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第38話

「ガルベーダの力であなた方の行動はすべて見ていました」


 そう、カティに埋め込まれた種子は消えた訳じゃない。それは使役されていた他の人間たちもきっと同じだ。


 ゲバディがその力を行使できるということは、その内の1人を既に取り込んで得た力だということ。


 カティがどれほどの苦痛に晒されているのか、想像に難くない。ヤツはそれすらも楽しんでいる節がある。


「魔王を倒したあなたが何やら忙しそうにしているではありませんか。そしてその股間にある魔法⋯⋯まったく魔王はよくやってくれましたよ⋯⋯」


 魔王亡き今、すでに自身がすべての頂点に立ったかのような不遜な態度。


 最初から魔王に対しての忠誠など皆無だったとすれば、そういう点ではゲバディはよくやったと言えるのかもしれない。


「これのことを知ってるんなら、オレがこんなことしてる暇がないこともわかってるだろ?」

「それがですね⋯⋯私の目的がまさにそれなのですよ⋯⋯」


 ある意味衝撃的な発言だった。


 オレ自身これに頼った戦い方をそれなりにしてきたが、疎ましく思っていることに違いない。尊厳を取り戻すこと、その根本は何も変わっちゃいない。


「あなたはそれが単なる呪いとお思いでしょうが、それえは純粋な魔王の魔力。この世に現存する、私がもっとも手に入れたいものなのです」

「これが欲しいなら今すぐくれてやりたいところだけど、単に肩代わりってわけでもないだろうし⋯⋯オレに差し出せるものなんてないぞ?」


 度重なる会話でわかってきたことがある。ゲバディの笑みが強くなる時、それはよからぬことを考えている時。


 絶対的な立場での優越感、まさに今がそうだ。


「言い方が悪かったですかね? 私はあなたと取引をした覚えはありまあせんよ?」


 ゲバディが懐から取り出したのは、最後の不浄解体。


「どうしてお前が⋯⋯」

「本当は待っているつもりだったんですが、あなたが取りに来るのが遅いものですからこうして届けにきてあげたんですよ」


 持っている不浄解体には誰かの血液がベットリとこびりついている。


 オレがそのことに気づいたことで、不浄解体をまじまじと見せつけてくる。


「もっともこれを手に入れるために、街の1つには滅んでしまいましたが⋯⋯」

「お前⋯⋯!」


 踏み出した時にはオレの身体は地面に沈み込む。超重力により指先までもが微動だにできず、全身の骨に軋みが走った。


 無様に這いつくばっているオレへ、ゲバディ悠長に歩み寄る。


「あぁ弱い。弱すぎますよ勇者デント。それではこれを手に入れることは無理でしょうね⋯⋯」


 ゲバディはあろうことか手にしていた不浄解体をオレの目の前で握りつぶして見せた。


 溢れ落ちる欠片で最後の不浄解体がこの世から失われたことを物語っている。


「さぁ、これであなたが自由になるにはそれを渡してもらうしかありませんよ?」


 オレたちとの会話の隙にミヤビがゲバディへと切り込んでみせるも、ミヤビの渾身の一撃も身体を固皮へと変化させることで完璧に防いでみせた。


 あれはザックの技。敢えてオレの知っている技を使うことで心理的負荷を与えてくる。


 ミヤビでは無理だ。オレの知る限りあれ程の防御技はない。あれがある限り死角からの攻撃もその刃も、ゲバディには通じない。


「あなたに用はないんですがね⋯⋯!」


 ゲバディのカウンターを宙で身を捩ることで交わすと、ミヤビがオレの身体に触れた。


 瞬く間に、地面に黒い影が広がっていきゆっくりと飲み込んでいく。


 あろうことか、オレをこの場から逃がすつもりらしい。


「やってくれますね女⋯⋯」

「ミヤビ⋯⋯!」


 オレだけじゃない。カティたちも一緒に影の中へと飲み込まれていくのが見えた。




 ☆




 影を通じてどこだかわからい場所へと送られた。


 重力魔法から解放され激しく咳き込んでいると指先に固い感触がある。


「ドロミー⋯⋯」


 影へと飲み込まれる瞬間、カティが放り込んだことでオレと一緒にここまでやってきた。何を思いどういう考えでやったかはわからない。


 ドロミーを抱え痛む身体を引きずりながらオレは歩きだす。


「デント様どこへ?」


 わからない。とにかく遠くへ。1歩でも遠く、あの化け物から離れなくては。


 視界が霞み熱を帯びたように頭が重い。それでも歩き続けなくてはいけない。


 オレがここで倒れたらミヤビの稼いだ時間が無駄になる。ミヤビの犠牲が無駄になる。


 足がうまく動かせず、頭から地面へと突っ込んでしまう。さっき戦いで折ったのか、片足は青黒く変色してしまっていた。


 意識した途端不快な吐き気が込み上げる。


「その身体では無茶です。少しの間落ち着いてください」


 歩けなければ這って進めばいい。幸いに両腕は無事だ。首を抱えたままでも片腕だけで地面を掴む。


 血と共に何かわからないものを吐き出した。


 どれだけ汚れようともどれだけ惨めでも、着実にあいつとの距離を距離を開けていく。


「デント様⋯⋯!」

「うるさい!」


 苛立ちに任せてドロミーを投げつけようとするも、それすらもままならず力なく地面を転がる。転がった先、力強い視線を向けてきた。


「デント様は本当にミヤビ様が犠牲になったとお思いなのですか? それほどまでにミヤビ様が弱いとお考えなのですか?」

「今のゲバディには誰も勝てない。お前だってそれぐらいわかるだろ⋯⋯! だからミヤビはオレをこうして逃がして⋯⋯」


 それなのに地面を掴むこともできず、這って進むことすらできないでいる。


「信じることもせず、勝手に助けてもらったと? とんだ思い上がりですね」

「何が言いたい⋯⋯」

「確かに今のデント様では足元にも及ばないでしょう。冷静になることもできず、逃げることすらままならないまま、何もできずにくたばろうとしているんですから」


 身体が動けばドロミーに殴りかかっていたかもしれない。その結果、自分の手がどうなろうとも、どれだけ気分が晴れていたことか。


「何もできないのはお前も同じだろう」

「私は首しかありませんから。それでもミヤビ様を信じ、少しでも早くあの場所に戻り、救いださねばと考えております」


 誰よりも小さな存在が、これほどまでに頼もしく見えるのか。首なのに。


 ただ恐怖して逃げ出すなんてオレらしくないこともわかっていた。


 どうにかしてゲバディに一矢報いて、ミヤビを助け出すかそれが先決のはずだ。


 ドロミーに改めて教えられてしまった。ただの首なのに。


「そ⋯⋯それで、いい考えはあるんでしょうか⋯⋯ドロミーさん」

「そんな畏まらなくても、デント様はデント様ですよ?」


 転がったままのドロミーを抱き上げて、なんとか身体を起こす。このまま戻ったところでまた同じ目に遭うのは目に見えている。


「で、これからどうする?」

「それについては私に考えがあります。ですが先にその身体をどうにかする必要がありますね」

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