06話 事実は小説よりも奇なり
「なっ!? 小桜さん!?」
事実は小説よりも奇なりは本当だった! スリーサイズ情報を知られたから僕を殺して私も死ぬ的な展開か!? ヤンデレヒロインも一つの趣向としてアリと思っていたけど、実際にやられたら恐怖でしかない!
と、主人公が死ぬほど好きなのに最後は満面の笑みで主人公を殺す猟奇的ヒロインが登場する小説を思い出していたら、小桜さんがバッグに手を伸ばす。
さらなる凶器で確実に殺す気か⁉ 僕の体が五等分にバラバラにされて、だけど部位の一つが行方不明になり、そこから毎年殺人事件が発生する惨事がスタートしてしまうのか!?
と、昔読んだホラーノベルゲームを思い出しながら怯えていると、
「ってあれ? リンゴ?」
リンゴの皮をナイフで切ろうとしていて、どうやら誤解だったらしい。てゆーかお見舞いに来てくれた女の子が自分の為にリンゴを切ってくれるって、結構なハートフルシチュエーションではないだろうか?
ウサギさんリンゴを作ってくれるのかな?
ひょっとして、あーんしてくれるのかな?
そんな男の夢といえるイベントに胸を膨らませていたけど、小桜さんがやけに神妙な面持ちで、あとナイフの持ち方も変で、その持ち方だと指を切ってしまう可能性があると心配していたら、
ザグッ!
「うわぁ! 真っ赤なリンゴが小桜さんの血で真っ赤に!」
勢いでそう叫んでしまったが深手ではなく、絆創膏を張り付ける小桜さん。その間に僕がナイフ没収。本人は不満気だけど、これ以上は心臓に悪いので諦めてもらったのだが、一切れだけリンゴが切れていたので、それを僕の口に差し出してくる。
「すみません。血の付いたリンゴはちょっと」
丁重にお断りしたら、小桜さんが持ってきたお見舞い品をドバっと広げて、よりどりみどりな品揃えに普通なら大歓迎なのだけど、
「すみません。今は食欲が」
そう漏らすと、みるみると小桜さんの表情が陰っていき、どよーんとした顔でお見舞いの品々を渡して帰ろうとした所で、
「ごめんなさいやっぱり大丈夫です!」
あっぶねー。
ここは男なら死んでも食べなきゃダメな場面だった。
そんな自分の鈍さに猛省しつつ、差し出されたリンゴを食べる。
「とっても美味しいです!」
ワザとらしさ全開だけど、それでも小桜さんは満足気だ。そうして他のお見舞い品もいただく流れになったけど、ビーフジャーキー、ナッツ、バナナ、エナジー飲料、カロリーメイト等で、早く怪我を治してねっていうより、もっと食べてムキムキにってラインナップだ。
そんな筋トレ食に疑問を感じていたら、小桜さんが昨日書いた自分のプロフィール用紙を取り出し、“痩せ過ぎ”という注意書きが記入。どうやら無用な心配をさせてしまったようで、今現在も小桜さんの”体調が心配”という視線に耐えられずに頭を下げる。
「ごめんなさい。そのスリーサイズ適当に書きました」
????(首を傾げる)
「自分のスリーサイズなんて気にしたことなかったんです。だからその数字は小桜さんのスリーサイズ情報を参考に……」
あ、しまった。
言葉のチョイスを間違えた。
すぐ口を閉じたけど手遅れで、小桜さんの顔がもう超真っ赤のぷるぷるで、全力で脳をフル回転させているのに正解が出てこない。
逃げたいけど怪我で動けないし、いっそ昨日と同様に小桜さんが逃げ帰ってくれたらと思ったが、小桜さんが顔を真っ赤にしたまま意を決したかの様に立ち上がり、視線は僕を見据えたままゆっくりと迫って来る。
手にメジャーを握り絞めながら。
「そんなに知りたかったの!? 僕のスリーサイズ!!」
「事実は小説より奇なり」は、イギリスの詩人バイロンの作品「ドン・ジュアン」の一節から生まれた表現だそうです。