10話 留年
なるほどね。
確かにそれは充分過ぎる理由で、言い出しづらい内容だ。
最近、妹と称される子を助けた憶えは一人だけで、この有様だ。
だけど後悔や恨みはないし、意識を取り戻した時に助けた子も無事と知らされて、じゃああとは自分が怪我を治すだけだなとしか思わなかったくらいだ。
「妹さん、元気ですか?」
コクコク(首を縦にふる)
「それは何より。じゃあ僕のことは気にしなくていいですよ」
フルフル(首を横にふる)
「いや、だけどあれは不幸な事故で、小桜さんが気に病む必要はないですよ。治療費も加害者家族が全額負担で話し合い済みなので……」
フルフル(首を横にふる)
気負ってほしくないのに、小桜さん的には譲れないらしい。
てゆーか妹を助けた男を姉が献身的にお見舞いって、それなんてラブコメ?
展開が王道過ぎて逆に新しいな。
「とにかく、無理してお見舞いに来る必要はないですよ」
小桜さんの負担になりたくないという思いでそう伝えたが、小桜さんの表情がどんどん曇っていき、涙目になり始めた所で、
「すみません嘘です! 心細くて死にそうだから毎日お見舞いに来て下さい!」
即フォローを入れて小桜さんが安堵。
ここまで献身的な女の子をこれ以上無碍にするのは男として失格なので、もう諦めるしかない。
「だけど小桜さん、実際することないですよ? 医者からも安静にって指示だけですから」
リハビリもできない状態だし、ココに来ても暇を持て余すだけと思っていたら、小桜さんが手紙を差し出してくる。
「担任から僕に?」
宛先にそう書いてあったので読んでみると、
“羽生悠助君、入学おめでとうございます。
そして事故による入院、心よりお見舞い申し上げます。
お話によれば怪我は全治三ヵ月以上。つまり一年の1/3以上学校を休むことになり、校則通りなら君は留年になります”
「留年っっ!?!?」
あんまりな現実に絶叫。
まだ一度も登校してないのに留年決定!?
これじゃ怪我が完治した二学期から登校しても留年決定済みで希望がないし、クラスでも浮きまくりで絶対に居づらくなるし、下手をすれば退学を薦められる可能性だってある。
そうなったら高校受験からやり直し!?
それとも中卒で就職活動!?
「終わった」
そんな絶望的な未来に打ちのめされて、顔から表情が消滅。
焦点が定まらないうつろな目で涙を浮かべていたら、小桜さんがワタワタと慌てはじめる。
「…………あの、……まだ続きがっ」
小桜さんが必死に励まそうとしているけど、もう虚勢を張る余裕さえもない。
「一人にして下さい」
女の子の前で情けないのは百も承知だけど、それでも今は泣きたい気分だ。
だから小桜さんが病室から出ていくのを待っているのに一向に出て行ってくれず、ならもういいやと諦めて小桜さんの前でみっともなく泣こうとしたら、
「…………大丈夫っ! 責任、取るからっ!」
高校の年間授業日数は約200日。その内1/3(66日)以上の欠席で留年になる学校が多いですが、厳しい所では1/5(40日)で留年だそうです。




