表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/76

50話 シャイニング

 美羽ちゃん・月山さんが帰宅して病室内は小桜さんと2人っきりとなり、恒例の勉強会スタートとなったのだが、


 空気が重い!


 美羽ちゃん達のお見舞い中、小桜さんはずーっと後ろでスマホを黙々といじっているだけで、その姿が視界に入る度に、窓際に並ぶサボテン達がチクチクと棘をあてがってくる感覚に襲われてしまうのだ。


 もう手遅れなのか?

 包み隠さず事情説明をした上で謝罪してもなお小桜さんのツンツン態度は変わらず、もう完全に愛想が尽きたけど、妹を助けてくれた件があるから義理で仕方なく居続けているのだとしたら、足の骨折が治ったとしても心が粉砕骨折だよ。


 おまけに小桜さんの態度に美羽ちゃんが納得できずに姉妹喧嘩までスタート。

 どうしてこうなったと嘆かずにはいられない泥沼に陥ってしまったのだ。


 もう全ての行動が裏目スパイラルだけど、それでも小桜さんが今もこうしてお見舞いに来てくれている以上まだ望みはあると信じて、重苦しい空気をかき分ける様に会話を断行する。


「小桜さん。お怒りなのは重々承知ですが、せめて美羽ちゃんとは仲直りしてくれませんかね?」

「…………もう怒ってない」

「そ、そっかー」


 シーン(会話終了)


 アカン。解決の糸口さえも見つからない。

 女の子の「怒ってない」は、なぜ自分が怒っているのか理解できておらず、そんな鈍感な態度が許せないって意図があると本で読んだ記憶がある。

 それならご立腹な原因を尋ねたいけど「じゃあなんでまだ怒ってるの?」なんて無神経な質問ができるはずもなく、世の中の彼氏たちはこの難問をどう解決しているのだろうか?


 とにかくこの険悪ムードをなんとかしないと。

 そうだ本の話題をしよう。僕も小桜さんも本好きで、共通の話題ならきっと――


「ところで、最近小桜さんが読んでる小説って何ですか?」


 この問いかけに、カバンから出てきた小説タイトルは、



“新装版 シャイニング 下”



「斧で襲ってきたりしませんよね!?」


 シャイニングは1980年に制作された超有名ホラー映画で、小説家志望なのに超いわく付きホテル管理人になった父親が精神を蝕まれ、色々ヤバいことになっていく物語だ。

 そんな全米を震え上がらせた超大作を語らいながら仲直りとか絶対に無理!

 てゆーか映画冒頭の車が山道を走っているだけなのに妙に不安を掻き立ててくるあのBGMが頭から離れないんですけど!


「すみませんそれは置いてといて、今日はずっとスマホいじってましたけど、お気に入りサイトでも見てたんですか?」


 そう尋ねるとスマホが差し出されると、意外にもゲーム画面が表示されている。


「へぇー、小桜さんもゲームするんだ」


 意外な気もしたけど、高校生なら当然か。

 自分も高校生になったらスマホを買う予定だったけど、その前に病院送りという有様で、だけど小桜さんがスマホを持っていて、あまつさえゲームをしているなら、一緒にゲームで遊ぶのは大いにアリで、そうなれば喧嘩解消どころか親密度も大幅上昇に違いない。


 それに入院患者は時間が有り余っているので暇つぶしにスマホゲーに熱中する人が多く、ベッドから動けないから他の娯楽を選ぶこともできないので、ニートよりもスマホゲーに熱中できる環境になっているのだ。


「ってこのキャラ、もしかして僕ですか?」


 よく見れば画面には男性キャラがいて、その上に“Yusuke.H”と表示されている。


「…………駄目?」

「いや、全然OKですけど」


 つまり小桜さんはゲームキャラを僕に見立てて楽しんでいる訳で、これってかなり好感度が高くなければできないことだよね?

 それなら僕もキャラ名を“Miyo.K”にして、一緒に遊んだりしてもOKなのかな?

 もしそれが許されるのであれば、今すぐ親に連絡して「スマホを買ってきて下さいお願いします!」と負傷した体を省みずに土下座も辞さない構えだ。


「小桜さん。このキャラを操作するところを見させてもらってもいいですか?」


 このお願いにコクコクと頷いてスマホ操作を始める小桜さん。


 自分の分身を女の子に操作されてしまう。

 そんな得も言われぬワクワク感を胸に抱きながらゲームがスタート。そこには自分と同じ様なキャラが沢山いて、広い建物内と思われる場所を所狭しと動き回っている。


 そういえば、これってどういうゲーム?


 そう思ったのも束の間、プレイヤーたちが一斉に右方向に逃げ出して、何事かと画面に注目していたら、左方向から巨大な人型エイリアンが襲ってきたのだ。

 そしてエイリアンは斧を振りかざしながら次々とプレイヤーを惨殺。

 逃げ惑うプレイヤー達に武器はなく、しかも制限時間が減っていく度にエイリアン増殖・建物倒壊で行動範囲もどんどん狭まっていき、瞬く間にプレイヤーが大量虐殺で、そして残り数人となった所で、


「…………また死んだ」


 小桜さんが操る“Yusuke.H”の頭にエイリアンが振り下ろした斧が直撃。

 真っ赤なエフェクトと共にゲームオーバーとなりました。

 何これ? シャイニングのエイリアンバージョン?


「小桜さん、今日はずっとスマホいじってましたけど」

「…………一度も生き残れず」


 違う! 僕が望んでいたシチュエーションと全然違う!


 どうやらこれは脱出ゲームと呼ばれる一種で、ホラー好きな小桜さんがそういうゲームがお好みなのは理解できるけど、プレイヤー名が僕ってどうなの?

 今日のお見舞い中ずっと、もしかしたらそれよりも前から、そしてこれからも僕の知らない所で僕の分身である“Yusuke.H”が小桜さんの手で次々と殺されていくってことだよね?


 ホラーゲームの実名プレイ怖すぎだろ!

 じゃあ僕も“Miyo.K”ってキャラ名で一緒に遊ぶとか狂気でしかないんですけど!


「ええっと、そのゲーム楽しいですか?」


 コクコク(首を縦に振る)


「そっかー。じゃあ僕は勉強に勤しみますので、小桜さんは好きなだけ楽しんで下さい」


 そうして黙々と勉強を再開。

 こうして小桜さんとの関係改善は叶わず、新しいサボテンがまた一つ窓際に追加されて、本日のお見舞い終了となったのである。

 脱出ゲームネタは「青鬼オンライン」を参考にさせていただきました。

 またシャイニングは「斧でドアを破壊」「双子が整列」のシーンは有名で知ってる人は結構いると思います。あとシャイニングの40年後を描いた「ドクター・スリープ」も2019年に公開されてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ