23話 犯人はヤス
「このホラー小説、クライマックス前まで読みましたけど、怖いのにページを捲る手が止まりませんでした。ここの表現なんてもうぞわっとして、あとこの伏線が気になっていて、こいつが怪しいなーって思っていたらまさかの途中退場でビックリですよ」
コクコクコクコク(首を縦にふる×2)
勉強の息抜きに小説の感想会をしてみたら小桜さんがイキイキしっぱなしで、なんといつもの二倍速で反応してくれている。
一緒に映画を見た後の会話が盛り上がるのと同じで、互いに好きなシーン・台詞・キャラを分かち合えれば、楽しさが無限大に増殖していくのだ。
そうして僕の感想にコクコクと頷き、小桜さんの好きなシーンについて尋ねてみたら真剣は面持ちでページを捲り、それを交互に行う度に二人で一喜一憂を繰り返している。
たけど感想というのは人それぞれで、“このシリアス展開は不要だった”、“伏線回収できてない”、“このキャラ要らなくね?”という意見交換から衝突するケースも少なくない。
この争いを避ける為には価値観の押し付け・悪口染みた批判、要は相手を不快にさせる発言を控えれば大丈夫だけど、これが意外と難しい。
好きだからこそ譲れないという人は多いし、ポロっと失言は誰にでもあるからだ。
だけど小桜さんなら大丈夫。
全然喋らないので口論になりようがないからだ。
その分だけ僕が喋りっぱなしで大変だけど、小桜さんが楽しそうなので全然OKだ。
「まだオチが分からないけど、どうなるのかな? 個人的にはこの意味深な台詞が気になっているんですけど」
そう言ってとあるページを指さすと、小桜さんが首を横に振ってから別ページのとある文字を示してくる。
「え? ここ?」
そこは気にせずスルーした場面だけど、意味があるのか? だけど真相が全く分からずに悩んでいると、小桜さんが別ページのとあるシーンを示して、それでもオチが分からないけど、一つの仮定が浮かび上がる。
小桜さんが示したシーンはとあるキャラの言動で、自分がノーマークだった登場人物だ。
いくら考えても真相が分からない。
分からないけど……
「もしかして、このキャラが犯人?」
そう尋ねてみたら、数十秒硬直した末に、冷や汗だらっだらで首を横に振り始める小桜さん。
どうしよう、絶対こいつが犯人だ。
言うまでもなく物語のネタバレは禁忌である。
しかも推理系でやられた時のダメージは絶大で、人によっては読むのを断念する程の破壊力だ。
「そ、そっかー。じゃあ一体誰が犯人なのかなー?」
そう誤魔化してから続きを読もうとしたら、小桜さんがシュバっと小説を取り上げる。
「ちょっ、小桜さん?」
取り上げた小説を背中に隠し、涙目で首を振りまくる小桜さん。
ええっと、これどうすればいいの?
今がクライマックスで続きを読めばこれまでの謎が一気に紐解かれるのに、小桜さんが全力阻止という構図に激変。しかも僕は怪我で動けないから小説を取り上げることもできず、あえなく小説は没収。
結局この小説の事件は、解決せずの迷宮入りになってしまったのである。
小説に限らす、友達と感想を言い合うって楽しいですよねー。映画を見た後に上映時間よりも長く喫茶店で延々と語り合ったりとかありますよねー。




