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第4話

 声高らかに叫んだのはローブを纏った人物。オレを含めその場にいた全員が呆気にとられる。


 だってそうだろ? パンツ一枚の男が衛兵に取り押さえられている場面。たとえ知人だとしてもわざわざ声をかける奴がいるだろうか。


 仮に元パーティーメンバーなら無表情で殺傷力の高い魔法をぶっ放してきてもおかしくない。


 それぐらいには異常な行動だった。


「子供が大人の仕事に首を突っ込むな!」


 衛兵の怒鳴り声にローブの人物が子供であることがわかった。しかもこいつは女だ。押さえつけられた体勢で不可抗力ながら見えてしまう。スラリとした足腰がそう物語っていた。


 衛兵が立ち塞がろうとするも、一歩も引かないどころか有無を言わさない強引さで巨体の大人たちをかき搔きわけてくる。


「聞こえなかった? その人は私の知り合いなの! だからその手を離してちょうだい」


 少女が語気を強めながら指し示した人物、それはやっぱりオレだった。


 なぜオレを助けるのか、この少女は誰なのか、どこの馬鹿だこいつは。聞きたいことは山ほど出てくるが、少女のローブから覗く口元で人差し指が立てられていた。


 ここは任せろと、だからオレは言葉を飲み込み成り行きを見届ける。


「いや、しかしだな⋯⋯この変質者を放っておくわけにも⋯⋯」


 衛兵の言うことはごもっとも。反論の余地はない。


「こんな格好でほっつき歩いてたこと、私がちゃんと厳しく言っとくからさ。それにこんなの捕まえても一銭にもならないよ?」


 そう言いながら少女は小さな皮袋を取り出した。たったそれだけで衛兵たちの目の色が変わる。それが何なのか見なくたってオレにはわかる。金だ。少女は買収してまでオレを助けようとする。


 さっきまで頑なだった衛兵たちもあっさりとオレを解き放つ。


 今夜はパーっとやろうと談笑しながら持ち場に戻る姿はどこか腑に落ちない。爆発しなくてよかったなと言ってやりたい気分だった。


「それにしても助かった。でもよかったのか? オレなんなのために金を⋯⋯」

「え? あぁ、大丈夫。あれあの衛兵からくすねたお金だから」


 少女は去っていく衛兵の姿を見ながら小さく笑う。


「あの様子だと今日は破産かもね〜」


 さも他人事のように年相応のくっったくのない笑顔を見せる。オレの直感が正しければコイツ、関わると面倒なタイプ。絶対にそうだ。


「助けてもらってあれだけど、オレ急いでるから⋯⋯」

「えー? まだいいじゃないですか。それに、あなたは私に恩があるんですよ?」


 確かにそれはそうだが⋯⋯オレに金目のものは無理だ。見ればわかるが服を買う金などない。そんな自分のどこに恩を返せる可能性を見出したのか。


 まさかオレの身体が目当てだったりして。戸惑うオレの手を引いて少女が歩き出す。


「ここで話すのもあれなので、とりあえずついてきてください」


 なんとか街から出ることはできたが、新しい面倒ごとに巻き込まれた気もする。一体どこに向かおうとしているんだろうか。




 ☆




 街を出てから随分と歩き続け、次第に木々が生い茂る森へと踏み込んでいた。


 日が傾き始めてから辺りは影を落としたように暗くなる。森に迷い込んだ者の足跡を消し、帰り道を見失うなわせるかのようだ。


 ここにくるまでの道中、何度か質問してみたが到着してからの一点張りに段々と会話もなくなった今じゃ気まずさだけが漂っている。


 手持ち無沙汰なオレは譲ってもらった丈の合わないローブの隙間から目の前の少女を観察する。


 ふむ⋯⋯改めて見ると本当に少女だ。種族は人間だから見た目通りの年齢だろう。十代半ば⋯⋯いやもう少し幼いか。


 フードを脱いだ後ろ姿を頭から足の先までまじまじと見つめながらよくわからない頷きを漏らす。


「あのぉ⋯⋯」


 オレの視線に気づいたのか、少女は振り向き様に怪訝な表情を浮かべていた。何事もなかったように視線を逸らしておく。


 オレが変態だから少女を凝視していたわけじゃない。さっきからこの辺りは人の気配はおろか動物の影さえ見えない。二人分の衣擦れだけの音しか聞こえないのは少々違和感が残る。


 用心に越したことはないが、いつでも聖剣を抜けるよう準備だけは怠らない。


「着きましたよ」


 少女が立ち止まったのは木々が開けて円形になっている空き地。ようやく到着したというのにここには何もなかった。


 やっぱり罠か⋯⋯。身構えたが今度はオレが怪訝な表情を浮かべる番だった。


「ちょっと待ってくださいね⋯⋯うわっ、また場所変えやがったな!? ちゃんと事前に言っといてくれないと⋯⋯ここか? 違う⋯⋯こっちか!」


 少女が何もない空間に手を伸ばしながら独り言を呟くのを呆然と見つめる。なかなかの奇行ぶりだったが、次の瞬間には淡い光と共に一枚の扉が現れた。


 それが幻術によって巧妙に隠されていたことはわかったがなんとも奇妙な光景だった。


 動物の気配がないのもこれの仕業。そしてオレにここに入れということ。


 躊躇するオレを見かね少女は扉を開けて囁く。


「ようこそ『この世ならざる酒場』へ」


 これは悪魔の誘いかそれとも⋯⋯。どちらにせよ今のオレに進む以外の選択肢はなかった。

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