69話 森谷さんの決心
「なななななななんじゃこりゃぁあ!!!」
僕の知らない婚約届に心臓が飛び出るくらいビックリしていたら、問答無用で森谷さんに胸ぐらを捕まれる。これは看護師としてあるまじき行動だが、人として至極真っ当な抗議なのは言うまでもない。
「羽生く~ん、ついさっき美夜ちゃんが好きって言ったよね~? あれは嘘だったのかな~?」
「違います! 僕は本当に小桜さん一筋で!」
「ふ~ん、つまり妹の小桜さんってこと~?」
「だから違いますって! てゆーか美羽ちゃん何それ!?」
「もしおねーちゃんにフラれた時の保険だよ。おにーちゃんが顔を真っ赤にしながらおねーちゃんの婚姻届を書いてる時に、美羽も書いたの。美羽はおにーちゃんなら別にいっかなーだし、これでOKだよね?」
「軽っ! 結婚前提の告白されたのに全然嬉しくない!!」
僕に対する美羽ちゃんの好感度がどうなっているのか今すぐ確認したいけど、そんな時間はないとばかりに、美羽ちゃんが二枚の婚姻届を両手に掲げながら宣言する。
「じゃあ美羽は急いで家に帰るけど、もしおねーちゃんがハンコを押してくれなかったら美羽がおにーちゃんと結婚する! 証人欄はおかーさんにするから。おかーさんは美羽に甘いし、おにーちゃんのこともすっごく感謝してるから、きっと上手くいくよ」
「やめて!! それ言い訳できないレベルで誤解されるし、了承されても困るから!!」
今すぐにでもその婚姻届を取り上げたいのに、怪我のせいで動けない。
そうして美羽ちゃんが病室を出ようとした瞬間、森谷さんが観念するように答えたのだ。
「分かった。話してあげる」
「え? 本当ですか森谷さん!」
「本当よ。このままほっといたら余計おかしくなりそうだから、私が知ってること、全部話してあげる」
「「ありがとうございます!!」」
「ただし美夜ちゃんの母親も同伴させます。今すぐ家に連絡して来てもらうから、羽生くんは母親の了承が貰えたら話を聞ける。それでいい?」
「勿論です!」
そうして美羽ちゃんと一緒に喜んでいる最中、この状況を打破した婚姻届を森谷さんがじーっと見てからナースセンターに戻り、昔のカルテ情報にある小桜美夜の情報を確認して、小桜家に電話をかけたのである。




