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33話 異臭トラブル

「……ごめんね。見ての通りの大怪我でベッドから動けなくて、一ヵ月以上お風呂に入ってないから」

「えー、それは可哀そう」


 心から可哀そうな者を見つめる純粋な瞳に、僕の心はもうオーバーキル。毎日蒸しタオルで念入りに拭いているし、何度か森谷さんに綺麗にしてもらったりしたけれども、やっぱり限界があったらしい。


 そしてこの衝撃の事実は、避けて通れない問題がある。

 小桜さんが、僕の異臭を我慢してお見舞いに来てくれているのではないかという懸念だ。


 小桜さんは無口でああいう性格だから、自ら不平不満を言うタイプじゃない。だから本当は臭くて呼吸すら躊躇うレベルだけど、妹を救ってくれた恩義で仕方なくお見舞いを続けていたとしたら、果てしない罪悪感でもう顔を合わせることすらできないよ!


「どうしたのおにーちゃん? 急に顔色が悪くなったけど、やっぱり死んじゃうの?」

「……ううん、おにーちゃん死なない。でも変な匂いはどうにかしたいなー」

「じゃあ私が拭いてあげる! 体育で使ったタオルあるから!」


 そう言ってランドセルからタオルを取り出してきたけど、焼け石に水でしかない。


「ありがとう。でもおにーちゃんは大丈夫だから」

「おにーちゃん臭いままでいいの? いま綺麗にしなきゃもっと臭くなっちゃうよ?」

「うぐっ、それは……」


 退院したら一日中風呂に籠って体を浄化する予定だったけど、放置した油汚れが取れにくくなるのと同じで、もしかしたら僕の体臭はもう呪いの装備が腐敗するレベルでヤバいのではないだろうか?

もしそうだとしたら、一刻も早く浄化する必要がある。


「じゃあ、お願いしてもいいかな?」

「任せて!」

「ならあの机に置いてあるファ●リーズも使ってくれない? 空になるまで吹きかけていいから」

「これ満タンだけどいいの?」

「うん、遠慮なくぶっかけていいから」


 そうしてパジャマを脱ぎ捨てて上半身裸になり、少女がベッドに上がってお互いの肌が触れ合う距離になってから僕の胸板を拭き始めた所で、



「羽生く~ん、一体何をしているのかな~」



 今までに見たことが無いほどの満面の笑顔を張り付けた森谷さんが出現して、この状況を客観的に見るとどうなるのか、今更ながらに理解したのである。

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