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15話 お節介ナース

「あれ? 小桜さんが私服だ」


 無地のワンピースに薄いカーディガンという控えめな格好だけど、それが大人しい小桜さんのイメージにピッタリで、髪も花装飾のヘアピンで整えられてよく似合っている。

 大きなメガネ・長い前髪のもっさり感はそのままだけどね。


「家に帰ってから来たんですか?」


 コクコク(首を縦にふる)


「わざわざ遠回りしてお見舞いに来なくても」


 フルフル(首を横にふる)


「いやでも」


 フルフル(首を横にふる)


 ううーん、小桜さんって意外と頑固? そう思っていたら小桜さんがスマホを差し出し、そこには地図が表示。最寄り駅とこの病院の中間地点に小桜家というアイコンがあり、どうやら遠回りにはなってないらしい。それに勉強会で帰りが遅くなるし、それなら一度帰宅してからお見舞いの方が都合もいいのかもしれない。


 あと、やっぱり女の子はちょっと手を加えるだけで化けるんだなと感心。これでもっさり前髪とメガネもどうにかしてくれたらなと思ってたら、当の小桜さんと目が合い、そんな妄想をしていたせいで心臓が高鳴る。


「やっ、なんでもないです。ところで小桜さんは何を?」


 小桜さんが見ていたのは僕のノートで、今日の自習をちゃんとしていたかのチェック後、小桜さんが詰め寄ってくる。

 ほぼ真っ白なノートを掲げながら。


 その瞳に映る感情は怒りや呆れではなく疑問符。どうしてこの子は勉強をしなかったのだろう? と心底不思議そうな顔になっていて、それが下手な叱咤よりも胸に刺さり、己の未熟さを懺悔するように弱い自分を暴露する。


「すみません。最初は頑張ったんですけど、誰も居ない病室で勉強は緊張感が保てなかったといいますか、ちょっとくらい休んでもいいかなーって小説を読み始めたらズルズルと時間が過ぎていきまして」


 そんな言い訳を並べながら、親に頼んで持ってきてもらった大量の小説が枕元にある光景をじーっと見つめる小桜さん。


 いや、自分でもダメって分かってるよ? せっかく留年を見送ってもらえたのに何やってんだと思うけれども、入院は三ヵ月以上だからちょっとくらいダラけてもいいよねって誘惑に一人で勝つのは不可能だ。


「これは登校できるようになったとしても、留年まっしぐらだなぁ」


 そんな弱気発言にフルフルと首を横に振る小桜さん。

 だけどやる気が出なければどうしようもない。


 事情が事情だし、退院後のテストが赤点でも補習でどうにかなるだろうって甘えが消せないのだ。病人という弱い立場を利用したゲス行為なのは百も承知だけど、実際そういう立場になると人は誘惑に屈してしまう生き物なのである。


 と、そんな免罪符を振りかざしていたら、小桜さんがこちらに来て、僕の手をギュッと握りしめながら僕の目を真正面から見据えくる。


 うぐっ、目が逸らせない。


 いつも通り何も喋ってくれないけど、何を伝えようとしているかは一目瞭然。

 一緒に頑張ろうと訴えているのだ。

 そんな小桜さんの気迫に圧されて何も喋れずに見つめ合う状態が続いていたら、


「あらあら~、夕食を持ってきたけど、もう二人の愛でお腹一杯かな~?」


 看護師の乱入で会話が強制中断。

 因みにこの看護師は森谷さんという二十代中盤のお姉さんで、前に小桜さんの前でオムツ暴露をしたお節介大好きナースである。


「違います! これは勉強の話で!」

「一体何の勉強かな~? 保健体育なら退院後にしてね~」


 そんな冗談をたれ流す森谷さんの誤解を解くべく事情説明すると、僕と小桜さんを見比べてからメモ用紙を差し出してくる。

 学校や塾って、皆が勉強してるから自分も勉強しようって空気になれますよね。そういう環境作りが授業内容より重要だと思ったりしています。

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