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第19話

 静まり返った空気も気にせず焚き火は轟々と燃えている。


 火花が弾けると同時に、オレの鼓動が跳ねた。


「どうしてここにいる? 今までどこにいたんだ? なんでオレを置いていなくなった?」


 言葉を重ねるごとに、動揺で凍りついていた身体に沸騰した血が巡る。


 息をする間もなく浮かんだ疑問をを端から並べていき、頭にまで血が昇り視界が急激に狭まってきた。


「落ち着いてゆっくりと呼吸をするのよ。きっと精霊の仕業で混乱してるんだわ」


 誰かが淹れてくれた暖かい飲み物が差し出される。加えて一緒に火を囲めと誘われているかのように、1人分のスペースが空いていた。


「オレは⋯⋯いや、そう、なんでもいない⋯⋯」


 受け取った暖かい飲み物は不思議な味だった。一口飲めばあれほどの焦燥感がたちどころに消えていく。


「ここにくるまでに摘んでおいたハーブを使ってるの」


 ルーナの落ち着いた話し方も以前となんら変わらない。それはザックもチェルシーも同じ。これまで一緒に冒険をしてきたオレの知っている仲間そのものだ。


「さっきは悪かった。だから答えてくれないか?」

「あぁ、少しばかり長くなるぞ」

「どうせこの森から抜け出すのは簡単じゃない。時間なら有り余ってるところだ」


 オレの軽口にザックが笑うと他のやつからも笑みが溢れる。この雰囲気とても久しぶりな気がする。


 ここまで()()でなんとかしようと躍起になっていたオレには縁遠かった温もりだった。


「オレたちはあれからお前さんにかけられた魔法をどうにかしてやりろうって話しててな」

「オレの魔法を⋯⋯?」


 なんでという疑問が最初にきた。だって理由が見当たらないじゃないか。


「だってあのままにしておけないだろ? 俺たちは仲間なんだから」


 チェルシーもルーナも一緒に頷く。まさかオレのために全員がここまできてくれていたなんて思いもよらなかった。


 でも仲間ってなんのことだ⋯⋯仲間⋯⋯仲間⋯⋯頭に靄がかかっているみたいだ。


 違う。こいつらはオレの仲間じゃないか。どうして余計なことを考えてしまう。


「まぁ、マジックアイテムを手に入れようと考えたのはいいが、こうしてヘマしちまっているわけなんだけどな」

「笑いごとじゃないんだから⋯⋯」


 ルーナの呆れ果てたため息に豪快にザックが笑い声をあげた。


「あ、あの! デント様⋯⋯!」

「おぉ!? どうした?」


 チェルシーがいきなり身を乗り出してきた。オレの膝に乗せた小さながわずかに震えている。ていうかちょっと顔が近いな⋯⋯。


 オレの気恥ずかしさが伝わったのか慌てて元の場所に戻るが、その際にチェルシーはカップも焚き火も色んなものをなぎ倒していく。


「大丈夫か?」

「大丈夫⋯⋯です! それで改めて⋯⋯ごめんなさい!」


 今度は勢いよく頭を下げたかと思うとそのまま地面へと頭突きをかました。


 見ているこちらが青ざめるほどの鈍い音に、これは何も言わないのが優しさだろうか。


「おいチェルシー! お前それは抜け駆けだろ! ったく、最初に謝ろうと思ってたのによ⋯⋯」

「早い者勝ちですから!」

「そういうのって早いも遅いも関係ないでしょ。 心がこもってるかどうかじゃない?」


 オレはすっかり蚊帳の外になっていた。3人の言い争いの結果、代表をルーナとすることでなんとか纏まりを見せる。


「デントはきっと私たちのことをよく思ってないはず。だからこれはワガママになっちゃうのかもしれない。また一緒に私たちと冒険しない? これは本心の言葉よ」


 ルーナの言葉はオレに熱い滾りをもたらした。




 ☆




 差し出される手をじっと見つめる。この手を取ってもう一度こいつらと冒険するのも悪くない。今ならきっと喜んでそう言えると思う。


「あぁ⋯⋯もう一度一緒に⋯⋯」


 伸ばした指先がルーナに触れた。その瞬間小さな痛みが走る。


「デント⋯⋯どうかした?」

「いや⋯⋯」


 指先にはなんら異常はない。それでも感じる痛みは指先から下半身へと流れていき、とうとう股間へとたどり着いた。


 そこには神々しく輝く光がある。


「さぁ、この手を取って⋯⋯一緒に冒険しましょう」

「これはオレがどこかで望んでいたことなのかもな」


 自嘲気味に笑うとルーナは怪訝な表情をする。それでこそオレの知っているルーナだ。伸ばしていた手を戻して立ち上がる。


「オレはなお前らに次会ったら一発殴ってやろうと思ってたんだ」


 チェルシーには全てを売り飛ばされた。ザックには殴られて、ルーナには捨てられた。


 なんでそんなことを忘れていたんだろうか。


 こいつらがオレのためにアイテムを探すわけなんてない。ましてや一緒に冒険しようなんて口にするはずもない。


「もう勇者でもなんでもないんだ。ただの1人の人間なんだよ。それなのに勇者然とした話し方とか態度とか。ちょっと自分でも恥ずかしいうえに痛いよな⋯⋯」


 少し思い返すだけでも無意識にやってしまってたことはある。自覚できるだけまだマシかもしれない。これも若気の至りってやつだろう。


 その場で頭を抱えたり独り言を口走るオレの姿に、ルーナたちは呆然と見つめていた。


「気にしないでくれ。ただの独り言だから⋯⋯って、今のお前たちに言っても意味ないか」


 なんどか呼吸をして気合を入れ直す。何度やっても慣れないが慣れたくもない。


「ただのティオナ・デントが宣言する。次会ったら絶対にお前たちを殴る。なにがあろうともどんな状況だろうともだ」


 そろそろ目覚める時間だ。これが最後の言葉。


「その時は覚悟しろよな?」


 股間に触れて爆発を引き起こした。

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