29話 相談のプロフェッショナル
「詳細は控えますが、彼女の母親はとても厳格だったらしく、小桜美夜さんは中学生の時に短期ですが入院しています。それから父親に引き取られる形で離婚、そのあとに再婚しています。今の家庭に問題はないと聞いていますが、再婚相手には娘がいて、新しくできた妹との関係に戸惑っている可能性があります。私から話せるのはここまでです」
「……あの」
「話せる範囲と事前説明しました。追及は禁止です」
「いや、そうではなくて」
どこにオブラートあったの!?
聞いていたこっちの方が「そこまでバラしていいの?」ってツッコミたくなるレベルで暴露しちゃったよねこの人!?
母親が厳しくて入院で離婚、そして言葉数が極端に少ない小桜さんを照らし合わせれば、どう考えても家庭内トラブルがあったとしか思えないし、義姉妹って情報も伝える必要なかったよね?
つまり僕が助けた小桜さん妹は、小桜さんにとって血の繋がりがない義妹ということになり、その妹が交通事故に巻き込まれて、それを僕が助けて、毎日献身的にお見舞いに来ている。
その胸中がどうなのか、そして僕のお見舞い後に小桜さんが家で妹とどう接しているのか、ちょっと考えただけでも胸焼けしそうな内容だ。
そんな爆弾投下をしてくれた保志先生に、一つの疑問を投げかける。
「保志先生は、保健室で生徒と相談をしているんですよね?」
「養護教諭です。それが私の仕事ですので、相談とあらば真摯に話をしています。つまり私は相談のプロフェッショナルです」
「じゃあ、評判はどうですか?」
この質問に保志先生が溜息を漏らしながら答える。
「最初はとても好評なのですが、回を重ねるごとに打ち切りを希望されたり、これは私の友達がという抽象的な表現になる生徒が多いですね。こちらは過去に聞いた話を参考に様々なアドバイスをしているのですが、最近の子は恥ずかしがり屋なのでしょうか?」
違います。
あなたが無自覚に暴露してるからです。
保志先生は悪い人ではなさそうだけど、自分の悩みを吹聴されるのは誰だって嫌だから当然の末路だ。
「なので君も悩みがあれば是非私に相談して下さい。今後も定期的に様子を見に来ることになっているので、怪我についても養護教諭として可能な限りアドバイスをします」
「……はい。分かりました」
そんな自信に満ち溢れた顔で言われたら、こっちはもう何も言えない。
だけど現時点で一番の悩みは小桜さんの過去と家庭事情を必要以上に知ってしまい、これからどう接すればいいのかということだが、当然ながらこの相談は不可能だ。
そんな悩みの種を振りまく相談のプロフェッショナルが帰っていき、数時間後にお見舞いに来るであろう小桜さんのことを思い浮かべて、どうしようもなく悩ましかったのは言うまでもない。




