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第25話

 そろそろアイリスとの約束の時間が迫ってきている。


 手分けして準備に入っていたが、カティの姿はまだ見えていない。


「おまたせー!」


 袋いっぱいに買い物を終え、小走りでようやく戻ってくると額の汗を拭った。


「これで大丈夫かな?」

「これぐらいあれば十分だ」


 これで準備は整った。あとは戦いに赴くだけ。


 すでに用意された場所にはアイリスたちが待ち受けていた。


『立ち会いは我が行う。お主が勝てばマジックアイテムの譲渡に応えよう。もし負ければ即刻この森から立ち去ること。追加として相手の殺生は禁止とする』

「こっちは3人で協力するけど⋯⋯いいよな?」

「構いませんことよ。丁度いいハンデですわ」


 オレは手招きしてカティを呼び寄せる。その手からドロミーを受け取り彼女にだけ聞こえるように耳打ちする。


「かしこまりました」


 身構えるアイリスと向かい合い、抱えられたドロミーが小さく咳払いする。そして両の目を大きく見開いた。


「アイリス⋯⋯戦う前に一つ言わせてもらうわ。なんなのその貧相な胸は? ウチのカティといい勝負だわ。人か精霊で悩む暇があったらもっと女を磨きなさい。以上!」

「てことでドロミーさんからの有難いお言葉でした。油断するなよアイリス。もう戦いは始まってるんだぜ?」

「いい度胸ですわね⋯⋯」


 いい感じに煽ってくれたドロミーを返す。これがオレの作戦その1。アイリスへの精神攻撃。


「トレーシー様の店での経験が生かされましたね」

「上出来だったぜ。あそこ見てみろよ。約もう1人、とばっちりでいい感じのダメージ入ってるからさ」

「私まだ成長の途中だもん」


 そんな涙目にまでならんでも⋯⋯。


 オレは戦いのために身につけているものを全て取り払う。必然的に全裸になってしまうが致し方ない。


 さすがのアイリスも目を丸くする。怒ったり恥ずかしがったりと忙しそうでなによりだ。


「な、な、なんで脱いでますの!?」

「だって後ろがうるさいからな」

「ウチにはデントの服を買う余裕もないんだぞー。負けたらずっとその格好だからなー」


 声援とは思えない言葉が飛んでくる状況に、アイリスも納得せざるを得ない。


「随分な言われようですわね。ほ、本当に協力できますの?」

「なーに、あれは照れ隠しだ。素直じゃねーんだよ。お前ももう少し自分に素直になればいいのにな」

「私はいつも素直ですわ。だから全力で貴方を叩き潰しますわ」


 オレたちの間に緊張が走る。


『始め!』


 戦いの火蓋は切って落とされた。




 ☆




「走りなさい『銀狼奏曲』」


 やはり最初から全力を出してきた。出し惜しみなしの短期決戦を仕掛けてくる。


 アイリスの周りに展開される狼の群れ。彼女の本気が反映されているかのように、真っ直ぐこちらに突っ込んでくる姿には迷いがない。


 殺生が禁止のこの決闘、必然的に攻撃できる箇所は限られ読みやすくなるが、それよりもっと手軽で手堅い対抗策をオレは用意していた。


「なっ⋯⋯」


 アイリスの驚く表情を尻目に、股間を爆発させる。


 轟音は大地を揺るがし大気を震わせる。股間を中心として放たれた爆風によって近くにいた狼は消し飛んでいた。


 もちろんその代償はオレ自身へのダメージとして返ってくる。


「これならすぐに勝負が着きそうですわね」

「オレがそんなことさせると思うか⋯⋯? カティ!」


 待機していたカティが袋の中身を取り出して放り投げる。受け取ったそれはこの勝負のために大量に買い込んでおいたポーション。


 決して効能が良いものとは言えず、ないよりはマシ程度のもの。


 爆発によって死ぬことはないとわかっていればこれで十分役目を果たしてくれる。


「そのために予め協力の申し出を⋯⋯しかし正気ですの?」

「当たり前だ。オレにしかできない方法で勝たせてもらう」


 アイリスの視線が一瞬カティたちを捉える。いくらでも回復する相手がいるならその元を叩くのが手っ取り早い。


「お前にカティたちを攻撃できるのか?」


 オレの言葉に振りかざしていた手が止まる。迷いに伏せられていた瞳が開かれてオレだけを見据えたていた。


「でしたら⋯⋯!」


 放たれた狼を爆風で蹴散らした。捲き上る土埃に紛れて身を低くしたアイリスが距離を詰めてくる。


 遠距離が駄目なら直接攻撃に移る。その判断は至極真っ当だが詰めが甘い。


 繰り出される手刀を寸のところで回避する。すかさず放たれた貫手を最小限の腕の動きだけではたき落とした。


 こうなるとは予想していなかったのだろう。再びの驚愕にオレは笑って応える。


「オレは常に股間に爆弾を抱えてるんだ。回避だけならお手のもんさ」


 それに安易に距離を詰めればこちらの爆発の餌食になる。それを再度分からせるためさらに至近距離で股間を爆発させる。


 アイリスがすかさず狼を盾にして直撃は避けるものの、衝撃で彼女を吹き飛ばすことは簡単だった。


「くっ⋯⋯」


 大してダメージは与えられていない。にも関わらずアイリスは片膝をついて額に汗を滲ませる。


 オレは知っている。アイリスの魔法がどれだけ魔力を消耗するのかを。だから避けるのではなく爆発で吹き飛ばす方法を選んだ。


 ポーションで回復しつつももオレだっていつまで持つかはわからない。


 ここからはどちらが先に根を上げるかの持久戦だ。


「意地の張り合いを始めようぜ⋯⋯」

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