも一人で行ったりしました。でも私なんてまだ良い方です、ひどい子だったら肉壁に使われた子だっていて。伝わるんです。その子が死ぬ時にどんなことを思ってたとか⋯⋯」


 オレは早口でまくしたてるカティを一旦制止する。深く呼吸をして落ち着きを取り戻した。


「それでガルベーダが倒されて晴れて自由の身になったの。読心術はその時の後遺症みたいなもので。まぁ、自由の身になっても悪魔の落とし子なんて呼ばれたりしてますが」


 まるで他人事のように笑うカティにオレは何も言わない。


「ガルベーダを倒したのが勇者だってことを道行きで聞いてここまできたんです。で、ここまで聞いてどうだった ?」

「事情はわかった。でも同情はしない。どれほどの苦痛を味わってきたか本人にしかわからないからな。他人のオレがとやかく言うのも野暮だろ」

「はぁ⋯⋯まぁ、ありがとうございます⋯⋯」

「それにオレは今自分のことで手一杯だ。もちろんオレの苦しみだって誰かにわかるもんでもないからな! だが少なくともオレとお前は似たような悩みを持つ者同士ではある」

「⋯⋯そーだね」


 おい、あからさまに嫌そうにすんじゃねぇ。


「あと無理に丁寧に喋る必要もないぞ。そういの苦手だろ?」

「ホント? それは助かるよ! 時々自分でも喋っててわからなくなる時があってね〜」


 そもそも同情してほしくて語ったわけでもないだろう。確認するだけならわざわざオレ自身に接触する必要もなかったはずだ。


 目的は他にもある。読心術が使えなくともそれぐらいはわかる。


「何が目的だ?」

「わお! 話が早くて助かるよ。デントのあそこに爆弾が付いてるってのは仲間? の人達からこっそり聞いてさ。それで! 私ならどんな魔法も解除できるマジックアイテムの場所を知ってるよ」

「それをオレは信用しろと?」


 カティはニコニコしたまま何も答えない。なんて交渉術を使う女の子なんだ⋯⋯。それと同時に喉から手が出るほど欲しい情報でもある。


 オレの目的はオレの男を元に戻すこと。そのための手がかりをみすみす手放すわけにもいかない。


「わかった。話を聞こう。でもその前に、服を用意してもらっていいですか?」

いつも読んでいただきありがとうございます。


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