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65話 刑事コロンボ

「小説に使えそうなネタなら毎日メモに記録してますけど、それを10万文字以上という莫大な文字数に書き起こす作業は精神がすり減るので僕は読者で充分です。

 それと森谷さんが刑事コロンボ好きとは知らなかったです。その台詞はコロンボの犯人がよく使っていた台詞で、もしかして小説版コロンボを読んだことが?」

「どこかで聞いた台詞ってだけだよ~」


 この台詞の影響力は絶大で、後のドラマ・小説の犯人役がこぞって口にした流行語(書籍限定)だが、起源が刑事コロンボなのはあまり知られていない。


 そして今そんなことはどうでもいい。

 なので本題に戻り、森谷さんが思案しながら答える。


「私がココに転院したのは二年前で、初めての患者さんは印象深かったな~。中学生の女の子で、たった一週間の入院だったけど、よく覚えているわ」

「小桜さんですよね?」

「うふふ、どうだったかなぁ? 病院は患者がひっきりなしに入れ替わるから、記憶が曖昧なのよね~」


 くっ、あくまで白を切る気か。

 そうはさせまいと切り札を差し出す。


「このクッキー食べてくれませんか? 先っちょをかじるだけでいいので」


 昨日、森谷さんは非番でいなかった。そして説明より体験してもらう方が早いので昨日のクッキーの残りを渡して、クッキーの先端をかじると顔が歪み、酸っぱそうな顔になってから答える。


「個性的な味ね」

「はい。だけど小桜さんはこのクッキーを丸ごと食べて、美味しいと言っていました」

「……そっか。美夜ちゃん、やっぱりまだ」


 そう呟いた森谷さんに、一気にまくしたてる。


「やっぱり小桜さんの味覚は無いんですね。しかも二年以上も前から。それが理由で小桜さんは入院していた。そうですね?」

「う~ん、どうだろう?」

「森谷さん!」


 あくまで白を切る振る森谷さんに、精一杯の感情をぶちまける。


「僕は小桜さんを助けたい! 力になりたいんです! 昨日ちょっとした事故で小桜さんの味覚障害が発覚して、それで美羽ちゃんが傷ついて、当の小桜さんもお見舞いに来なくなって家に引きこもってます。このままじゃマズイんです!

 だから事情を知っている森谷さんの意見が欲しいんです。味覚障害なんてどうすればいいか全然分からないし、浅知恵で変なこともしたくないんです!」


 ネットで調べれば味覚障害の対処法についても多少は分かるだろうけど、それだけだ。これは結局のところ医者に任せるしかない問題で、事情が分かったところで僕にできることは何もないのかもしれないけど、それでも足掻くしかない。

 たとえそれが自己満足だとしても、やれることは全てやっておきたいから。


 そんな必死でみっともない姿に、森谷さんが身に着けている真っ白な看護服を見せつけながら業務的な口調で答える。


「看護師には守秘義務があります。過去の患者さんの病状について質問されても、親族以外にペラペラ教える訳にはいきません」


 そう断言されてから、決定的な質問をされる。


「羽生くんは、美夜ちゃんの何?」


 それを言われたら、返せる言葉がない。

 僕は小桜さんの家族でなければ、恋人ですらない。

 義理でお見舞いに来てくれている、ただの先輩でしかないのだ。


 ここが限界なのか?


 諦めちゃいけない場面なのに、この状況を打破するアイディアが何も思いつかず、そもそも前に美羽ちゃんの病状について月山さんに話さなかったのに自分は教えろと主張するのは傲慢でしかない。

 なので去ろうとする森谷さんを止めることができず、病室の扉が開く。


「ごめんね。羽生くん」


 そう申し訳なさそうに呟いてから、森谷さんがナースセンターに戻っていったのである。

刑事コロンボ:アメリカで放映された、ロサンゼルス市警察殺人課の警察官コロンボを主人公としたサスペンス物語。旧シリーズは1968-1978年・新シリーズは1989-2003年に放送。

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― 新着の感想 ―
[一言] 難しいね…
[一言] 森谷さん、すぐには協力してくれないか。 養護教員とは大違いですねえ。
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