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16話 やる気スイッチ

「じゃあ2人共、これに“やってみたいこと”を書きなさ~い」

「唐突ですね」

「いいからいいから~。興味があるけど行動に移せない、こういう挑戦をしてみたい。過去の経験でこうすれば良かったって反省でもいいから、そんな願いを一つだけ書いてね~。制限時間は1分! はいスタート!」


 この提案に僕と小桜さんは訳も分からずペンを取り、己の願望を記したメモを森谷さんに手渡す。


「は~い、これで問題解決ね~」

「森谷さん、せめて説明してからその台詞を言ってください」

「じゃあ問題、羽生くんは勉強するのに一番必要なのは何だと思う?」

「それは……、やる気とか?」

「違うよ~。そんなフワフワしたものじゃ人間頑張れないよ~。今日の羽生くんみたいに~」


 うぐっ、イラっとするが言い返せない。

 やる気なんて曖昧なものを維持するには揺るがない精神力が必要で、些細な誘惑で大きく揺らいでしまうもろい感情だ。


「なら精神統一ですか? それともリフレッシュ?」

「それじゃ一生勉強できないよ~。ずばり正解は"ご褒美"で~す」


 身も蓋もない答えだけど、それでも森谷さんがドヤ顔で解説を続ける。


「遠くの漠然とした目標よりも、目の前にある俗物的なモノの方が頑張れると思わない? 将来の為に頑張れって言われるより、次のテストで満点取ったらお小遣い10倍って方がやる気でない?」


 おおっ、確かにその通りだ。

 将来なんていくら考えても分からないし、森谷さんの案は単純だけど、だからこそ分かりやすい。

 そしてさっき書いたメモを見せつけながら森谷さんが答える。


「そしてこれがそのご褒美よ~。こういうのは自然に書かせないと意味がないからね~」

「いやかなり強引で不自然でしたけど?」


 ツッコミどころ満載だけど、あのメモには僕が心から求めるモノが記載されていて、もしかしてそれを森谷さんが用意してくれるのか?

 それならすっごいやる気でるんですけど。


「さてさて羽生くんの思春期むき出しな欲望は何なのかな~。手が痙攣するまでおっぱい揉みたいって書いてあったら、お姉さん困っちゃうな~」

「そんな最低な欲望じゃないです。あとどうして森谷さんが困るんですか?」


 そうして森谷さんがメモを開いて僕の望みを確認してみると、



 "村●春樹先生と握手したい"



 ベリッ!(無言で破り捨てる森谷さん)


「ああああああああああ!? 何てことを!?」

「え? これ冗談じゃなかったの?」

「当然ですよ! 村●先生がえがく物語はどれも最高で、再読する度に面白さが加速していって、もう新刊発売日に読破でなかったら死ぬくらい大好きです! サイン会に行った時、握手していいですかと言えなくて酷く後悔しましたから!」


 そんな心の叫びに森谷さんがガックリと肩を落とした後、じーっと話を聞いていた小桜さんの肩を持って僕の方に近づけてくる。


「だから羽生くんはモテないのよ~。すぐ傍にこ~んな魅力的な女の子が居るのに」

「いや、僕のご褒美と小桜さんは関係ないですよね?」

「羽生くんは毎日献身的にお見舞いに来てくれる女の子は好きじゃないの?」

「ええっと、小桜さんには感謝していますし、好意的に思ってますよ」


 どうして小桜さんが引き合いに出されるんだ?

 もしかして小桜さんが僕の彼女って勘違いしているのか?

 でも前に彼女じゃないって説明したし、森谷さんの意図がサッパリ分からない。


「はぁ、念のため保険を用意して正解だったわ~」


 そんな溜息をした後にもう一つのご褒美、小桜さんがやってみたいことが書かれたメモを確認すると、森谷さんがニヤッと微笑む。


「良かったね羽生くん、明日からやる気全開で勉強できるわよ~」

「えっ!? 小桜さんも村●先生を?」

「違うよ~。じゃあこうしましょう。羽生くんが次のテストで平均以上なら、美夜ちゃんのご褒美を羽生くんの前で披露するの」


 なぜそうなる?

 頑張って考えてみたけど、やっぱり森谷さんの提案が理解できない。


「あれれ~? どうして二人とも不思議そうな顔なの?」

「当たり前です。何で小桜さんのやってみたいことを僕に披露?」

「え~、羽生くんは見たくないの? 美夜ちゃんのやってみたいこと」

「それは……、ってそもそも小桜さんの望みって何?」


 そう訴えてから小桜さんを見てみると、



 モジモジ(照れくさそうに頬を赤らめる)



 え? 何その反応?

 お困りなご様子の小桜さんだけど、正直こっちの方が困惑なんですけど。


「うふふ~、やる気でた?」

「森谷さん、小桜さんのお願いって、僕に披露しても大丈夫なやつですよね?」

「それが知りたいなら、お勉強を頑張りなさ~い」

「これ頑張っていいヤツですよね? 変なプレイになってたりしませんよね?」


 その後も追及したけど、何も答えてくれないままこの話題は終了。

 こうして僕は小桜さんのやってみたいことを実現すべく、頑張ることになったのである。

 村上春樹は超有名な小説家。その読書ファンはハルキストと呼ばれています。現代で有名な小説家ということで引用させていただきましたが、本文では一応伏字。商標・名誉棄損になる酷い表現でなければ伏字でなくてもOKらしいですが、この辺の境界線はよく分からないので。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見るからに甘酸っぱくなりかけの、色づき始めた果実のような二人の関係がいいですね。文章も軽妙で読みやすかったので続きにとても期待しています。 あとはなんというか、この看護師やりおるわ……!
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