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第37話

 オレでも勝つのは厳しいと、そう思っていたミヤビに対して、ダイコクがこままで引けをとらない動きができるものなのか。


それでもミヤビならと、どこかでそう考えていたものの、徐々に劣勢に追い込まれていく。


「随分と強くなりましたねお嬢様」

「⋯⋯」


 オレもなんとかしてミヤビの元まで駆けつけ加勢したいが、兵士の抵抗によって阻まれ続けている。


 とうとうミヤビが力で押し返されると、ダイコクの持つ至宝の切っ先が、オレを捉えた。


「旅人、お前はなんだ?」

「オレ⋯⋯?」

「そうだ。お前はこの国の人間なのか? ましてやこの国の行く末など微塵も考えていないだろう。そんなやつがどんな道理でそこに立つ?」


 俺ならばと、ダイコクの指示で兵士が横並びに隊列を組む。


「俺ならば、こんな馬鹿げた継将の儀など必要としない。今後生まれてくるであろう命⋯⋯その子らは武器を手に取らずとも暮らせる国を作る。だからこそ、この国は変わらねばならない⋯⋯」

「随分と立派な考えだな⋯⋯」


 オレはアイリスにあのマントを使うよう指示する。それでダイコクの背後を取れば、一時的にでもこの場を凌げるかもしれない。


「そのためにも、我らの平穏を脅かす他国とその民を⋯⋯平和の礎として葬り去らねばならない!」


 話だけ聞けばダイコクは随分と立派なことを言っている。


 改めて言われればこの国が狂気をはらんでいるのは間違いない。それはウンシュウをもってしても変えられなかった根深いものだ。


 ダイコクはそれをたった1人で変えられることを見せつけた。そこまではいい。それなら分かる。


 だかなぜ他国へ押し入る必要があるのか、断固として曲げようとしないその一点、それだけが理解できない。


 待っているのはすべてを巻き込んだ壮大な自殺だけだ。


「やっぱだめだな⋯⋯」


 アイリスへ合図を送るタイミングを見計らう。


「ならばここで終わらせよう。お前も平和への礎となって散れ⋯⋯」

『いやはや、私用を済ませている間に終わっていましたか。しかし見事な手際ですね』


 空気を読まない声が強引に割り込んできた。


『そいつ』はいつからそこにいたのか。圧倒的な存在感だというのにまったくといっていいほど気がつかなかった。


 すでにこの場がやつの支配下になっているということか⋯⋯そうでなければオレが、オレたちが気づかないはずがない。


「全員そいつから離れろ⋯⋯!」


 その言葉は仲間だけではない、この場にいる全員の向けた叫びだ。


『久しぶりだというのに、随分と連れないことを言いますね。勇者デント⋯⋯』




 ☆




「ダイコク⋯⋯それは一体どういうことか詳しく教えてほしいんだが⋯⋯」


 ダイコクの背後に立っていたのは『全能のガルベーダ』オレが倒した魔王配下の1人。生きているはずがなかった。


「お久しぶりですカティ。元気にしてましたか?」

「なんであんたが⋯⋯」

「カティ、話を聞くな! ヤツは死んでいる。目の前のあれはヤツを語る何かだ!」


 恐怖によってカティにオレの声は届いていない。


「やれやれ⋯⋯この場で空気を読んでいないのはあなたお一人だけですよ? あぁ、嘆かわしい⋯⋯勇者デント、以前より何も変わっていないのですね」


 場違いな価値観に芝居がかった口調。頭では理解しているつもりなのに、ヤツの一挙手一挙動が本物と遜色ない。


「プハハハハハッ! おっと失礼。ですがお見事ですよ勇者デント⋯⋯私はガルベーダのような貧弱な存在ではありません。もっとも正体を隠すつもりもありませんでしたが⋯⋯」


 ガルベーダだった()()が次々と姿を変えていく。


 いつかの街で魔物の群れを操っていた存在。


 アイリスの故郷にいた精霊と同種の存在。


 この街の兵士と同じ姿の存在。


 そしてガルベーダの姿を模していたのは同じく魔王配下の一角、『百像のゲバディ』だった。


「お前が全部裏で動いていたのか⋯⋯!」


 その瞬間、ゲバディの背後の地面が何かによって沈み込む。その中心にはマントによって姿を消し、背後に忍び寄っていたアイリスだった。


「そういえばこのマントを渡したこともありましたねぇ⋯⋯」


 今度はアイリスの身体が見えない力で浮き上がると、黒い閃光が弾け飛ぶ。気づいた時にはアイリスはオレたちの後ろにあった建物の壁へとめり込んでいた。


 今のは元パーティーメンバーの1人、ルーナの重力魔法に他ならない。


「その魔法⋯⋯」

「えぇ。これは彼女から拝借したものです」

「お前は姿形を変えるだけの最弱だったはずだ⋯⋯いや、隠していたのか⋯⋯」


 大仰に両手を広げ、魔王配下に相応しい邪悪な笑みを浮かべる。


「確かに一度は倒されました。ですが私は蘇生能力を持った魔物を取り込んでいたのですよ。そして見事復活を果たし、ある目的のため今日まで行動をしていたのですよ」


 オレは嫌な予感がした。


 ゲバディは相手を取り込むことで力と姿を得ることができた。なら、さっきこコイツがルーナの魔法が使えたということは⋯⋯。


「おっと、気づきましたか? あなたのお仲間にはあの戦いの後にもう一度お会いしていますよ⋯⋯」


 一度は縁を切ったはずなのに、仲間のことを持ち出されたことで握った拳に力が入る。それでも今のオレにはこいつと相対できる力がない。


 そんなオレの様子にゲバディは笑みの色を強くした。


「気分が良いので彼の代わりに最初の疑問に答えてあげましょう⋯⋯すべては利害の一致。彼は他国の滅亡を望み私もまた、それに同調しているだけです」

「そういうことだ。コイツがどれだけ危険な存在かは理解している。それでも⋯⋯」


 ダイコクが他の兵士に合図送ろうと腕を振り上げる。


 あの腕が振り下ろされれば一斉に襲いかかってくる。そう身構えた途端、振り上げていたはずのダイコクの腕がそのまま地面へと落ちていった。


「何をするっ⋯⋯」

「勝手なことはいけません。私は彼を殺すことまであなたに許可していませんよ?」


 ダイコクの腕があった場所には多量の血飛沫が迸る。


「勇者、あなたはまだ殺しません⋯⋯その変わり私の目的の礎となって頂きます⋯⋯」

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