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第24話

「ということで、交渉は決裂したからやっぱり倒そうってことで、えぇ、決闘することになりました。はい拍手」


 オレ1人の拍手が虚しく響く。虚しすぎてすぐに止めたけど。


「私には、その、手がついていませんので⋯⋯」


 ドロミーが視線で訴える先、カティは引きつった笑顔のまま固まっている。


 持ち帰ってきた報告に怒りを通り越して呆れ果て、それすらも越えて絶句している。


「おーい、大丈夫か? 話聞いてた?」

「聞いたせいでこうなってるんだよ!」

「いやー、でもあの干し肉めっちゃ美味いな」

「あ、ありがとう⋯⋯って、ちがーう! なんでそうなったの!? 私の言ったこと間に受けすぎ!」


 別にカティの案に賛成したってわけじゃない。


 あの時はしょうがなかった。あぁでもしアイリスを繋ぎとめておかなければ、オレたちの関係は本当に終わっていたかもしれない。


 むしろそれすらも綱渡りだった。アイリスに拒否されていたらどうなっていたことか。


 結果的に戦う羽目になってしまったが、それは諦めて受け入れるしかない。


「もーほんと信じられない。バカバカバカ」


 いつもより多めに転げ回っているのは不満の表れだろうか。


「実際のところ勝算はあるのですか?」


 カティよりも冷静ではあるが、ドロミーの口調は少し刺々しい。


「正直なところ厳しい。ありゃ化け物だ」


 先の戦闘を見て確信したが、人間と精霊では根本的に違いすぎている。


 人の部分も併せ持つアイリスに至っては身体能力すらもオレを軽く凌駕している。


 精霊の主たるあの狼に至ってはすべてが不明だが、アイリスはこの森で最強の一角なのは間違いない。いや、狼だけに最強の1匹だろうか。


 まともにやり合えば勝てる見込みはほとんどない。


「もういっそ謝ろう。それで解決ってことでいいじゃん。ね?」


 ピタリと動きを止めたカティが真顔になる。


「気が早いな。まだオレが負けるって決まったわけじゃないぞ?」


 もちろんそれを実現するにはあれこれと準備が必要になってくる。


 オレは現状可能であろう作戦を伝えた。それを聞かされて2人の表情に暗雲が立ち込めるであろうことは承知の上だった。


「デント本気?」

「本気も本気。いたって大真面目だ」

「なるほど。了解いたしました。ですが⋯⋯」


 そう。残る問題はあと1つ。この作戦を成功させるにはもう1人の協力が必要になる。


 だがオレには確信があっった。オレの勝利に必ず貢献してくれるだろうという確信が。




 ☆




 デントらが決闘に向けて頭を悩ませている頃、人と妖精の間に生まれた子、アイリスもまた同様に悩み後悔していた。


 アイリスのいる場所は森の奥深くにある湖のほとり。


 ここは小さな頃一度家出をした時に見つけた。以来ここはアイリスのお気に入りの場所となっている。


 嬉しい時も悲しい時も、こうして悩める時でさえアイリスはここを訪れていた。彼女の成長をこの場所はずっと見てきた。


「最悪な気分ですわ⋯⋯」


 水面に映る情けない自分の顔。それを払拭するかのように手頃の小石を投げ込んだ。


 大きな波紋が揺らぎ立ってもそこにはまた自分が映る。


『そこまで悩むのならなぜ受けたのだ?』

「⋯⋯売りことばに買い言葉ですわ!」


 狼はアイリスに身を寄せるようにして、同じようにほとりに腰掛ける。


 いつまでもむくれたままのアイリスに対し、ついついため息を漏らしてしまう。


『お前は昔からすぐ熱くなる。そこはまったくといっていいほど変わらん』

「いつまでも子供扱いしないでくださいませ」

『我は数百の時を生きておる。お主だけじゃない。我にとって人の子はいつまでも子供そのものだ』


 狼の物言いに何も言い返せせずその巨体に顔を埋めた。そのまま声にならない声をあげるのを、狼は静かに聞いていた。


『お前の苛立ちの原因はあの男か? 本当はわかっているのだろ?』


 それは的を得た言葉。


 アイリスにとって人間とは都合のいい存在という認識だった。すぐに群れるくせに外部から脅かされそうになると徹底的に排除しようとする。


 そんな中でもトレーシーはアイリスに対しては分け隔てなく接していた。


 それが彼女をさらに困惑の渦へと突き落とすことになり、人間というものがわからなくなって逃げ出した。


 両親を恨んでいるつもりはない。それでも時々訪れる黒い感情を抱く自分が嫌になる。


 小石一つを投げ込まれた水面のように、アイリスの心は揺れていた。


「あの男変なんですわ⋯⋯」


 いくら拒否しようともどこまでも追ってきて、アイリスのをかき乱す厄介な存在だ。


『いかにも。あの男は変わっておる。だがあれこそ人の子というものだ』


 どれだけ逃げても無駄ならもう立ち向かうしかない。正面からぶつかってそれを粉砕するまでだった。


 狼の身体から顔を離したアイリスは大きく呼吸する。


「私、やっぱり受けて立ちますわ」

『お前はそれぐら豪気なほうがよい。しかし一筋縄ではいかないかもしれないぞ?』

「それでも構いません⋯⋯」


 水面は静かにアイリスを映す。そこにはもう迷いの表情は見えない。


「私が私であることを証明するだけですわ」

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