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58話 噛み合ってない

「そうですねぇ……、小桜さんは素直ですよ」

「その回答に根拠はありますか?」

「はい。理由は言えませんけど、不器用と思える程に素直な性格だと思います」


 なにせ自分のスリーサイズを馬鹿正直に暴露してしまうほどで、些細な嘘をつくことさえも不可能とさえ思える愚直っぷりだ。


「私も同意見です。なので違和感があります」

「どういうことです?」

「小桜美夜さんらしくないということです。彼女は問題を抱えた場合、虚言で誤魔化さずに素直に白状するタイプです。なのにこんな回りくどいやり方で喧嘩を長引かせているのは不可解です」

「確かに、その通りですね」

「それと喧嘩中、具体的な衝突は起こっていますか?」

「……いえ、初日以降は何も」


 強制オムツ交換以降、気まずい雰囲気が続いているけど、小桜さんが怒ったり強引に迫ってきたりな場面は一度もなくて、だからこそ困っているのだ。


 もし間違えてしまったら、直せばいい。

 もし怒らせてしまったら、謝ればいい。

 もし喧嘩をしてしまったら、仲直りをすればいい。


 だけど原因が分からなければ、どうすればいいか分からない。

 まるで濃霧で視界真っ白な森に迷い込んでしまったような感覚で、下手に動けば目的地からどんどん離れていき、小桜さんが見えなくなってしまいそうなのだ。


「そもそもこれって喧嘩なのかな?」


 好きの反対は嫌いではなく、無関心だ。

 相性が悪くなった友達と疎遠になっていくのと同じで、このままだと小桜さんがいつの間にかいなくなってしまう気がしてならないのだ。

 そんなずっと前から気付いていたのに、考えないようにしてきた答えだ。


「喧嘩かどうかは当事者が決めることです。私には答えようがありません」


 保志先生らしいキッパリとした意見だ。

 それから思案するように言葉を続ける。


「確かに君が言った通りこれは喧嘩というよりも、そうですね。……噛み合ってないと表するのが正しいのかもしれません」


 噛み合ってない。

 つまり小桜さんを理解できていないということだ。


 小桜さんは物静かで、喋ってくれなくて分からないことが多いけど、それでも毎日来てくれたお見舞いで、少しは理解し合えたと思っていたけど、それは僕だけの一方的な思い込みでしかなかったのだろうか?


「もう、手遅れなのかな?」


 所詮は義理で始まった関係だ。

 しかも病人という弱い立場を利用できる状態で関係を深めようとしたのが間違いだったのかもしれない。そう思って小桜さんを諦めようとしたら、保志先生がこう言ってくれたのだ。


「その判断は時期尚早です」

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