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第14話

 恐怖に怯えながら今日も眠る。そんな人々が暮らす街は不気味なほど静まり返っていた。


 闇に灯る明かりは咥えた煙草の火。巨大な斧担いだこれまた巨体の女。否、女の格好をしているのは男。


 夜の店を営むトレーシーが街を闊歩していく。歩幅は大きく常に真っ直ぐに、やがて目的の場所へと到着する。


 そこは街の入り口だった。トレーシーはこの場所で訪れを待つ。こんな時間に街へやってくる存在は一つしかない。


 魔物だ。


 トレーシーは夜な夜な魔物を待ち受けていた。魔物が常にやってくる日もあればそうでない日もある。


 人知れず街のため自分の守る場所のため、トレーシーは今日も武器を手にしていた。


 咥えていた煙草を握りつぶす。夜の闇よりも深い底なしの邪悪さを纏った魔物の群れ。それが街を目指して一目散に向かってくる。


 今回の群れはいつもと様子が違っていた。向かってくる数が多いのはさることながら、妙に統制が取れていることにトレーシーは疑問に思う。


 普段であれば欲望のままに街を目指して突っ込んでくるだけなのに、間合いを測るようにしてその歩みを止めた。


 これではトレーシーのほうから無闇に動くことができない。魔物たちもそれがわかっているのか最初に動いたのは小型で素早い魔物だった。


 影に紛れ地を這うようにして街へと向かってくる。


 トレーシーは迫る1匹を巨大な斧で叩き潰すと残りが左右へと分かれる。男はまず左に飛び出した魔物めがけて斧を放り投げる。


 2匹目を捉えるのを確認し、柄から伸びる鎖を手繰り寄せ空中で斧の軌道を変える。ハンマーを振り回す要領で3匹目の魔物を切り裂いた。


 戻ってきた斧を掴みトレーシーは吠えた。魔物よりも凶暴に荒々しく、それはここを守り抜く意思そのものだった。


 しかし、それで歩みを止めてくれるほど魔物たちも優しくはない。さらに大型の魔物が今度はトレーシーへと直接向かってくる。


 斧から繰り出す攻撃は一撃必殺の威力を持つ。たとえ大型の魔物だろうと両断されること必須。


 だが一撃必殺故の攻撃故、必ず一撃を入れる必要がある。トレーシーに向かう魔物はあろうことかその攻撃をわざと受けた。


 囮、罠。考えを巡らす暇もなく他の魔物が脇を抜け、慌てて戻ろうとしたのが隙になる。


 トレーシーの身体を背後から鋭い爪が貫いた。これで絶命するほど脆い身体ではないものの、足が止まってしまった。


 振り向きざまに魔物を雑に切り裂くも、片膝を着いた視線の先で魔物が街の入り口に差し掛かっている。


 トレーシーが血の泡と共に叫ぼうとした瞬間、切り刻まれた魔物のが宙を舞った。


「待たせたな」


 そこにいたのは股間を神々しい光が包む全裸の男だった。




 ☆




 街の入り口のほうから物凄い雄叫びが聞こえてくる。今まさにトレーシーが魔物と交戦しているに違いない。


 移動しながらオレは2人にこの街のことを簡単に説明する。


「つまりデントはあの人を助けたいの?」

「何言ってんだ? オレは働くって言ったんだ。もちろん金はしっかりと頂く」

「へー⋯⋯」


 言ってることはカティと変わらないはずなのにどうしてそんな顔されなきゃいけないのだろう。


「あ、待ってとりあえず服は脱いどいたほうがいいんじゃない?」

「なんだよ。オレの身体が恋しくなったか?」


 無言で足を蹴られる。不慮の接触で服が爆散してしまう可能性を考えればここはカティの言う通り最初から全裸のままで戦いに臨んだほうがいいかもしれない。


 それにしても最近は服を着てないことのほうが多い気がするな⋯⋯。


「おい。あんまりこっち見るなよ」

「はぁ!? 見てないし! 案外いい身体してるなーとか思ってないし!」


 めっちゃ見てるじゃねぇか。


「デント様! 何か様子が変です。魔物の反応が異常に多い気がします」

「よしさっさと行くぞ!」


 オレは今まさに街へと侵入をせんとする魔物を薙ぎ払った。


「待たせたな」

「どうしてあんたたちが⋯⋯」

「仕事をもらいに来た勇者だ。報酬は要相談でいいか?」


 オレの登場に驚きを隠せないのも無理はない。ただの小僧だと思ってたやつがこれほどの強さでしかも勇者だったんだからな。


 それともその驚きはこの格好のほうだろうか。


「残業代まで請求するつもり?」


 オレの背後に控えていたカティとドロミーにも気づいてトレーシーが笑う。


「身体に穴空いてるけど大丈夫か?」

「そんな姿のに言われたくないわよ」

「お二人とも、お気をつけください」


 向かってくる魔物を振り向きざまに倒す。オレが加勢したことで魔物たちの進行が鈍化するも、この数相手にどれほど持ちこたえられるか。


「この魔物の群れ何かに操られている可能性があるわよ!」

「だったらそいつをぶっ倒すのが手っ取り早い」


 オレの合図で散会する。今度はこっちから攻勢に出る番だ。

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