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20話 ホラー物語の聖地

 小桜さんに貸す本、どうしよう。


 昨日は約束に舞い上がってしまい、好みのジャンルを聞きそびれたのは失態だ。小桜さんならなんでも喜んでくれそうだけど、本好きとして適当に貸すなんてありえないのだ。


 僕が一番好きな作者は何といっても村●春樹先生だけど、あれは好みが分かれる内容だし、それなら村●違いで村●龍はどうだろうか? それとも知名度の高い三●由紀夫、或いは若者に人気がある桜●一機、米●穂信も捨てがたい。

 だが待て、小桜さんの本好きレベルが分からない以上、もっとライトにした方がいいのかもしれない。そうなると王道ベストセラーの恋愛小説が無難だし、ラノベだってテンプレハーレムじゃない物語も沢山ある。或いは映像化された作品はどうだ? 映像を見てから小説を読むのも面白いし、テレビで大ヒットした倍返し銀行マン物語も……、駄目だキリがない。


 とにかく初めて本を貸すのなら、読みやすい・ページ少なめって条件は外せない。

 そして自分が気に入っている作品にしよう。


 そんなこんなで悩み抜いた末、SF要素のある恋愛小説を選択。これは読みやすくてページも二百ちょい、レビューも高評価・映像化もした作品で、作者も超有名で、何よりも自分が大好きな物語だ。


 そうして小桜さんに貸す小説が決定して、ソワソワと待ち続けて、そして遂に小桜さんが来てくれたんだけど、


「なんですかその重そうなバック!?」


 巨大なトートバックを抱えた小桜さんが登場。おぼつかない足取りでドスッという音と共にバックが置かれてチャックが開かれると、そこにはギッシリと本が詰まっていたのだ。


 これ、百冊くらい入ってないか?

 確かに冊数指定はなかったけど、この量を素直に喜べるのは少数派だろう。


「あ、ありがとうございます。それで一体どんな本を?」


 面食らったけど、自分の為にこれだけの本を持ってきてくれたと思えば嬉しくなる。

 そして小桜さんの好きな本が何なのか確認してみたら、



・怪談百物語

・本当にあった怖い怪談シリーズ

・百鬼夜行

・家がお化け屋敷

・スクールオブゾンビ

・かにみそ etc



 ええー、全部怖い話っぽい!

 確かに小桜さんはミステリアス寡黙キャラでイメージと一致だけど、いきなり大量のホラー本を貸してくるってどうなの!?


 いや、考えるのは止めよう。

 本に限らず相手の好みにケチをつけるのはご法度だ。


「じゃあ……、少しずつ読んでみますね」


 そう答えたけど、ここまでの量を退院までに読み終えることができるのだろうか?

 一日一冊でも三ヵ月以上だし、そのうえホラー小説の連投ってキツくないか?


 別に苦手って訳じゃないけど、ホラーの聖地である病院で読むのは怖さマシマシで、しかも僕は怪我で入院中という怪談なら真っ先に殺される役割で、ついでにベッドから動けない……、


 あれ?


 そういえば僕は今、ベッドから動けずトイレにも行けないオムツ野郎だ。なのにホラー小説を読んで怖くなった後、そのままオムツで致すのは、とてつもない羞恥プレイになるのではないだろうか?


 勿論これはおもらしじゃない。

 ないけども……、もの凄く抵抗がある!


 うん。これは断わろう。


 ホラーは好みが分かれる分野だし、それに拒否じゃなくて退院後に読むっていう延期のお願いならきっと分かってくれるだろう。

 そう判断して小桜さんにお断りしようとしたら、


「…………感想、……待ってるから」


 とっても嬉しそうで、今までとは違う柔らかい口調で喋ってくれた小桜さんに撃沈。

 ここで断ったら男として失格と悟り、覚悟と共に尻の穴を引き締める。


 いいだろう。

 小桜さんの笑顔を守る為なら、喜んでクソ漏らし系男子になってやろうじゃないか!

 そう心に誓い、ホラー小説漬けの日々がスタートしたのである。


 あと僕が選んだ小説は、快く受け取ってくれました。

 伏字オンパレードですみません。なお羽生くんが貸した小説は新海誠「ほしのこえ」です。主人公とヒロインの広がっていく距離が切なくて、とても面白かったです。

 あと私が知る限り“クソ漏らし系男子”は監獄学園のガクトしか心当たりがありません(笑)

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