19話 本の数だけ作者のメッセージがある
入院中の時間潰しは人それぞれだが、僕は何と言っても小説!
ただひたすらに小説を読み続けている。
小説好きは読むペースよりも買うペースの方が早く、しかも高校受験で半年近く新刊を買うだけでお預けの日々だったから小説貯金が凄いことになっているので、親に頼んで小説を持ってきてもらっているのだ。
そして小桜さんとの勉強以外はひたすら読書で、今日はどの小説を読もうかと悩んでいたら、小桜さんがこちらを見ていることに気付く。
「そういえば小桜さんも読書が趣味でしたよね? 僕のオススメを貸しましょうか?」
本の数だけ作者のメッセージがある。
そのメッセージを文字を通して理解しあうのが、たまらなく面白いのだ。
しかも感想は人それぞれで、同じ物語を共有したのに全然違う場面で感動していたり、時にはノーガード殴り合い口論になったりもするけど、そういう部分も含めて本の魅力だ。
だから小桜さんが本好きなら仲良くなりたいし、物語を共有して語り合ってみたいと思うのが本好きの性なので誘ってみたのだけど、
「…………」
返事はいつも通りの無言。普通なら引き下がる場面だけど、よく見れば小桜さんの指先がモジモジと動いていて、何かいいたげなのが分かる。
コミュニケーションで最適な手段は言葉だけど、表情や仕草でも伝わってくることも多くて、むしろ小桜さんは言葉を使わずにコミュニケーションを取ろうとする節がある。
だから小桜さんが何か伝えようとしているのではと判断して待っているのだけど、
「…………」
どうしよう。沈黙が長い。僕の推察はただの妄想といわれればそれまでで、今すぐにでも「嫌ならいいですよ」とお断りをいれるべきか? それとも自分を信じて待つべきか、そんな優柔不断で決断できずにいたら、それが功を奏して小桜さんが口を開く。
「…………待って」
うぐっ、駄目だったか。
同じ本好き同士として残念だけど、無理強いはできない。
そう思って諦めようとしたんだけど、小桜さんがまだ身構えていて、どういうことかと分からずにいたら、小桜さんが待っての続きを述べてきたのだ。
「…………私も、……貸すよ?」
そう照れくさそうに言い切った小桜さんにドキッとしてから快く同意。
明日お互いのオススメ本を貸し合うことになったのである。




