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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者のシリーズ

勇者アクストへの想い⇒まさかこんなことになるとは思わなかったわ…

作者: ユミヨシ

「私の名は、サクラ。桜の精霊なの。よろしくね。」


長い黒髪に桜の簪、桜色の短い着物に、ズボンを履きブーツ姿、細身の剣を腰に差すのはサクラと言う若い女性。

彼女が右手を差し出せば、流れるタテガミのような銀髪に整った顔、腰に銀の剣を差した青年は笑って、右手を差し出した。


「俺の名前はアクスト。冒険者をしている。ランクはAランクだ。」


サクラと握手をするアクスト。


何故、この二人が握手をしているかというと、

ギルドの掲示板に貼られたとある依頼、それに同時に食いついたのがきっかけだった。


- 聖女アーリアの護衛任務 -


ただ、報酬はあまり高くなく、それでいて拘束が1週間なので、誰も受けたがらないのである。

その依頼の紙に手を伸ばそうとした、サクラの横からその紙をかっさらったのが、アクストであった。


「君もこの依頼を?」


「貴方も?この依頼を?安い報酬なのに?私に譲りなさいよ。」


「俺はこの依頼を受けなければならない。」


「私は聖女様に興味があるの。」


互いに睨み合う二人。


アクストが募集の紙を見て、


「一人か二人という募集だ。良かったな。」


「あら、それは良かったわ。さっそくギルドの受付に申請しましょう。」


二人してギルドの受付に行けば、受付嬢は、


「この聖女様の護衛、誰もやりたがらなかったのよ。助かったわ。」


と歓迎された。


こうして、共に聖女様の護衛を受ける事になったのだが、

このアクストという男の出会いこそサクラにとんでもない人生を課す事になるとは

この時、思いもしなかったのである。


銀の髪の聖女アーリアは、ジュエル帝国の西方地区に住む貴族達に流行っている病を治すために、旅をしなければならない。その護衛を雇いたいとの事だった。


二人が都の神殿の聖女の元へ行けば、聖女アーリアは5人の護衛達と共に、

2人が来るのを待っていてくれたらしい。


美しい笑顔で出迎えた聖女アーリア。

この聖女は、都を結界で覆い魔物の侵入を防いだり、病人を治癒したり、凄い力を持つ聖女であった。


アーリアは二人を見て微笑んで。


「この度は有難うございます。些細な報酬なのに、引き受けて頂いて。それでは参りましょう。」


「よろしくお願いします。」


二人は頭を下げ、用意されていた馬に乗り、聖女の馬車の後ろを護衛する。


サクラは年若い精霊だった。

そして、人間と同じように生きたいと願い、強さを極めたいと修行をする、かなり変わった精霊だったのである。


他の精霊にからかられた事がある。


「人が好きだからって人に惚れては駄目よ。

交わった時点で、精霊としての長い寿命も、失って人間になってしまうのだから。」


サクラは精霊仲間の言葉に、


「そんなバカな事しないわよ。私は強くなりたいの。ああ、強いライバル現れないかしら。

そうしたら楽しいのに。」


人間か書く小説の、恋愛小説より、男の友情小説の方が好きだという変わった趣向の持ち主であった。友情…いいわっーー。私も強さを極めた友情が欲しい。


馬に乗り、聖女の馬車の後ろを進みながら、アクストの横顔を見つめる。


「アクストはAクラスなのよね。かなり強いってこと?」


アクストは微笑んで。


「勿論。それなりに強いという事だ。Aクラスなんだから。今度、出合わせをするか?

サクラが強いと言うのなら、腰の剣は飾り物ではないだろう?」


「ええ。楽しみだわ。よろしく頼むわ。」


そして、もう一つ、


聖女様という人に興味があった。


結界を作り、人を癒す力のある聖女。近くで見て見たい。

だから、今回の依頼はやってみたかったのである。

癒しの力が間近で見られる。楽しみであった。


馬車は丸一日かけて、西方の地域の貴族達が住む街へ到着した。


街に着くと、広場に貴族達が30人程、集まっている。

皆、青い顔をして、ゴホゴホと咳をしていた。


聖女アーリアが馬車から降りれば、貴族の一人が進み出て。


「今回は足をお運び頂き有難うございます。これは礼のお金です。」


聖女アーリアは微笑んで。


「わたくし個人が貰う訳にはいきませんが、神殿への寄進という事で頂いておきましょう。」


護衛の一人がその金袋を受け取る。


「それでは治療を始めます。」


用意されていたテントの中に聖女アーリアは入って行く。


護衛の一人が、アクストとサクラに。


「お前達はテントの外で、他の3人と共に居てくれ。貴族以外の者が近づいたら、

剣を持って追い払えとの事だ。」


サクラは思った。


えええ?どういう事だろう。それにテントの外では癒しの力が見られないじゃない。


こっそりとテントの隙間から中を見れば、アクストも同じように覗き込んでいて。


「お前はどう思う?聖女アーリアについて。」


「え?どう思うって。」


「救われるのは金持ちばかり…って知っていると思っていたが。」


すると一人の女が子供を抱えて近づいて来た。他にも遠巻きに沢山の人達がこちらを見ている。皆、咳をして苦しそうだ。


その女は、護衛の一人に向かって。


「お願いです。聖女様にうちの子を…」


「駄目だ。聖女様は忙しいのだ。」


「お願いですから。このままではうちの子が…」


他の人達もじりじりとこちらに近づいて来る。

護衛達がアクストとサクラに。


「あの連中を剣で追い払え。」


「病人じゃない?どうして聖女様は診てあげないのよ。」


サクラの言葉に、


「聖女様の身体は一つ。見られる人数も決まっている。仕方がないだろう。」


と護衛の一人にそう返されてしまった。


仕方がないので、剣を抜いて人々を追い払う。

何だか心が痛かった。


30人の貴族達を診て癒した聖女アーリアは、西方地区の次の地域へ馬車で向かう。

その途中の街で予約をしていた宿で今夜は泊まる事になった。


サクラは思う。これってなんか変じゃない?

アクストが宿の外に出て来て。


「サクラ。ちょっと手合わせしてくれないか?」


「ええ、私もそんな気分だったのよ。」


二人は剣を構える。


アクストの剣は銀色に輝いて、美しかった。


サクラは思わず、


「何それ、凄い剣ね。私の剣も、特別に作って貰ったのだけれど、

とてもじゃないけど敵わないわ。」


「神がくれたものだからな。」


「え?神?」


「行くぞ。」


アクストが、斬りこんでくる。

細身の剣で受け止めた。

そう、鍛冶の精霊が作った特注の剣だ。そんなに簡単に折れはしないが…


凄い力…。負けないわ。


互いに激しく打ち合い始める。


アクストは楽し気に笑って。


「お前の剣も凄いな。」


「お褒めに預かり光栄。私の腕も褒めてよ。」


バっと離れれば、アクストは。


「魔法は使えるか?」


「使えるわ。」


「それならば、いでよ業火っ」


魔法陣が空中に展開し、すさまじい勢いの炎がサクラに向かって噴き出す。


サクラも魔法陣を展開し、


「なんの、いでよ。水龍っ。」


水で出来た竜が出現し、業火とぶつかり合う。互いの力は空中でぶつかりあって四散した。


アクストは楽し気に。


「やるな。それならば、これならどうだ。炎のスピアっ。」


魔法陣から30本の炎の槍が出現し、サクラに襲い掛かる。


「なんの、いでよ。氷のぬり壁――――。」


どーんと魔法陣から大きな氷の壁が出現し、炎の槍を弾いた。


すると、扉の所で声がした。


「貴方達面白いわね…。でも、街中でそれをやったらいけませんわ。」


聖女アーリアが立っていた。


サクラは慌てて。


「た、確かにそうですね。申し訳ございません。」


アクストも頭を下げて。


「おっしゃる通りです。申し訳なく…。」


アーリアは微笑んで。


「明日も早いわ。早く寝なさい。おやすみなさい。」


宿の中に入っていってしまった。


アクストがサクラに声をかける。


「それにしても楽しかった。お前は俺のライバルになりそうだな。」


「ええ、私も楽しかった。また、やりましょう。今度は街の外で。」



翌日も、貴族が40人ぐらい、待っていて、周りには同じような病気の民衆がいるのだけれど、大金を受け取って、聖女アーリアはその貴族達だけに治療を行う。


一週間付き添って、5つの場所に聖女アーリアは行った訳だが、治療をしたのは大金を貰った貴族ばかり、周りの民衆については、何もしなかった。


サクラは仕事が終わって、なんか釈然としない思いを抱いて、ギルドへ向かう。

ギルドを通じて今回の報酬が支払われるのだ。


アクストとギルドの前でばったり会ったので、


「ねぇ。ちょっとご飯、食べていかない?」


「ああ。そうだな。」


報酬を二人は貰うと、ギルドの経営する食堂に入り、闇竜定食を頼む。

闇竜はステーキ付きの定食は高いが、美味しいのだ。


サクラはステーキをほおばりながら、


「美味しい。奮発してよかったーー。ギルドに来たら、これよね。」


アクストもステーキを食べながら。


「で、話があるんだろう?」


「貴方、何で今回の仕事を受けたの?受けねばならないって言っていたわね。」


「西方地区で流行っている病、毎年、この時期に流行るって知っていたか?聖女アーリアが聖女になって3年、3年間で毎年この時期に流行る。東方地区も、南方地区も、北方地区も、

微妙に時期がずれて、病が流行る。そして、貴族達の間では特に流行するんだ。重症化するのも、身分が高くて金持ちが多い。どういう事だか解るか?」


「まさか、聖女様が???」


「聖女の力というのは、恐ろしく巨大だ。それを悪用すれば、国一つ滅ぼす事だって出来る。

お前は神を信じるか?」


「え?ま、まぁ信じるけど。(精霊の私に聞くって…?精霊って私の事、信じられていない?)」


「俺は神のお告げを聞いた。この聖剣で、悪を倒せと。お前は勇者。神に選ばれた勇者だからと。」


「ちょっと、頭大丈夫??」


勇者って聞いた事がない名前なんだけど…頭でも打ったかな?


サクラはアクストがちょっと心配になってきた。


アクストは笑って。


「信じてくれなくてもいい。だが、聖女アーリアが悪さをしていると言うのなら、身をもって退治しないとならない。」


「でも、聖女様がいなくなったら、都の結界は??聖女様ってなかなか生まれる事がないんでしょう?」


「神が聖女様を世に送り出したのが、50年前だからな。今の聖女様は三代目か…。

初代の聖女様が亡くなられた時に、二代目の聖女様が見つかったのだったな。二代目の聖女様が亡くなった時に、今の聖女様が見つかった。

もし、今の聖女様が滅びても、きっと新しい聖女様がどこかで現れる。それは神が定めた事だ。」


サクラはアクストに。


「何か手伝えることがあったら手伝うから。だから、早まった事をしないでね。

聖女様が悪と決まった訳じゃないし。いい?アクスト。」


「有難う。サクラの友情、感謝する。」


にこりと笑ったアクストの笑顔が眩しかった。


サクラは何だか、その笑顔を見たらドキリとした。




その年は天候が悪く、穀物の育ちが悪い地方が多かった。

聖女アーリアは天候も操るし、聖女に愛された土地は豊作になると言われている。

領主達は大金を払い、聖女アーリアを我も我もと招待し、聖女の祝福という祈りを行って貰った。そうすると、不思議と天候が回復し、その土地は豊作になるのである。


アクストとは、時々、仕事を共にする相棒になった。

手合わせを共にして、良いライバルともいえる関係にもなった。


「何だろう。最近、アクストと会うと、胸がドキドキする。」


仲間の精霊にその話をしたら、


「それは、恋という物です。」


「こ、恋っーーー?アクストは友達であり、ライバルであり、私達の関係は友情よ。」


「でも、ドキドキするんでしょ?」


「ええ。」


「彼ともっと一緒にいたいの?」


「ええ。一緒にいたいかも…」


「それは恋ですーーー。」



友の精霊に言われて、何だか意識するようになってしまった。


アクストと共に、薬草採取の仕事を受けた。


簡単な低報酬の仕事だが、アクストがやると言うので、共に引き受けたのである。


「アクスト。お弁当作ってきたんだ。食べてみてよ。」


「お前が弁当を?雨が降るかもしれないな。」


薬草を採取し終わり、昼頃になったので、敷物を広げて、共に弁当を食べる。闇竜の肉を買って、野菜を挟んだ、肉厚のサンドイッチにした。美味そうに食べるアクストを見て幸せになる。

サクラはアクストに茶を注ぎながら。


「何だか、デートしているみたいだね。」


「え???ま、まぁそうだな…」


食事を食べると、アクストは立ち上がり、


「薬草は採取できた。帰るぞ。」


「えええ?まだ日は高いのに???」


「用事が出来たんだ。すまない。」


何だか、アクストの態度が急にそっけなくなった気がした。


サクラは悲しくて悲しくて。帰り道は二人、無言で歩いて街へ帰った。


その日から、アクストは、サクラと共に仕事をしたがらなくなり、


サクラはえらく落ち込んでいたのであった。



そんな時に事件は起きた。


ジュエル帝国の幼い皇女が病にかかったのだ。


聖女アーリアが呼ばれ、癒しの力を使うように、皇帝に命が下った。


アーリアは皇帝に、


「金100を寄進しなさい。神殿に。そうすれば、姫は救われるでしょう。」


皇帝は叫んだ。


「何故、金を払わねばならぬ。これは皇帝の命令だ。もし、逆らえば、お前を牢獄へ、いや、処刑をしよう。そうすれば次代の聖女が現れる。娘も助かるだろう。」


聖女アーリアは騎士達に拘束される。


「私を殺せば後悔しますわ。この国に呪いを…恐るべき呪いを。」


皇帝は聖女を偽物と呼び、騎士達に向かって叫ぶ。


「この女の首をこの私、自ら斬ってくれよう。」


騎士の一人が、


「皇帝陛下。早まってはいけません。」


「こうしているうちにも我が娘は苦しんでいるのだ。新しい聖女を早く出現させるためにも。」


そう言って、皇帝自ら、剣を手に取り、聖女の首を斬り落とした。


そこへ、神の導きにより、魔法陣を展開させ、現れたのはアクストだった。


皆、いきなり現れた男を見て驚く。


「呪いが…聖女の呪いが発動してしまう。」


転がった首から、聖女の身体から黒い霧のようなものがあふれ出て、

空間に広がっていく。


アクストは叫んだ。


「勇者アクスト。聖女の呪いを我が身に引き受ける。さぁ、呪いの対象は俺だ。」


聖剣を聖女の胸に突き立てた。


黒い霧がアクストの身体の中へ吸い込まれていく。


「うああああああああああっーーーーーーー。」


霧は全てアクストの身体にまとわりつき、吸い込まれていく。

そのまま、アクストは地に倒れ、その心臓の動きは止まったのであった。




サクラが久しぶりにギルドへ行くと、受付嬢がサクラに、


「アクストさんから手紙を預かっていますよ。」


「え?有難うございます。」


何だろうと思って、手紙を開いてみれば、


- 我がライバルであり、相棒のサクラ。君といた時間は本当に楽しかった。

この手紙を君が読んでいるという事は、俺は無事に聖女アーリアの呪いを封じた事になるのだな。聖女アーリアは邪悪な女だ。わざと病を流行らせて貴族から大金を取り、天候を操って、聖女の祝福を行わせ、領主から大金をせしめ、神殿で贅沢三昧をしていた。

俺は神に、悪の聖女を殺すか、殺されたならば、その呪いを身をもって封じて欲しいと、頼まれていた。勇者アクストとして。聖女の呪いを身の中で浄化するのに、300年はかかるだろう。

もし、来世出会えるのなら、その時も良きライバルで、またサクラと出会いたい。

弁当のサンドイッチは美味しかった。本当に有難う。―


え??アクストは?どうなったの??


精霊仲間に頼んで、アクストの情報を集めて貰った。

今は、皇宮で棺に納められて、安置されているらしい。

皇帝は神のお告げを受けて、

国を守った勇者としての称号を初めて与え、彼は始まりの勇者と呼ばれるようになった。


精霊達の力を借りて転移し、アクストに会いにいった。


皇宮の暗い地下室に、アクストは棺に入れられて安置されていた。

棺をそっと開けて顔を見つめる。


「だから、アクストは、私から離れたかったんだね…。こんな安らかな顔で…

私、アクストの事、好きだったみたい。ねぇ…私の事、精霊っだって最初に自己紹介したよね…。300年、桜の木の中で眠って待っているから、又、会いましょう。その時は貴方に…告白していいかな。好きだって…」


アクストの頬をそっと撫でる。


300年の時はあまりにも長い。

その時にまた、アクストと再会出来る事を願って…


またね…アクスト。その時は決着をつけましょう。恋の決着を…。

それまではおやすみなさい。


二人が再会するのは、300年先…。サクラの想いが届くのか神のみぞ知る。


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