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第40話

「なっ、えぇっ?」


 誰もこうなることを想像していなかっただろう。


 殴られた部分が腫れ、鼻から血を流し、痛みに顔を歪める余裕すらない。


 驚いた表情のまま言葉を発することもなく、呆然と立ち尽くしているのがいい気分だ。


 見事なまでの不意打ちが、これまた見事に決まったことで、オレは心から叫ぶ。


「よっしゃー! スッキリした!」


 この股間の次に気がかりだったこと。こいつら全員に一発ずつお見舞いしてやりたかった。それなくして死ぬなんてありえない。


 オレの傷をご丁寧に癒してくれて助かった。おかげでやり残したリストから大きな課題が一つが消えた。


「言っただろ? 次会ったら殴るって。あ、そういえばその時は本物じゃなかったっけか」

「ちょっと⋯⋯待⋯⋯て」

「というわけでだ。お前たちの残りの手持ちのポーションやら武器とか、適当に貰ってくぞ」

「大人げないですね⋯⋯」


 巡り巡ってようやく起死回生の糸口を掴んだんだ。遠慮なんてする理由もなければ義理だってない。


 だから、よくわからないマジックアイテムであろうと手当たり次第に詰めていく。


 これから挑もうとしている戦いはそれほどに苦難を極めたものになる。どこでなにが役立つかなんてわかったもんじゃないからな。


「ちょっと待って⋯⋯って言ってるでしょ!」


 ようやくここでルーナが声をあげた。いや、さっきから何か喋ってたか?


「私たちあなたの傷を治してあげたわよね? ね? それって私たちの罪滅ぼしなわけじゃない?」


 そういうのは堂々と口にだすものじゃないだろう。


「確かに私たちの行いは褒められるべきじゃなかったかもしれない⋯⋯。でもここまでされる理由ってある?」


 納得も理解もしていないルーナたちに、オレはわざとらしくため息をついた。それもとてつもなく長いため息を。


「あのなぁ⋯⋯おっと、こんなものまで」


 漁っていた袋の底、二重構造で隠されていた超高級ポーションを見つけた。


「あ、それだけは⋯⋯!」


 それを懐にしまうと、ルーナは項垂れる。


「あのなぁ⋯⋯オレはさっきの一発でお前たちとの関係を清算したんだ。だけどオレには新しいくできた仲間を助けにいかなくちゃいけない。こうやって漁ってるのもそのためだ。わかるか?」

「それって⋯⋯つまり?」

「だから恨みとかそんなものは一切関係ない。オレが欲しいだけだ!」


 沈黙の刹那、全員が揃って声を荒げた。



「「「ただの盗人じゃん!?」」」



「てことで色々ありがとよ。じゃぁな!」


 オレたちはさっさとその場を後にした。それは脱兎の如く逃げ足で。





 ●





 走りながら見上げる空、真っ赤な炎と共に黒煙が天高く昇っている。


 今思えば、オレがあの影によって送られた場所はさほど離れていなかった。


 それがミヤビの能力の限界だったのか、もしかしたらオレが戻ってくることも計算の内だったのかもしれない。


 だとすれば、あの寡黙な少女の内に潜む度胸を垣間見た気がする。


 どちらにせよオレが戻らなければミヤビ1人で勝てる相手じゃない。


 自信過剰なわけじゃなく、それが純然たる事実だ。


 少し前まで戦っていた場所が目前に迫ると、すでに2つの人影が立っている。


「お前らもきてたのか⋯⋯」


 一足先に待っていたのは、カティとアイリスだった。


「あらかたの話は聞きましたわ。まさか、私抜きであの化物とやりあうつうもりでしたの?」

「私はほら、何もできないけど、デント1人だと心配だからさ。別に寂しいとか仲間外れは嫌だとかそういうわけじゃないからね?」


 でも、と、少し伏見がちになる。


「デントがここにいるってことは⋯⋯そういうことなんだよね⋯⋯」


 カティはまだどこか、自分の選択に迷っている様子だ。


 だからこそ、その選択を正しかったものにするためにオレたちはもう一度集まっている。


「これを渡しておく」


 ルーナたちから拝借した物資をすべて預けておいた。これだけあれば、これからオレが下手な手を打ったとしても役に立ってくれるだろう。


「急ごう」


 炎の壁の向こう、広がっていたのはかつてないほどの惨状だった。


 物と人の焼ける臭いが鼻を突く。あれだけの数の人間が、皆同様にして倒れている。一目見ただけでは生きているかさえもわからない。


 唯一無傷なのはゲバディのみ。


「おやおやおや。まさか自分から戻ってきてくれるとは。しかし、()()と遅かったですね⋯⋯」


 足元には力なく倒れるミヤビの姿がある。


「それでようやく決心はついたのですか?」


 オレの返答を待つこともなく、ゲバディは倒れ込んでいるミヤビに刀を突き立てた。


「おっと、下手な真似はくださいね? そうすればこの女に止めは刺しません。もっとも、私がその力を手に入れれば皆さん仲良く殺してあげますがね⋯⋯」


 邪悪な笑みに対してオレができることはこれしかない。


 何も隠し持っていないこと、抵抗する気がないことを見せると、ゲバディは狂喜乱舞した。


「ようやくです⋯⋯ようやくこの時がきました⋯⋯」


 ひとしきり笑った後は、他のことには目もくれず一目散にオレの元まで近づいてくる。


 ゲバディの身体が花弁のように4つに開くと、中心には漆黒の闇が広がっている。まるで巨大な口だ。


「それではいただきます⋯⋯」


 視界も音もオレのすべてを呑み込んでいく。

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