第31話
カティたちを探して街中を駆けずりまわっていると、さっきからチラチラと視界に映る存在。
「⋯⋯」
あの奇妙な装いの少女だった。
オレは後をつけられているのだろうか⋯⋯。それにしては何かアクションを起こすわけでもなくこちらを遠巻きに見つめてくる。
それでいて行く先々で目にするということは、急ぐオレよりも速く移動しているからにちがいない。
強者のなせる技とでもいうのだろうか。なんたる強さの無駄遣いだ。
「なぁ、何か言いたいことがあるのか?」
わざと細い路地に入ることで、目の前に現れるしかない状況を作り出す。
完璧なタイミングで待ち構えていたはずだった。なのに一向に姿を現さないことを不思議に思っていると、背中に何かが触れた。
「うひゃ!?」
いつのまにか背後に立っていた少女。気配はまるで感じなかった。
「えっと⋯⋯」
「⋯⋯」
またこのパターンかと辟易していると、今回はすぐにどこかへ向かっていく。
たちまち置いてけぼりになるオレ。これはこれでどういう状況なんだ。
少女が一瞬こちらを振り返ったことに、まるでついてくることを促されている気がするが、これそのままの意味で受け取ってもいいのだろうか。
少し進んではオレがついてきているかを確認する。
まるで一人で夜道を歩けない子供のような扱いのまま、やがてある場所にまで誘導されていた。
そこで身振り手振りで意志疎通を図られ、理解できたようなできてないような⋯⋯そんな曖昧のままオレは壁を突き破っていた。
なんだこれ。
☆
少女から遅れること一瞬、空いた穴を潜り抜けるとカティたちがいた。
「デント⋯⋯!」
「はいはいデントさんですよー」
2人はやはり何者かに連れ去られていたということか。
しかし⋯⋯盗人が逃げ込むようないかにも場所だ。それ以上の感想は張本人である2人組を前にしてもでてこない。
「デント様にもお手を煩わせましたね。はぁー⋯⋯」
「え? ドロミーどうかしちゃったのか?」
「いやこっちは気にしないで⋯⋯それよりも⋯⋯!」
カティが叫ぼうとした途端、目の前の二人組が消える。その瞬間、何かを羽織る動作だけが辛うじて見えた。
姿を消してそのまま逃げてくれればいい。だがさっきのはそういう目じゃなかった。
何かが飛来する音に身構えた時、すでに身体を刃物のようなものをかすめていた。
つまりはこういうことになるのか。
お互いの手の内がわからない今、相手も距離をとってはいるものの、こちらに何も対抗策がなければすぐに距離を詰めてくるに違いない。
あー、だめだ。全然わかんねー。
追い詰めたはずが逆に追い詰められたことに歯がゆい気分になる。
「うぉ!? 今度はなんだ?」
その場で動けずにいると、自分の身体がよくわからない力で後方に引っ張られた。
さっきまでオレがいた場所には頭部を正確に狙ったであろう刃物の軌跡が見える。
プツリと糸が切れたかのように、身体は浮遊を終え地面を滑る。見上げた先には少女の姿。
「お前にはわかるのか⋯⋯?」
見えているわけではなさそうだ。オレには感じ取ることのできない気配を察知して、不思議な力でオレの身体を勝手に操る。
「助かってるけど⋯⋯」
自分の意思とは関係なく重力を無視した動きに次第に酔い始めてきた。
荷物のような扱いをされることに不満はない。
それよりも負担を押し付けているうえに、完全に足を引っ張っている状態がなんとも心苦しい。
荷物どころかこれじゃお荷物だ。
「見えないけど、いるから⋯⋯! 存在はしてるから⋯⋯!」
何かを伝えようとするもそれが纏まらず、カティはやきもきしだしている。
次第に身振り手振りが多くなり、それを見てオレはさらに気分が悪くなってきた。
「うぷっ⋯⋯」
カティの伝えようとした言葉。それこそがこの状況を打破する一撃足り得ていたに違いない。
見える範囲ではあるが、少女の動きが変わる。
攻撃の矛先はどうやらカティたちに向かったようで、オレの時と同じように2人をこちらに引き寄せた。
宙を舞う子供と首、さっきまでの場所には斬撃の痕。
さらには小さな爆発音と共に、一瞬にして目の前が白く染まった。
☆
一度に事が起こりすぎた。
目の前に広がるコレの正体は煙。視界を遮るためのもので身体に影響などはない。
いつのまにかオレたちは壁を背にし、肩を寄せ合うようにしてなるべく一箇所に集まって周囲警戒する。
おかげで二人組の勢いは弱まっていたが、こちらも迂闊に手は出せない状態だ。
「さっきカティが言ってたこと⋯⋯こいつが言ってたことがわかったんだな?」
少女が小さく頷いた。
ようやくまともにコミュニケーションを取れた気がする。が、そんなことで感動に浸っている場合ではない。
見えないけど、存在している。
煙が何かに押しのけられるようにして拡がる。それは目に見えない存在が忍び寄る痕跡。
ハッキリと見て取れた。
「そういうことか⋯⋯!」
知覚を完全に欺こうとも実在をなかったことにできるわけじゃない。動けば必ず空気が動く。
その空気を掴もうとするなんてなんともおかしな感じだ。伸ばした手の先は煙で見えない。だが確かに感触があった。
「よっこらしょっ!」
反撃をもらう前に持ち上げ地面へと叩きつけると酷い呻き声が漏れ聞こえる。
「そっちは⋯⋯大丈夫だな」
心配するまでもなかった。すでに自分よりも大きい男を軽々と押さえつけているのが映る。
オレも押し倒した男から何かを剥ぎ取るとようやくの対面となった。
「よくもオレの仲間を連れていってくれたな」
「爆殺ってお前がガキの言ってた⋯⋯」
「なんのことだ?」
男たちは顔を見合わせると、持っていた武器を手放して参のポーズをとる。
「わかった。俺たちはもう手を引こう」
それで済むなら衛兵はいらない。逃げる隙を与えずに、問答無用で股間爆発させた。




