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第42話

 雲が引き裂かれた空からは、優しさに満ちた光が真っ直ぐに降り注ぎ大地を照らす。


 それでも眼下に広がる景色は陰惨なものだ。光が照らし出すのは幾つにも築き上げられた死の山。


 オレたちは世界の危機を救ったのかもしれない。それでも、目の前の、身近な人を助けることができなかった。


「ハハッ⋯⋯」


 それをまじまじと見せつけられては、渇いた笑いが込み上げてしまう。


 勇者の力を失い、それを良しとしている自分。重責から解放されたと、どこか安堵している情けない自分。


 これが笑わずにいられるだろうか。


「生きてる⋯⋯まだ生きてるよ⋯⋯!」


 その声と言葉に、自然と走り出してた。


 カティたちと駆け寄った先、ミヤビが微かに息をしていることが確認できる。


 まだこの世界で生きようとしてくれていることが、どれだけ嬉しかったか。


 だから、オレから漏れたのはきっと、渇いた笑いではなかったと思う。





 ●





「そっちはどうだった?」


 無言で首を振るアイリスに、こっちも同じ素振りをするしかなかった。


 オレも、ついさっきダイコクの死を確認したばかりで、行き場のない感情を抱いていた。


 結局、ミヤビ以外の生存者は見つかることもなく、状況から読み取れる限り誰一人逃げ出すこともなく、その命が尽きるまで抵抗していたに違いない。


 そんな勇敢な人々を弔ってやることこそが、今オレたちが為さねばならないことだ。


「ダイコクは、私を庇って、死にました」


 隣に立つ少女が聞いたことのない声で喋った。


「ミヤビ⋯⋯お前喋れたんだな⋯⋯」

「そう、ですが?」


 そんな当たり前のように不思議な顔をされても困るんだけど。


「私が、話すの、おかしいですか?」


 今度は少し怒ったようにむくれてみせる。


 いや、おかしくはない。ただ、今の今まで話さなかったから驚いているだけだった。カティとアイリスだってオレと同じ反応してるだろ?


「でも、そっか。ダイコク⋯⋯お前は最後の最後でやらないといけないことを見つけたんだな」


 カティたちが摘んできてくれた花を、街の入り口に供えた。今はこれぐらいしかできないが、いずれはちゃんとした形で戻ってくることを約束する。


「お前らこれからどうするんだ?」


 オレの旅はこれで終わった。ここまで付き合ってくれた二人とは名残惜しいが、これ以上付き合わせる理由もなくなった。


「私はね、ドロミーのことをもっと知りたいって思った。そのために世界をたくさん旅してさ、最初はやっぱり初めて出会った場所に戻ろうかなって」


 カティが街の人たちとは別に用意していた花を供えるが、それが誰へのものなのかは言うまでもない。


「そっか。いいんじゃないか?」

「私も同意見ですわ。今回の旅は外の世界を知るいい機会になりました。今度は私のほうから、その、世界に歩み寄る番って思いまして⋯⋯」


 何も恥ずかしがることじゃない。アイリスだったらすぐ誰とでも打ち解けられるんじゃないか?


「その時はトレーシーによろしく言っておいてくれ」

「ぜ、善処しますわ」


 そうなるとオレはどうするか。2人みたいに確固たる理由を、今は持ち合わせているわけでもない。


「とりあえず仕事探したほうがいいんじゃない? 無職はまずいでしょ」

「それがいいですわね。元・勇者なんですから」


 確かにそこは切実な問題ではある。でもお前らだってオレと似たようなもんだからな?


「それなら、私と、婚約、します?」

「え?」


 張りつめた空気が流れた。


「私は、もっと、いい国を作りたい。そのためには旦那さん、子供必要です」


 いやいや、何を言い出すかと思えばそんないきなり⋯⋯いやでも一国一城の主か。もしかしてそれもありなのか?


 前言撤回。他2名がオレを睨んでいた。


「私、やっぱり残ろうかな⋯⋯」

「同意見ですわね⋯⋯」

「その晴れやかな笑顔と声のトーンが合ってないんですけど!?」

「それで、どうしたい?」


 オレはこの旅で、人として男としての尊厳を取り戻そうとしていただけのずだったのに、まさか最後にこんな修羅場が待っているとは。


 だが、まぁ、これはこれで、この旅の終着としては間違っていのかもしれない。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『END』




この物語はこれで一応の完結となります。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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