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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
99/373

(アリス)23

 俺は教官に左前蹴りを放った。

受け流された。

体勢まで崩された。

そこまでは想定内済み。

崩されるがまま最後の力を振り絞り、

入って来た相手に裏拳を叩き込んだ。

これも受け流された。

そして次の瞬間、ポンと押されて芝生に転がされた。

俺は受け身を取った。

素速く起き上がり、息を整えながら構え直し、教官の出方を窺った。

 教官は満足そうな表情で俺を見遣った。

「ここまで。

うん、勘は良い。

足りないのは手足のリーチだけだ」

 クラスは格闘技の授業中。

何故か俺は冒頭で、教官の御指名で自由組み手をやらされた。

すでに三本目なのだが、一つとして通用しない。

 教官は俺を待たせたまま、全員を見回した。

「見ていたように敵は待ってくれない。

倒されても直ぐに立ち上がって対応をすること。いいな」

 クラスのみんなは元気の良い返事をして、それぞれ組み合った。

それを満足そうに見遣った教官が俺を振り向いた。

「疲れたか。少し休め」

 確かに疲れた。

俺は授業の邪魔にならぬように木陰に移動し、腰を下ろした。

身体強化スキルを使わないので教官には全く敵わない。

マジで疲れた。

でも手応えは得た。

卒業までには素の体力で教官と互角の勝負が出来るはずだ。

たぶん。

 

 アリスからの念話が飛び込んで来た。

『見つけた、見つけた』興奮していた。

『何を』

『私を騙した爺よ。

今、南門に向かっているわ』

 念話の成立する送受信距離が少しずつ伸びていた。

理由は知らないが、今は幼年学校の外にいても明確に届く。

もしかして、単なる慣れなのか。

アリスからの明確な説明はない。

『尾行は良いけど気付かれるなよ』

『分かっているわよ』

『それでどんな様子なんだ』

『これから外に出るみたい。

誰もいなくなったら殺してやるわ』本気だ。

『落ち着け、落ち着け。

年寄りは旅にでも出るつもりなのか』

『荷物がない、・・・ちょっと外に出掛ける感じかな。

んっ、別の奴が、・・・三人ほど。

離れているけど、時折顔を見合わせているわ。

絶対、仲間に違いないと思う』

『様子見だ。

様子見して、相手の情報を集めろ。

どこに住んで、どんな仕事をして、どんな魔法を使うのか、

とにかくお前が殺す時は俺が援護する』

『協力してくれるの』

『眷属だろう』

 脳筋妖精を放し飼いにすると色んな意味で不安だ。

俺が手綱を握るしかない。


 クラークは南門から外に出た。

気のせいか、後頭部がチリチリした。

殺気混じりの視線。

けれど振り向かない。

人気のない所に誘い込み、捕らえて尋問する、そう考えた。

 ゆっくりした足取りで巨椋湖方向に向かった。

昨日のうちに周辺地図は頭に入れていた。

行き交う人波に埋もれるように街道を下り、途中から間道に逸れた。

 これに視線も付いて来た。

長年の経験で培った勘が敵と認定した。

相手は対立するテレンスファミリーか、官憲か。

無事に終わらぬ感がヒシヒシと伝わって来た。

 荷馬車が当然通ったであろう道筋を辿って行く。

間道だからだろう、次第に人影が少なくなっきた。

その途中で足を止め、後続を待った。

やがて現れた三人。

恰好は冒険者。

実際に冒険者ギルドに在籍もしているが、本職はザッカリーファミリーだ。


「尾行はありません」一人が言う。

 知らぬ奴等ではない。

娼館の用心棒で腕も立つ。

今回はサンチョの命令でクラークを守るのが役目だ。

三人揃って尾行者に気付かぬ訳がない。

 クラークは悠然と来た道を振り返った。

気配察知スキルはないが、これまでの経験がある。

左右も見回した。

確かに人影はない。

隠れている様子もない。

今回の仕事のせいで神経が昂ぶっているのか。

クラークは頭を切り換えた。

「ようし行くか」

 それでも敵の目を想定して慎重に進んだ。

案に相違して障害はなく、魔物との遭遇が少々。

現れたザコ魔物を用心棒三人が連携して討伐した。

 現場は直ぐに分かった。

死骸は何一つ残されてないが、無数の蹄の跡でそれと分かった。

踏みしだかれた雑草や藪が現場の広さであり、

薙ぎ倒された木々や折られた枝が死闘を物語っていた。

 クラークの目的は一つ。

荷馬車の消息。

血眼とまでは言わないが、用心棒三人の目もあるので丁寧に探した。

範囲も広げた。

でもそれらしい物は見つけられない。

破片ですら見つけられない。


 調べを終えたクラークは夕方近くには南門を潜った。

再び視線を感じたが気に留めぬことにした。

このままでは疑心暗鬼になってしまう。

現れてから対処すれば良いと自分に言い聞かせた。

 用心棒三人は討伐した魔物の素材を冒険者ギルドに持ち込む、

と言うので手前で別れた。

娼館に戻ると地下でサンチョが待っていた。

「どうだった」

「現場には木切れ一つなかった。

曳いていた馬が暴走して逃げたのか、騎兵隊が押収したかだな」

「暴走した荷馬車の目撃情報はない。

裏から手を回して調べたが押収もない。

騎兵隊で勝手に横取りした様子もない。

となればテレンスファミリーに聞くしかないな」

「どうやって聞く。

簡単に応じてくれるのか」

 サンチョの表情が和らいだ。

「掠うまでだ」

「相手に心当たりがあるようだな」

「ある」

「すでに特定済みか」

「ああ、掠った後はアンタに頼みたい」

「【奴隷の首輪】で充分じゃないか。

ペラペラ喋ってくれるだろう」

「それじゃあ詰まらん。

久しぶりにアンタの技を見せて貰いたい」目が笑っていた。

「趣味が悪いな」

「報酬ははずむ」

「当然だろう。

【奴隷の首輪】の術式は簡易だが、俺の契約スキルは別物だ」

 サンチョが立ち上がった。

「さあて、行くか」

「俺もか・・・。

まさか、二人で掠う、とは言わないよな」

「当たりだ。二人なら人目に付かない。

帰りは三人だがな」

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