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第2話

 室内を突如として光が包み込み衝撃と轟音によってオレの身体は吹っ飛ばされていた。


 爆風によって開け放たれた窓からは冷たい夜風が流れ込み、酒と爆発の余波で朦朧としていた意識が徐々に戻ってくる。


「大丈夫かルーナ!?」


 窓を含め壁や天井までいたるところを穴だらけにした爆発の近くにルーナもいた。激痛の走る身体を起こし彼女の元まで駆け寄る。


 半壊したベッドの上、あられもない姿を煤まみれのシーツで隠しているのは魔術師ルーナだった。


 どうやら防御魔法によって難を逃れていたらしい。胸をなでおろすのもつかの間、どうしてこんなことになっったのか状況の把握に追われる。


 曖昧な記憶を整理しつつ現状と照らし合わせる。一つの部屋に男女がいてルーナのほうは衣服を身につけていない。つまりはそういう流れがあったのだろう。


 しかし実際に事を為す前に爆発が起こった。こんなところだろうか。


「一体なんだっていうんだ?」


 確認の意味も込めてルーナに問いかけるも彼女からの答えは返ってこず、こちらをを凝視したまま微動だにしていない。どうやら爆風でオレの衣服までも弾け飛んでいたみたいだった。


 何か身に纏えそうなものを探そうとするが、どうやらルーナはそんなことを気にしていたわけじゃなかった。


 その視線はもっと下の方、平たく言えばオレの股間を凝視していることに気がつく。


 オレは慌ててルーナから視線を外した。もちろん、一糸纏わぬ姿を直視できなかったからではない。


 ルーナの眼差しがゴブリンでも見るかのように冷たく殺意に満ちたものに変わり、オレの股間にそれがあったから。


「テンド⋯⋯それはなに⋯⋯?」


 さらに温度の下がった言葉を投げつけられて身体が震える。



 オレの股間が神々しく輝いていた。



 さてはて、これはなんだろうか。衣服どころか下着までも爆発で弾け飛んでいたのか。いやいや、そうことじゃない。この不可解な現象に現実逃避しかけるのをグッと堪える。


 それよりもこれ、これオレのはちゃんと付いてるんだろうか⋯⋯。股間に重さはあるが触って確かめるまでは気が気じゃない。


 神々しい光のその先には必ずあると信じて優しく触れてみる。その感触が伝わるのと同時に二度目の爆発が起きた。


 なるほど。爆心地はそこでしたか。


 再び響き渡る轟音の最中、店主の怒りの声と部屋の外から足音が駆けつけてくる。現れたザックとチェルシーが驚愕の表情に染まる。


 誰だってこんな現場を見たらそういう反応になるだろう。爆発の現場に死に体のオレが転がっているんだから。


 見事にパーティーメンバーが勢揃いする。しなくてよかったのに。




 ☆




 ボロボロになった部屋の中央、股間を輝かせながら正座するオレ。


 チェルシーが店主と話をつけてくれた後、ルーナの魔法によってこの部屋に結界が張り巡らされるのをオレは黙って見ていた。これは紛れもなく隔離そのものだった。


「お前って奴はーっ⋯⋯」


 ザック渾身の右ストレートが炸裂してオレの身体は後方へ飛ぶ。手加減などない本気の拳にのたうちまわることしかできない。


「ザック。もう少し手加減できないの? 下手に殴ったら死ぬかもしれないじゃない⋯⋯私たちが」


 なんかすでに危険物みたいな扱いをされている。


「デント様がルーナ様を殺そうとしたなんて⋯⋯うぅっ⋯⋯」


 泣きたいのはオレのほうだ。


「死ね」


 ルーナは随分とストレートな物言いだった。


「ま、待て⋯⋯! オレがルーナを殺そうだなんてするはずないだろ? これは何かの間違いなんだ。信じてくれ⋯⋯!」

「確かに。ルーナを殺す理由がデントにあるとは思えない⋯⋯」


 必死の訴えにザックが耳を傾けてくれる。でもオレをさっき殴ってるけどな。理由も聞かずに殴られてるけどな。


「ザック⋯⋯」

「デント⋯⋯まさかお前童貞なのか⋯⋯?」

「はい?」


 予期せぬ問いかけに面食らいオレは否定し損ねた。そのせいで彼らにさらなる疑念を抱かせてしまう。


「まさかルーナに童貞がバレそうになったから⋯⋯」

「デント様がルーナ様を殺そうとして⋯⋯しかも童貞で⋯⋯うぅ⋯⋯」

「死ね」」


 あれ? 視界がボヤけてきた⋯⋯涙が溢れて止まらない⋯⋯。さっきまでパーティーだと思っていたのに、オレの股間の現象を一緒になって解決してくれるものだと期待していたのに。


 信用の無さと全裸で涙を流す自分になんだか情けなくなってきた。


「とりあえず数発殴って洗いざらい白状してもらうか」

「殴るなら股間以外にしてちょうだいね」

「そんなセリフ始めて聞いたぞ⋯⋯」


 考えるんだ。股間がこんなことになった原因の心当たりを。オレは必死で思いつく限りの出来事を探る。そして一つの答えに辿り着いた。魔王だ。


「そうだよ魔王だ⋯⋯。あいつが最後に放った魔法⋯⋯身体に異変がなかったから気がつかなかったけど、きっとあの魔法が原因でこうなったんだ⋯⋯! なんだよ、ちょっと考えれば気づくことじゃないか」


 自分の結論には自信があった。仲間もこれでオレの言ってることが嘘じゃないとわかってくれるだろう。


 しかしやってくれたな魔王⋯⋯悪あがきでこんな魔法をかけてくるとは思わなかった。


 お前の目論見はオレには通用しなかったぞ。まぁ、ちょっとだけ焦ったけどな。ちょっとだけ。


「おいおい⋯⋯まさか他人の仕業にしようって魂胆なのか?」

「デント様⋯⋯魔王を悪く言うなんて⋯⋯」

「いや魔王は悪いだろう魔王は!」


 さっきまでの涙が嘘のようにチェルシーの瞳からは光が消えていた。それはザックもルーナ同様だった。


 もしかすると、三人は心のどこかでオレを許そうと考えていたのかもしれない。そんな最後の良心をオレ自身が踏みにじった形になっていた。


 あ、オレ、もうダメかも。


 そんなオレを他所に、三人はヒソヒソと何か相談をし始める。時折聞こえてくる物騒な単語に全身が強張ってきた。


 こうなったら漏らすか。ここで漏らせばすべて解決できるはずだ。よーし漏らすぞ。前も後ろも両方いっぺんにだ。


「テンド。忘れましょう」

「忘れるって⋯⋯何を?」


 四つん這の状態で下腹部を力ませながらオレは顔を上げた。


「全部よ。私たちはパーティーどころか知り合いでもなかった。もちろん魔王討伐なんてこともなかった。あなた誰? 全裸の童貞?」

「ちょっと覚えてるじゃん⋯⋯」


 淡々と言葉を並べるルーナの姿には狂気すら漂っている。そもそも童貞でもないんだが。


「でもね⋯⋯あなたがそんな人間だとしてもこれまでの冒険は本物だったわ」


 ルーナの言葉にザックもチェルシーも力強く頷く。ここだけ切り取れば感動の一幕かもしれないが、全員行動と表情が一致ししていない。こいつら悪魔か。


「それじゃ、さようならテンド」

「テンドお前はいい奴だったぞ⋯⋯」

「テンド様⋯⋯今までありがとうございました⋯⋯」

「またまたそんな心にも思ってないことを。それよりもほら。もうすぐ出るぞもうすぐ⋯⋯」


 ルーナの高速詠唱で放たれた昏睡魔法によって、オレの意識はそこで途絶えた。

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