56話 プラスチックナイフ
「ごごごごごごごごごごめんなさい!! 本当にごめんなさいっ!!」
「大丈夫。これプラスチックナイフだから」
病院では包丁・ナイフ等の危険物持ち込み禁止で、前に小桜さんが果物を切るのに持ち込んだナイフも翌日から持ち込まれておらず、変わりがこのプラスチックナイフ。
多少切れ味が悪いけど指を切る心配がなく、小学生でも安心して使える包丁として重宝されている代物だ。
そんな頭を下げまくる月山さんに、こちらも慌ててフォロー。
こうして謝罪が収まらない様子に、森谷さんが茶化すように責め立てる。
「羽生くんが悪いよ~。刺さった時に大袈裟な悲鳴を上げるから~」
「いや、まぁ……、すみません」
分かってはいたけど、急にナイフが顔に刺さってつい悲鳴を上げてしまい、そのせいで月山さんを怖がらせてしまったことは反省するしかない。
「小桜さんも心配させてすみませんでした」
僕の頬にナイフが刺さった瞬間、看護師の森谷さんよりも早く小桜さんが反応。
操作していたスマホを投げ捨ててガバっと詰め寄り、僕の顔を確認してくれたのだ。
「美羽のお姉さんも、ごめんなさい」
「…………気にしなくていい」
「でも」
そんなこんなで問題は無かったんだけど、月山さんが謝りっぱなしで空気が重いままだ。
どうしたものかと森谷さんと顔を見合わせていたら、小桜さんが手を伸ばして、月山さんが切ったリンゴを手に取る。
「…………食べて、いい?」
「え? いやでも全然上手く切れてなくて」
「…………私より上手」
そう小桜さんが答えてからリンゴをかじると、月山さんが不安げな顔でまくし立てる。
「美味しくないですよね? 身もゴツゴツで絶対に不味いですよね? 嘘を付かずに正直に言って下さいね!」
と、ものすごく褒めづらい文句を言われて小桜さんが困り顔になりながらリンゴを食べ終えると、小桜さんが出した答えは、
「…………多分、美味しい」
とてつもなく微妙な回答になっちゃったけど、小桜さんにしては頑張った方だろう。
それから森谷さんもリンゴを食べて、笑顔で月山さんに答える。
「うん、ちょ~っと見栄えが悪いけど、ちゃ~んと美味しいよ~」
「ほんとですか?」
「うんうん、きっと不器用で料理もしたことなさそうな羽生くんが切ったリンゴよりず~っと上手よ~」
「え? でもお兄さんのリンゴは……」
月山さんが視線を移した先には僕が切ったウサギがあり、この反応で事情を察した森谷さんが僕の頬を抓り上げる。
「羽生く~ん。ハメてくれたわね~」
「森谷さんが勝手にハマりましたよね!? こっちの方がビックリするレベルで自分からズボッとハマりましたよね!?」
正解だったはずのフォローがまさかの不発で八つ当たり。
だけどこのやり取りに美羽ちゃんが笑いだして、それから僕と森谷さんも失笑。月山さんの表情もようやく柔らかくなって、ようやく場が和む。
その後はリンゴをみんなで食べて、月山さんのリベンジも決定。
小桜さんの気転で騒動が上手く治まってくれたのである。




