54話 動揺
リンゴの話だからね!
月山さんのモジモジと照れくさそうにしながらの畏まった礼に、こっちまで緊張の面持ちで礼を返しちゃったけど意味深な点は何もないからね!
美羽ちゃんの血が出て痛かった発言も包丁で手を切ったって意味だし、料理に挑戦するのは早い方がいいのも世間の常識だ。
なぜか小桜さんがジト目で僕を凝視しているけど、手取り足取りも何も左足骨折で足取りは無理だから! 手取りはまぁできなくも…、ってだから何もしないからね!
そんな弁明を心の中で叫びつつ、月山さんがリンゴと果物ナイフを手に取ったんだけど、
「月山さん、そんな震えた手じゃ危ないよ?」
「ごっ、ごごごごめんなさい!」
「萌香、とりあえずリンゴを置いて深呼吸しよう」
仕切り直させてから再びリンゴを持たせたけど、前回と全く同じ光景になってしまい、二度目の深呼吸が始まる。
「ううっ、本当にごめんなさい。二人のように上手くやれるか、失敗したらどうしようって考えたらもう不安で不安で」
失敗が怖い。
誰だってそうだけど、その思いが強すぎて委縮は本末転倒だ。
月山さんは内気な性格だけど、これで挑戦そのものを諦めるようになってほしくない。
だから月山さんの震える手を、そっと握りしめる。
「お兄さん?」
「大丈夫。無理に上手くやろうとしなくていいし、失敗してもいいから」
「ですけど」
「他の人はともかく、僕は失敗を笑ったりしないから」
「お兄さん……」
そうして月山さんの手の震えが止まり、そのまま見つめ合う構図にシフト。
気恥ずかしさで首を横に向けながらも上目遣いで僕の顔を覗き込む仕草に不覚にもドキッとしてしまい、ここから年上お兄さんとしてどう振る舞えばいいのか分からずに手を握ったまま硬直していたら、
「おにーちゃんがまた萌香を口説いてる」
「口説いてません」
「でも前は萌香に抱き付いてたし、そういえば私にも抱き付いてたっけ? もしかしておにーちゃんって年下ハンター? おねーちゃんは対象外?」
ガシャン!
小桜さんが手に持っていた携帯が落下して、そのまま硬直。
まるでスマホ操作中に石化魔法をかけられた状態になってしまったと思いきや、ギギギって擬音が聞こえてきそうな動きで首が動きだして、大切な妹を年下ハンターに近づけていいのかと言わんばかりな疑惑視線でロックオンしてきたので、慌てて首を横に振りながら叫ぶ。
「違います! 男として年下の女の子に優しくするのは当然だし、お見舞いに来てくれた人と仲良くなるのも自然な流れです!」
「えー、でもお見舞いが一番長いおねーちゃんとは……」
「月山さん! もう一度チャレンジしてみよう!」
「はっ、はい!」
どう転んでも泥沼な話題なので強引に遮断。
再度リンゴを月山さんに持たせてみたんだけど、
「ごめんなさい。やっぱり手の震えが止まらないです」
「うーん、さっきは止まってたんだけどなぁ」
「それはその……、お兄さんが私の手を握ってくれていたお蔭で」
「じゃあ萌香、おにーちゃんと握手しながら切ってみる? それなら手の震えも止まるよね?」
「いやいや美羽ちゃん、握手しながらリンゴを切るのは無理だよね?」
この却下に月山さんも賛同と思ったら、考え込む様に数秒黙った後に、とんでもない提案をしてきたのだ。
「お兄さん、それなら手以外を握ってくれませんか? できれば心臓に近い場所を」




