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第27話

 何の因果か、今日も今日とてオレは洞窟を走り回っている。


 本来では次の街に向かうには山脈を迂回する必要があった。そこでたまたま見つけた山を一直線に貫いている洞窟。


 ここをを通ればかなりの近道になるはずだった。


 それがなぜか今ではしっちゃかめっちゃかに駆けずり回っている羽目に。


 最初は慎重に進んでいたものの、突如として現れた謎のゴーレムの襲来を受けたことが原因だった。


 アイリスの鼻やドロミーの探知でさえ気づくことが遅れ、完全に機能停止状態だったはずがオレたちを見るなりいきなり襲ってきた。


 倒そうと試みたりもしたがなぜかゴーレムには魔法が一切効かずさらには高すぎる物理耐性。


 動きは緩慢だがそれらが相まった挙句、道幅目一杯の大きさで退路を塞いでいる始末だった。


「あぁもう⋯⋯! なんで私が全裸を抱える役目なんですの!」


 オレは抱えられアイリスが叫ぶのを聞いていた。


「なんだよ照れ隠しか?」

「それはもうやりましたわ⋯⋯!」


 そうこうしているうちに出口が迫ってくる。出口といっても巨大な岩盤が行く手を阻んでいる壁だ。


 そこをオレを使ってぶち破る作戦らしい。もちろん了承した覚えはないのだが。


「アイリス! 一思いにやっちゃって!」

「歯を食いしばりなさい!」


 それは仲間に言うセリフでは決してない。


 結局、遠慮なしに放り投げられ期待通りに通りに爆発してしまった。


 共に行動を始めてからさほど時間は経っていないというのに、驚くべきことにアイリスはすぐにこのパーティーに順応してみせていた。


 もっとも、もう少し常識的な立ち位置に収まってくれると期待していたが、根っこのところはこっち側だったらしい。


 図太い精神に平気で馬鹿ができるところ。なんて頼もしいのだろう。頼もしすぎて痛すぎて涙が出る。


「2人とも無事ですの⋯⋯?」

「なんとかねー」

「無事です。袋に詰められて見えないでしょうが」


 誰かオレの心配はしてくれないのか? 功労者というか被害者というか。消し炭一歩手前で転がっているというのに。


 洞窟から抜け出してからは不思議とゴーレムは追ってこなかった。ぽっかりと空いた穴からは去っていく巨大な背中が見えていた。


「おいアンタら、ものすごい音がしたが⋯⋯もしかして洞窟を抜けてきたのか?」

「あんたは⋯⋯」

「俺はあの街に住んでるんだ。いや、しかし⋯⋯うんうん、なるほど⋯⋯」


 またオレの格好について言及されるかと思ったが、どうやらそういうわけでもない。この格好込みで何かに納得しているような素振りだ。


「あのゴーレムのことなんか知ってるのか?」

「あれは先代の会長が趣味で作ったゴーレムだよ。ここは強い奴がわんさか集まる街だからな。半端な奴が簡単に街に来れないようにって。かなりの資産をつぎ込んだらしいぞ?」


 趣味で? あれを? なんて傍迷惑なことを。


「だったら出口ぐらい用意しておいてくれないと」

「そうなんだよ! この取り組みはすぐ終わったんだがな⋯⋯誰かが出口から塞いじまったせいで誰も入り口までいかねーのよ。だって遠いもんな!」


 そんな笑い事じゃないとは思う。こうやって実際に被害に遭っているわけだし⋯⋯。


「あの洞窟を抜けてきたってことは、あんたら相当にできるんだろ? だったらウチの闘技大会に出てみねーか?」

「そういうのはあんまり興味ないかな⋯⋯」

「そいつは残念。せっかく賞品も出るってのに⋯⋯」


 その言葉で目の色が変わった。主に他の3人が。




 ☆




「オレは常々思うことがある。強さには色々な種類があるんじゃないかって。戦うことだけが強さじゃないんだって」

「なんかもっともらしいこと言ってるけどさ、要約すれば闘技大会のチェックに引っかかったことが悔しいんだよね?」


 オレは顔に熱を感じて無言で頷いた。


 拳闘大会の主なルールは魔法の禁止。それ以外ならなんでもあり。そのため武器も魔法も持ち込み禁止になっている。


 反応検査でオレは大会参加資格を得ることができなかった。


 興味が惹かれなかったとはいえ、参加を拒否されると多少はムキになってしまう。だってオレのせいじゃないし? 魔法を解いてる真っ最中だし?


「てことですべてはアイリスに託された。無力なオレたちに代わってサクッと優勝してきてくれ」

「それは構いませんが⋯⋯賞品は何が出ますの?」

「それでしたら先程、私とカティ様が調べてまいりました」


 それはどこかでもらってきた大会の案内用紙のようだった。


「なになに⋯⋯3位には現会長のサインと参加賞?」

「んー、ゴミだね」

「ゴミですわね」


 お前らもっと言い方とかあるだろ。いや、ゴミだとは思うけどよ。


「準優勝は豪華な肉の詰め合わせ⋯⋯これもどうなんだろうなぁ」

「お肉⋯⋯」

「ゴクリ⋯⋯ですわ⋯⋯」


 え? なにその食いつきの凄さ。普通ゴクリとか言わないぞ? すでに他の賞品になど眼中になどない様子に、慌てて話を戻した。


「はい! 本命の優勝賞品は⋯⋯伝説の武器? なんだコレ」


 あれほど肉に輝かせていた瞳が曇っていく。


「伝説の剣とか聖剣とか結局はは名前だけにすぎませんことよ。それを嬉々として振り回すなど所詮子供と同じレベルですわね」

「うーわ辛辣⋯⋯それオレにも刺さる言葉だからね? もっと言い方をね?」


 伝説の武器がなんなのかサッパリわからないが、最悪売って金に換えちまってもいいかもしれない。


「やるからにはとりあえず優勝を目指すぞ!」

「必ず肉を⋯⋯ではなく優勝ですわ!」


 隠しきれてない本音がダダ漏れだった。

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