第32話
「あーーーっ!」
「うわっ。ビックリした」
全身に電流が走る感覚。
オレは今、大変なことに気づいてしまったんじゃないのか?
あの二人組の男が持っていたマント、回収しておけば他にも使い道があったんじゃなかろうか。
その内容を詳しく聞かれたらアレだけど。
思い出してしまったことを忘れたいほどに、ものすごい後悔が押し寄せてきている真っ最中だ。
「もう1枚は⋯⋯!?」
すでにあの少女はいなくなっている。うーん、まさに神出鬼没。
きっと回収はしてくれているだろうが、望み薄なのは間違いない。オレはなんであそこで爆発してしまったんだろうか。
「あんなの何に使うのさ」
「だって透明になれるんだぜ? そんなもん男全員の夢みたいなもんだろ!」
「あーハイハイ。聞いた私が間違ってたよ」
「デント様は相変わらずですね⋯⋯」
ドロミーがすっかり元に戻っているのは安心したが、今はこいつらに男の夢というものについて語り聞かせてやりたい。
「あらあら、随分と盛り上がっていますわね」
すっかり忘れていた。
「アイリス⋯⋯」
そこでどんな顔をしているかなんて、想像にかたくない。
「い、色々あったんだよ。それよりもその様子⋯⋯その持ち物は優勝したってことでいいんだよな?」
賞品の伝説の武器を携え、傍らには大量の肉。さすがはアイリス。オレたちの期待は裏切らない。
「はぁ⋯⋯。まぁ、それはそうですが」
どこか腑に落ちない様子。飛び入りで参加したには簡単に優勝してしまったことを呆気なく感じるのも無理はない。
なんせ優勝候補のもう1人はオレたちのほうにかかりっきりだった。
だからこそ礼と謝罪を兼ねてもう一度会っておきたかったんだが⋯⋯。
決してオレはマントのことだけを考えていたわけではない。
「あら? その方は⋯⋯」
いなくなったかと思えばいつのまにかオレたちの背後にあの少女が。ほんとに神出鬼没なんだから。
「理由は問いませんが、あなたがいなかったから勝てましたと言われるのも癪なので、いつか手合わせ願いたいところですわね」
「⋯⋯」
少女は微かに頷いた。
「⋯⋯!」
そして思い出しかのように取り出したのは例のマントだった。
それを一体どうしようというのか。なぜこのタイミングなのか。オレの視線は少女の手元に釘付けになる。
「マジックアイテムのようですが⋯⋯無性に怪しい匂いがしますわね」
しまった⋯⋯。一番鼻の利く人物が危険を察知してしまう。アイリスには気づかれないように、このまま自然に振る舞うようアイコンタクトで伝える。
だがそんなオレたちを他所に少女はマントをアイリスに手渡してしまった。
「あー⋯⋯」
「なんですの?」
「いや、えー、なんでもないです⋯⋯」
「⋯⋯?」
自身が何をしでかしたかも理解できずに困惑する少女。そうだよね。いきなりアイコンタクトされてもわからないよね。しょうがないよね⋯⋯。
悪気がないことを理解しつつも、これはショックが大きすぎる。
「さぁ、これからは焼肉パーティーですわよ!」
うなだれる背中をカティが優しくさすってくれることも惨めさに拍車をかけた。
☆
どこから調達してきたのか、敷かれた巨大な鉄板にアイリスが嬉々として火をくべる。
そこに豪快に投げ出される野菜の群れ。一気に熱されていくかと思えば、まだ焼けたかどうかも怪しい状態のままほとんどを平らげていく。
え、まだ早くない?
すでに鉄板の底が見えている。オレたちが手を出す隙すら与えずに。
「なんですの? 食べているところをジロジロ見られるのはちょっと⋯⋯」
「アイリスって野菜も食べるんだな」
とうとう最後の野菜までもが小さな口に運ばれて消えた。
「さぁ、あとはお肉だけですわ! ここからが本番なんですのよ!」
「どんな暴論だよ⋯⋯」
そのままの勢いで焼かれていく肉たちをオレもさっさと口へと運んでいく。うかうかしているとあっという間に平らげられてしまう。
この面子で食事をするということはすなわち戦いなのだ。
「グゥーーー⋯⋯」
「グゥー?」
そんな激しい戦いに水を指す間抜けな音。腹の虫を鳴らすのは、遠巻きにこちらを見つめる⋯⋯というか鉄板を凝視する少女。
なるほど。これはさすがに気になるな。
「あー⋯⋯あんたも食べていいんだぜ?」
取り分けた分を差し出せば言葉は交わさずとも喜んでいるであろう雰囲気は感じ取れる。
しかし、食事の時ですら外そうとしないマスクのまま、どうやって肉を食べるのかと思えばそのまま口へと運んでいく。
どういう原理で食べているのだろうか。
口元に持っていった瞬間には肉が消え、マスクの下で咀嚼している。なんとも奇妙な光景だ。
「食べたい意思表示もできず、こんな調子でよく生きてこれたな⋯⋯」
「いやいや生きてこれてないからこうなってるんじゃない?」
たしかに。何かしらの理由があるのかもしれないが、意思疎通ができなければ食事することすらままならないなんて。
ずっと腹を空かせているのかと思うと少しばかり不憫に思う。
だが安心してほしい。ウチにはそんな方にもにピッタリの相手がいる。
「後は頼んだぜカティ」
「えー⋯⋯」
「そんな露骨にめんどくさそうにするなよ⋯⋯。てきとーに話を聞いてくれるだけでいいからさ」
名残惜しそうにギリギリまで肉を頬張りつつも読心術を行使する。
「じゃあ、ちょっと失礼しますねー」
1人で喋っては1人で頷く。滑稽に映るこれこそが相手の心中を読み取っている証。
「で、どうなんだ?」
「ねぇ、土下座って何?」




