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59話 モテモテ小桜さん

物語もようやく終盤、あと1週間くらいで一区切りの予定です。

拙い文章ですが、最後まで付き合ってくれたら嬉しいです。

「確かに小桜美夜さんの態度は変わりましたが、その原因が君の喧嘩とは限りません」

「それは無いです。あの日から小桜さんの態度は激変しましたから」

「ですが小桜美夜さんは答えましたよね? もう怒ってないと」

「それはまぁ、そうですけど」

「喧嘩中に意地を張って虚言を吐いてしまう人は多いですが、小桜美夜さんは違います。確かに彼女は君と喧嘩中ですが、その件は頼れる人に相談をして、一区切り付けた可能性もあります」


 確かにその可能性だってある。

 だけどあの内向的な小桜さんに相談ができる人が身近に居るとは思えない。


「それなら保志先生は、この喧嘩をどう思っているんですか?」

「養護教諭です。これは仮説ですが、君との喧嘩があった同日、小桜美夜さんを悩ませる何かがあったのではないでしょうか? 君との喧嘩よりも重大なことが」


 まさか過ぎる意見に唖然。

 これは今までの前提を丸ごとひっくり返すもので、まるで推理小説で今まで積み上げてきた推測が全て見当違いだと一蹴されたような気分だ。


「じゃあ、その重大なこととは一体?」


 この疑問に、保志先生が導きだした答えは、


「分かりません」


 ええー。

 ここまで具体的な意見を並べておきながら未解決?

 推理小説でよくいる噛ませ犬でも、もうちょっとマシな発言すると思うんですけど。


「喧嘩原因がすれ違いというのはよくあることです。三日前にも女生徒Tから喧嘩仲裁を頼まれて男生徒Wを呼んだのですが、Tは過去の喧嘩をいつまでもネチネチと引きずるのは止めろと主張。ですがWの話を聞くと、自分が怒っているのは別件。それを何度も伝えているのに過去の喧嘩が原因と決めつけて蒸し返される。ネチネチと粘着はそっちだろと反論。流石の私も事態収拾が困難な一件でした」


 いや、その件と小桜さんは違うよね?

 てゆーかTとかWとか三日前って情報は要らないよね?

 ちょっと調べれば特定できそうで、しかも僕に至っては入院していた男生徒Hで、保志先生のたとえ話で登場したら即バレだよ。

 そんな不安を噛みしめながら、保志先生の意見を吟味しながら答える。


「えーっと、つまり小桜さんが怒ってないと言っている以上、それを蒸し返すのは余計問題がややこしくなるから止めろと?」

「その通りです。そして今現在、小桜美夜さんが悩みを抱えている可能性があるので、そこを踏まえながらもう一度話をしてみてはどうでしょう」

「小桜さんの、悩み……」


 誰にだって悩みの一つや二つあって当たり前。

 しかも他者に知られない様に隠そうとするから、結局は本人が打ち明けるのを待つしかないのだけど、それを押して知ろうとするのなら、できる範囲で情報を纏めておきたい。


「因みに保志先生は、小桜さんの悩みについて心当たりはありますか?」

「養護教諭です。……そうですね、これは本件と関係ないと思いますが、私は昼休みに校内を見回っていて、そこで小桜美夜さんをよく見かけます。今までは中庭で本を読む姿しか見ませんでしたが、最近は男子に話しかけられる場面が多々ありますね」

「えっ? どうしてですか?」

「以前までの彼女は印象に残らない容姿でしたが、今は見違えるほど美人になりました。そして成績はトップクラス。そんな才色兼備で物静かな女生徒が中庭で読書をしていれば、その姿に惹かれる男生徒がいても不思議ではないというだけの話です」


 そ、そうだったのか。

 確かに森谷さんの策略イメチェンで小桜さんは綺麗になったけど、まさか校内で人気が出る程だとは思わなかった。


 しかしそうなると、小桜さんの悩み原因に一つの仮説が思い浮かぶ。

 それは自分と比較して明らかに上位互換な男子から告白されたという可能性だ。


 怪我でベッドから動けない留年ギリギリなオムツ男と、健康で進級確実でイケメンな快便男。

 どちらが選ばれるかは自明の理ではないだろうか。

 そんな圧倒的な戦力差に戦慄しながら、戦々恐々な気持ちで確認する。


「小桜さんって、そんなに美人ですか?」

「養護教諭です。周りと比べてば一目瞭然と思うのですが……、失礼。君は入院中で比較しようがありませんでしたね。彼女は先程述べた通りの才色兼備で、そのうえ体も細い。具体的な数値は答えられませんが、少々心配になるレベルで体重が低いですから」

「ああ、確か42㎏でしたっけ」


 小桜さんのパーフェクト自己紹介を思い出して、つい反射的に答えると、保志先生が訝し気な視線を向けながら尋ねてくる。


「どうして知っているのですか?」

「あっ、いえ! それくらいかなって思っただけです!」

「身体測定で印象深かったので記憶していたのですが、まさか覗きですか? それとも保健室に侵入を?」

「してません! そもそも僕は見ての通りベッドから動けないし、骨折を押して覗きに立ち向かうほどのアグレッシブな変態でもありませんから!」

「……そうですね。覆しようのないアリバイです。疑ってすみませんでした」


 平謝りをする保志先生だけど、まさか小桜さん本人から教えてもらったとは言えない。

 それと女子の平均体重なんて気にしたことがなかったけど、どうやら小桜さんはかなり痩せているらしい。


「とにかく、改めて小桜美夜さんと話をしてみて下さい。相互理解こそが仲直りに一番有効な手段ですから」


 そう纏めてから保志先生が立ち上がって病室を出ようとした時、窓際を見ながら答える。


「それにあのサボテンも、悪い意味はないと思いますよ」

「だったら嬉しいです」

「それと先ほどの相談は約束通り他言無用とします。生徒からの相談は例外なく守秘義務を貫いているので」


 いや、ついさっき三日前の相談内容をイニシャルトーク暴露しましたよね?

 そう心でツッコミを入れてから保志先生が学校に戻っていったけど、果たしてこの相談に意味はあったのだろうか?

 そう思わずにはいられない気持ちを抑えながら、小桜さんの悩みが何なのか、過去の言動を思い出しながら、考えてみることにしたのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思ったよりまともなアドバイスだった。 小桜さんは学校でもイメチェンを継続していたのか。体重の件も回収が入りそう? 美容的にはともかく医療的というか、目の負担考えると眼鏡の方が絶対いいんだけ…
[一言] まだ保志先生って言ってないのに「養護教諭です」って、どんだけ染み付いてんだよ......って笑ってました。
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