37話 準備不足
「……あれ?」
まさかの反応に小桜さんを見ると明らかに焦っている反応で、どうやらこの話題もNGらしい。
「あー、えーっと、美羽ちゃんはお姉さんと仲良しなの?」
「はい! とっても優しいおねーちゃんです!」
そうして美羽ちゃんが小桜さんにすり寄り、その頭を優しく撫でる様子はどう見ても仲良し姉妹で、保志先生の小桜姉妹不仲説は杞憂だったらしい。
それからは和気藹々とした雑談がスタート。小桜さんは相変わらず喋らないけど、美羽ちゃんが森谷さんにおねーちゃんをどうやって綺麗にしたのか、美容院がどんなところか、自分も髪型を変えてみようかなという話題に花が咲き、女子にとって美の話題に年齢は関係ないようだ。
そして美容室の話題な時、僕の何気ない一言で事態が急変する。
「僕もそろそろ髪を切りたいな」
入院してから髪が結構伸びたけど、ベッドから動けないこの状況では散髪に行くのは不可能で、退院まで我慢するしかないのだろうか?
そんな疑問に森谷さんが答える。
「じゃあ私が切ろうかな~? 大きな病院だと散髪コーナー常設、小さな病院では定期的に美容師が訪問だけど、看護師が切るケースもあるのよ~」
「へぇー、看護師ってそんなことまでやるんですね」
「場合によってはね~、そしてこの病院でバリカンを持たせたら、私の右に出る者はいないよ~」
「待って! それボウズ一択ですよね!?」
この抗議に、森谷さんがパッと出してきたバリカンを構えながら迫ってくる。
「私を信じなさ~い。それに看護師の散髪は無料でお買得だよ~。美容師免許がないのにお金取ったら問題になちゃうからね~。だから多少アレな結果になっても、それはご愛嬌ってことで~」
「ご愛嬌でボウズは割に合わない!」
「大丈夫よ~、羽生くんの退院はまだまだ先だから~、もし失敗しても生える時間あるから安心だよ~」
「余計安心できなくなった! それもう失敗前提の実験台じゃないですか! くっ、怪我のせいでベッドから動けない! 小桜さん、美羽ちゃん、助けて!」
と、迫ってくる森谷さんを拒否という冗談っぽいノリで助けを求めると、小桜さんはいつも通りに見守っていて、そしてずっと楽しげにしていた美羽ちゃんは、
あれ? 何だか様子が……
そう感じた瞬間に、
「おえええええええええええええ」
突然の嘔吐。
あまりにも脈絡のない出来事に僕だけでなく看護師である森谷さんまでもが硬直だけど、姉である小桜さんだけが冷静に美羽ちゃんの背中をさすっている。
「また吐いちゃった。ごめんねおねーちゃん」
「…………まだ、準備不足だったね」
事情は分からないけど、二人の反応からこの嘔吐は初めてではないのは明白。
しかも小桜さんが呟いた準備不足というキーワード。
その意味をすぐにでも確認したかったけど、美羽ちゃんがまた吐きそうになっていたので三人がトイレに移動。僕は怪我で動けないのでやむなく病室で待機。ソワソワと待つことしかできない自分に苛立っていると、程なくして病室の扉が開いて、美羽ちゃんの容体を伝えにきた森谷さんかと思いきや、現れたのは小桜さんのご両親だったのである。




